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私の食堂
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お義父様とお義母様に平民街で食堂を開きたいと言ったら、予想はしていたが難色を示された。
「エリーゼのためにオスカーが店を買ったと聞いていたが、それは本当だったのか」
「はい。私が空き店舗を見て可愛い店が好きだと言ったら、お義兄様がすぐに買って下さいました」
「オスカーがリーゼに店をプレゼントしたってことなのね?
あのオスカーが……、信じられないわ」
義両親は、あの偏屈が私に店を買ってくれたことが未だに信じられないようだった。
三人で話し合った結果、公爵家の使用人や騎士を店の店員として置くということと、私が店に出る時は変装をするという条件で店をやっていいと許可がおりた。
お義父様もお義母様も、平民が使う食堂で公爵令嬢が働くということが嫌だったようだ。
その気持ちは痛いほど分かる……。でもあのお店を見てずっと可愛いって思っていたから、偏屈が買ってくれたなら、有効活用したいと思ってしまった。
平民街は治安はいいし、比較的裕福な平民が利用する場所だと説明したら、義両親は許してくれたから良かった。
「リーゼ。怒らないで聞いて欲しいのだけど……」
「何でしょうか?」
お義母様の表情が急に真顔になっている。
「殿下はやめて、オスカーと婚約する?」
「しません!」
つい即答してしまった。淑女としてあるまじき行為だけど黙っていられなかったのだ。
「そうよね……。リーゼが余りにもオスカーのあしらいが上手いし、あの癖の強い男に怒ることもしなかったから、つい期待してしまったわ。ごめんなさいね……」
義兄みたいなタイプは怒っても無駄だから黙って耐えて流していただけなのに、お義母様にはそんな風に見えていたのね……
残りの人生、あとどれくらい生きれるのか分からないからこそ結婚相手は慎重に選びたいし、あんな偏屈に振り回されて生きていくのは嫌よ!
結婚願望は強くないけど、どうせ結婚するなら普通に愛と笑顔のある家庭を作りたいわ。
「オスカーはなんだかんだ言ってもエリーゼに甘いようだから、結婚したら割と上手くいくかもしれないぞ」
お義父様までなんてことを!
「お義父様、私は結婚するなら普通に愛のある結婚を望んでおります。それに対して、お義兄様は結婚そのものを否定しておりましたわ。そんな考えの方と結婚しても、性格の不一致でお互いが不幸になるだけです。
大体、私とお義兄様にそう言った感情は存在しておりませんので絶対に有り得ませんわ。
私達はこれからも義兄妹として当たり障りなく、普通に仲良くやっていきたいです」
つい鋭い目つきでお義父様を見つめてしまった。
「そ、そうか……。エリーゼがそう思っているならこの話はもう終わろう」
その後、店の内装やメニューのことなどを考える日々が続く。
テーブルや椅子は店にあったものをそのまま使うとして、外に置く黒板の看板が欲しいかな。日替わりのランチのメニューや値段を書いておいた方がお客さんは入りやすいよね。
ウェイトレスの制服はシンプルなワンピースにエプロンにしよう。小さな店だから無駄に派手にしなくていいや。日本の喫茶店のような雰囲気の店にしたいなぁ。
料理長たちが張り切っているから、メニューは公爵家の料理人達と相談して決めよう。
店の開店準備に夢中になっていると、久しぶりにウォーカー商会の会長さんが会いに来てくれた。
「リーゼ。公爵夫人から話を聞いて来たんだが、身分を隠して平民街に食堂を開くんだって?
私の方から平民街の商店の組合には挨拶をしておいたぞ」
「組合があるのですか?」
「ああいう大きな商店街には組合があるんだ。
貴族がオーナーなら面倒なことは言ってこないが、身分を隠して平民として店を経営するなら、組合が何か面倒なことを言ってくるかもしれない。
昔からそこの商店街で商売をしている古株の者なんかは、新参者を目の敵にするかもしれないし、同業者なんかは競合相手が増えるからと拒む者もいるかもしれないぞ。
だから組合にはリーゼは私の姪だということにして、私が挨拶してきた」
そういうことは何も知らなかったなぁ。
商会長さんは顔が広いからこんな時に助かる。
「何も知りませんでした。ありがとうございます」
「組合長にも姪を頼むと言ってきたし、近くにうちの店があるから店長にもよく伝えてきた。何かあれば店長に頼るといい」
「はい! よろしくお願いします」
商会長さんは私と一緒に店舗に来てくれて、店内のチェックを細かくしてくれた後、店に必要な物を確認してくれる。
「リーゼ。調理器具と食器、グラスなんかは、後でうちの商会から人を送るから、料理人達と一緒に選ぶといい。
テーブルと椅子、カーテン、照明も新しいものに変えてやる」
「ここに置いてあるものをそのまま使おうかと思っていたのですが……」
「新しい物に変えた方がいい。家具を変えると店の雰囲気も変わるからいいぞ。開店祝いにうちの商会から贈ってやるよ。
リーゼのおかげで、高級なイルミネーション用の光る魔石が沢山売れたからな。かなり儲けさせてもらったからそのお礼だ」
商会長さんは今日も太っ腹だった。そのおかげで、開店準備はスムーズに進み、あっという間に開店の日を迎えていた。
「エリーゼのためにオスカーが店を買ったと聞いていたが、それは本当だったのか」
「はい。私が空き店舗を見て可愛い店が好きだと言ったら、お義兄様がすぐに買って下さいました」
「オスカーがリーゼに店をプレゼントしたってことなのね?
