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閑話 王弟アルベルト
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リーゼと帰国できる喜びを噛み締めて、彼女のいる叔父上の邸に迎えに行った私達だが……
「リーゼ……。私は命ある限り君の幸せを祈っている。気を付けて帰りなさい。」
「おじ様、私も……おじ様の幸せをお祈りしております。
ここでおじ様と過ごした日々のことは、一生忘れることはないでしょう。本当に幸せでした。
お身体に気をつけて……」
「ああ……。私もリーゼのことはずっと忘れない。
だからそんな悲しそうな顔をしないでくれ……
最後なのだから、リーゼの笑顔を見せてくれないか?」
「……っ!……はい。おじ様も、そんな寂しそうな顔をしないで下さい。
またいつか会いましょう。サヨナラは言いませんわ。」
「……そうだな。また来なさい。
私はいつでもリーゼを待っているよ。」
「おじ様……」
一体何を見せられているのだろうか……
目を潤ませて叔父上との別れを惜しむリーゼと、別れの悲しみを必死に堪え、優しく言葉を掛ける叔父上。
お互いを見つめ合い、二人だけの世界に入っているみたいだ……
この二人はどんな関係だったんだ?
あの冷静なクリフォード卿が言葉を失っている。
涙を流しながら叔父上と別れたリーゼは、馬車の中でも泣き続けている。
クリフォード卿ですら、そんなリーゼを見て戸惑っているようだ。
「エリーゼ……、もう泣くのはやめたらどうだ。」
「グスッ……お義兄様、わ……私の涙が、止まってくれないのです……」
「リーゼは、そんなに叔父上の邸が良かったのか?」
「はい……。私はおじ様が大好きでしたので、別れが辛いのですわ。」
「そ、そうか。大好き……か。
あの叔父上が、リーゼは大好き……なのか。」
叔父上がリーゼを可愛がっていたのは分かっていた。愛した人にそっくりのリーゼを近くに置いて、見守り続けたかったのかもしれない。
リーゼが泣きながら別れを惜しむ姿を見せられて、大好きなんて聞かされたら複雑な気持ちになってしまう。私はリーゼからあんな目で見つめられたことはない。
ハァー……叔父上に嫉妬する自分に嫌気が差す。
リーゼの記憶喪失が治らなかったら、きっと彼女は帰国を拒否していただろう……
港に到着した私達を待っていたのは、予想通りの人物だった。
「帰国する前に、クリフォード公爵令嬢と話をさせてもらえませんか?」
私とクリフォード卿しかいなければハッキリ断っていたが、リーゼがいる前で酷い態度は取れなかった。
「お義兄様、殿下……、ストークス様と最後に話をさせてもらってもよろしいですか?」
「エリーゼ、私と殿下は近くで待つ。時間がないから急いでくれ。」
「はい。」
ストークス卿は来るだろうと思っていた。
グーム国で社交をして分かったことだが、叔父上の言う通りに評判のいい男らしく令嬢たちに人気らしい。
だが、侯爵家の権力を利用してリーゼに言い寄った男を私は許せなかった。
この男はリーゼに謝罪をしているようだが、恐らくこの後に……
「クリフォード公爵令嬢。私は、君のことが……」
「リーゼ!そろそろ乗船時間だ。」
私はストークス卿が最後に告白しようとする瞬間を逃さなかった。
人のいいリーゼは告白されたら、断ることすら心を痛めるだろう。私はそうなる前に、二人の会話を遮ることにしたのだ。
「……ストークス様、お世話になりました。
どうかお元気で。」
「……ああ。君も元気で。」
自分でも腹黒だという自覚はある。
リーゼを守るためなら腹黒や悪魔、悪党にだってなってやる……
そしてリーゼを探す旅は終わった。
リーゼが王都に戻り日常生活を取り戻した後、クリスティーナとの再会を果たす。
私は執務が忙しく、残念ながらクリスティーナの茶会には参加出来なかった。
「おじ様。今日のお茶会にはお姉様とお兄様が来てくれて、一緒に隠れんぼして遊んだのよ。
お兄様は本を読むのがお上手だったわ!」
「クリフォード卿が一緒に遊んだのか?」
「ええ!」
あのクリフォード卿が隠れんぼをするのか?
幼いクリスティーナに本を読んであげたなんて想像出来ない……
それよりもクリスティーナは、リーゼの義兄のクリフォード卿を『お兄様』と呼んでいるらしい。
私を『おじ様』と呼び、私より年上のクリフォード卿を『お兄様』と呼んでいるのは複雑な気持ちになるが、それは私の心の中だけにしまっておこう。
クリフォード卿は本当に変わった。
茶会に参加するリーゼのために、仕事を休んでまで付き添いをし、リーゼに数人の護衛騎士まで付けているらしい。
クリフォード公爵から聞いた話だと、護衛騎士はクリフォード卿が選んだとか。
今までは王宮の寮で生活していて滅多に実家には帰らなかったのに、今は公爵家に戻って生活していると聞く。
そして最近、王宮内で噂になっているのは……
「殿下。あのクリフォード卿が、毎日のランチに食べているお弁当は、義妹のクリフォード公爵令嬢が作ったサンドイッチらしいです。
クリフォード卿の健康を考えて、野菜がたくさん入ったサンドイッチらしいですよ。
あのクリフォード卿が、義妹君を可愛がっていることに驚きでした。」
「……そうみたいだな。」
「令嬢が社交する時は、必ずクリフォード卿が付き添いで一緒に来るらしいですよ。
仕事が忙しい方だと思っていましたが、仕事よりも義妹君を大切にしているようですね。意外でした。」
「……ああ。」
リーゼとの仲を深めたいと考える私にとって、最大の脅威はクリフォード卿だと確信した。
「リーゼ……。私は命ある限り君の幸せを祈っている。気を付けて帰りなさい。」
「おじ様、私も……おじ様の幸せをお祈りしております。
ここでおじ様と過ごした日々のことは、一生忘れることはないでしょう。本当に幸せでした。
お身体に気をつけて……」
「ああ……。私もリーゼのことはずっと忘れない。
だからそんな悲しそうな顔をしないでくれ……
最後なのだから、リーゼの笑顔を見せてくれないか?」
「……っ!……はい。おじ様も、そんな寂しそうな顔をしないで下さい。
またいつか会いましょう。サヨナラは言いませんわ。」
「……そうだな。また来なさい。
私はいつでもリーゼを待っているよ。」
「おじ様……」
一体何を見せられているのだろうか……
目を潤ませて叔父上との別れを惜しむリーゼと、別れの悲しみを必死に堪え、優しく言葉を掛ける叔父上。
お互いを見つめ合い、二人だけの世界に入っているみたいだ……
この二人はどんな関係だったんだ?