あのオスカーが……、信じられないわ」
義両親は、あの偏屈が私に店を買ってくれたことが未だに信じられないようだった。
三人で話し合った結果、公爵家の使用人や騎士を店の店員として置くということと、私が店に出る時は変装をするという条件で店をやっていいと許可がおりた。
お義父様もお義母様も、平民が使う食堂で公爵令嬢が働くということが嫌だったようだ。
その気持ちは痛いほど分かる……。でもあのお店を見てずっと可愛いって思っていたから、偏屈が買ってくれたなら、有効活用したいと思ってしまった。
平民街は治安はいいし、比較的裕福な平民が利用する場所だと説明したら、義両親は許してくれたから良かった。
「リーゼ。怒らないで聞いて欲しいのだけど……」
「何でしょうか?」
お義母様の表情が急に真顔になっている。
「殿下はやめて、オスカーと婚約する?」
「しません!」
つい即答してしまった。淑女としてあるまじき行為だけど黙っていられなかったのだ。
「そうよね……。リーゼが余りにもオスカーのあしらいが上手いし、あの癖の強い男に怒ることもしなかったから、つい期待してしまったわ。ごめんなさいね……」
義兄みたいなタイプは怒っても無駄だから黙って耐えて流していただけなのに、お義母様にはそんな風に見えていたのね……
残りの人生、あとどれくらい生きれるのか分からないからこそ結婚相手は慎重に選びたいし、あんな偏屈に振り回されて生きていくのは嫌よ!
結婚願望は強くないけど、どうせ結婚するなら普通に愛と笑顔のある家庭を作りたいわ。
「オスカーはなんだかんだ言ってもエリーゼに甘いようだから、結婚したら割と上手くいくかもしれないぞ」
お義父様までなんてことを!
「お義父様、私は結婚するなら普通に愛のある結婚を望んでおります。それに対して、お義兄様は結婚そのものを否定しておりましたわ。そんな考えの方と結婚しても、性格の不一致でお互いが不幸になるだけです。
大体、私とお義兄様にそう言った感情は存在しておりませんので絶対に有り得ませんわ。
私達はこれからも義兄妹として当たり障りなく、普通に仲良くやっていきたいです」
つい鋭い目つきでお義父様を見つめてしまった。
「そ、そうか……。エリーゼがそう思っているならこの話はもう終わろう」
その後、店の内装やメニューのことなどを考える日々が続く。
テーブルや椅子は店にあったものをそのまま使うとして、外に置く黒板の看板が欲しいかな。日替わりのランチのメニューや値段を書いておいた方がお客さんは入りやすいよね。
ウェイトレスの制服はシンプルなワンピースにエプロンにしよう。小さな店だから無駄に派手にしなくていいや。日本の喫茶店のような雰囲気の店にしたいなぁ。
料理長たちが張り切っているから、メニューは公爵家の料理人達と相談して決めよう。
店の開店準備に夢中になっていると、久しぶりにウォーカー商会の会長さんが会いに来てくれた。
「リーゼ。公爵夫人から話を聞いて来たんだが、身分を隠して平民街に食堂を開くんだって?
私の方から平民街の商店の組合には挨拶をしておいたぞ」
「組合があるのですか?」
「ああいう大きな商店街には組合があるんだ。
貴族がオーナーなら面倒なことは言ってこないが、身分を隠して平民として店を経営するなら、組合が何か面倒なことを言ってくるかもしれない。
昔からそこの商店街で商売をしている古株の者なんかは、新参者を目の敵にするかもしれないし、同業者なんかは競合相手が増えるからと拒む者もいるかもしれないぞ。
だから組合にはリーゼは私の姪だということにして、私が挨拶してきた」
そういうことは何も知らなかったなぁ。
商会長さんは顔が広いからこんな時に助かる。
「何も知りませんでした。ありがとうございます」
「組合長にも姪を頼むと言ってきたし、近くにうちの店があるから店長にもよく伝えてきた。何かあれば店長に頼るといい」
「はい! よろしくお願いします」
商会長さんは私と一緒に店舗に来てくれて、店内のチェックを細かくしてくれた後、店に必要な物を確認してくれる。
「リーゼ。調理器具と食器、グラスなんかは、後でうちの商会から人を送るから、料理人達と一緒に選ぶといい。
テーブルと椅子、カーテン、照明も新しいものに変えてやる」
「ここに置いてあるものをそのまま使おうかと思っていたのですが……」
「新しい物に変えた方がいい。家具を変えると店の雰囲気も変わるからいいぞ。開店祝いにうちの商会から贈ってやるよ。
リーゼのおかげで、高級なイルミネーション用の光る魔石が沢山売れたからな。かなり儲けさせてもらったからそのお礼だ」
商会長さんは今日も太っ腹だった。そのおかげで、開店準備はスムーズに進み、あっという間に開店の日を迎えていた。
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