あの冷静なクリフォード卿が言葉を失っている。
涙を流しながら叔父上と別れたリーゼは、馬車の中でも泣き続けている。
クリフォード卿ですら、そんなリーゼを見て戸惑っているようだ。
「エリーゼ……、もう泣くのはやめたらどうだ。」
「グスッ……お義兄様、わ……私の涙が、止まってくれないのです……」
「リーゼは、そんなに叔父上の邸が良かったのか?」
「はい……。私はおじ様が大好きでしたので、別れが辛いのですわ。」
「そ、そうか。大好き……か。
あの叔父上が、リーゼは大好き……なのか。」
叔父上がリーゼを可愛がっていたのは分かっていた。愛した人にそっくりのリーゼを近くに置いて、見守り続けたかったのかもしれない。
リーゼが泣きながら別れを惜しむ姿を見せられて、大好きなんて聞かされたら複雑な気持ちになってしまう。私はリーゼからあんな目で見つめられたことはない。
ハァー……叔父上に嫉妬する自分に嫌気が差す。
リーゼの記憶喪失が治らなかったら、きっと彼女は帰国を拒否していただろう……
港に到着した私達を待っていたのは、予想通りの人物だった。
「帰国する前に、クリフォード公爵令嬢と話をさせてもらえませんか?」
私とクリフォード卿しかいなければハッキリ断っていたが、リーゼがいる前で酷い態度は取れなかった。
「お義兄様、殿下……、ストークス様と最後に話をさせてもらってもよろしいですか?」
「エリーゼ、私と殿下は近くで待つ。時間がないから急いでくれ。」
「はい。」
ストークス卿は来るだろうと思っていた。
グーム国で社交をして分かったことだが、叔父上の言う通りに評判のいい男らしく令嬢たちに人気らしい。
だが、侯爵家の権力を利用してリーゼに言い寄った男を私は許せなかった。
この男はリーゼに謝罪をしているようだが、恐らくこの後に……
「クリフォード公爵令嬢。私は、君のことが……」
「リーゼ!そろそろ乗船時間だ。」
私はストークス卿が最後に告白しようとする瞬間を逃さなかった。
人のいいリーゼは告白されたら、断ることすら心を痛めるだろう。私はそうなる前に、二人の会話を遮ることにしたのだ。
「……ストークス様、お世話になりました。
どうかお元気で。」
「……ああ。君も元気で。」
自分でも腹黒だという自覚はある。
リーゼを守るためなら腹黒や悪魔、悪党にだってなってやる……
そしてリーゼを探す旅は終わった。
リーゼが王都に戻り日常生活を取り戻した後、クリスティーナとの再会を果たす。
私は執務が忙しく、残念ながらクリスティーナの茶会には参加出来なかった。
「おじ様。今日のお茶会にはお姉様とお兄様が来てくれて、一緒に隠れんぼして遊んだのよ。
お兄様は本を読むのがお上手だったわ!」
「クリフォード卿が一緒に遊んだのか?」
「ええ!」
あのクリフォード卿が隠れんぼをするのか?
幼いクリスティーナに本を読んであげたなんて想像出来ない……
それよりもクリスティーナは、リーゼの義兄のクリフォード卿を『お兄様』と呼んでいるらしい。
私を『おじ様』と呼び、私より年上のクリフォード卿を『お兄様』と呼んでいるのは複雑な気持ちになるが、それは私の心の中だけにしまっておこう。
クリフォード卿は本当に変わった。
茶会に参加するリーゼのために、仕事を休んでまで付き添いをし、リーゼに数人の護衛騎士まで付けているらしい。
クリフォード公爵から聞いた話だと、護衛騎士はクリフォード卿が選んだとか。
今までは王宮の寮で生活していて滅多に実家には帰らなかったのに、今は公爵家に戻って生活していると聞く。
そして最近、王宮内で噂になっているのは……
「殿下。あのクリフォード卿が、毎日のランチに食べているお弁当は、義妹のクリフォード公爵令嬢が作ったサンドイッチらしいです。
クリフォード卿の健康を考えて、野菜がたくさん入ったサンドイッチらしいですよ。
あのクリフォード卿が、義妹君を可愛がっていることに驚きでした。」
「……そうみたいだな。」
「令嬢が社交する時は、必ずクリフォード卿が付き添いで一緒に来るらしいですよ。
仕事が忙しい方だと思っていましたが、仕事よりも義妹君を大切にしているようですね。意外でした。」
「……ああ。」
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