結婚したら、愛する夫が前世の憎い婚約者だったことに気付いてしまいました

せいめ

文字の大きさ
34 / 55
記憶が戻った後の話

34 ビンタ

しおりを挟む
 イライラする私にお構いなく、義母の自分語りは続く……

「しかし罪人であっても、腹を痛めて産んだ我が子なのです。
 今もあの子が日の当たらない暗くて寒い地下牢にいると思うと、胸が張り裂けそうになりますわ」

 けっ! 一度も地下牢に会いに行ってないくせによく言うわ。

「あの子の側にいて一緒に罪を償いたい。あの子の心の痛みを分かち合いたいと、何度思ったことか……グスッ、グスン……」

 悲劇のヒロイン……、じゃなくて悲劇を装った極悪オバさんに私の我慢は限界を迎えた。

 よーし!

「奥様……、泣かないで下さいませ。
 王妃殿下、奥様は姉と一緒に死にたいと口にするほど自分を追い詰めておりました。そんな奥様に何とか立ち直ってもらいたいと思い、今日のお茶会に一緒に参加してもらったのです」

「「奥様?」」

 私が義母を奥様呼びすると、夫人達の反応はとても早かった。
 王妃殿下はそんな私に興味深そうな目を向ける。

「アリシアはベント伯爵夫人を〝奥様〟と呼んでいるのね。
 ふふっ……。親子の関係は色々あるわよねぇ」

 お姉様じゃなくて王妃殿下、ナイスフォローよ!

「アリシア、何を言っているのかしら? 奥様じゃなくてお義母様と呼ぶのよ。私達は親子なのに、この子ったら……」

 義母の笑顔が引き攣っているわ。ザマァ!

「しかし、私が記憶喪失になる前に書いた日記には、私生児の私は伯爵家の娘とは認められてないから、義母と呼ばずに奥様と呼んでいたと確かに書いてありましたわ。
 奥様、私は記憶を失っても私生児として身の程を弁えていますからご心配なく。
 そういえば、奥様の親友のミッチェル伯爵夫人が『可愛いがっていた一人娘を失って塞ぎ込んでいる』と、奥様を心配しておられましたわよ」

「「一人娘?」」

 ここでも夫人達の反応は早かった。

「まあ! ベント伯爵家には夫人の実の娘の他にアリシアもいて一人娘ではないのに、ミッチェル伯爵夫人は何かを勘違いしていたのかしら?」

「王妃殿下、伯爵夫人が格上のアンダーソン公爵夫人の気分を害すようなことを言えるはずがありませんわ。きっと、ミッチェル伯爵夫人は何かを勘違いされていたのでしょうね」

「あの方ならあり得ますわ。ふふっ!」

 夫人達の冷ややかな反応を見て思った。やっぱりミッチェル伯爵夫人は小物だから、高位貴族の夫人達は相手にしてない。
 そして、この場で色々とバラされた私への怒りで顔を赤くしている義母も全く相手にされていない。

「アンダーソン公爵夫人は、記憶を失う前よりも今の方が親しみが持てますわ。
 よろしければ、私のお茶会にも来て下さいまし」

「私も招待状を出しますので、次はアンダーソン公爵夫人だけで来て下さると嬉しいですわ」

 他の夫人達はお茶会に誘ってくれるが、サラッと義母は連れて来んなよって言ってる。

「ありがとうございます。楽しみにしておりますわ」

 義母はどうだか知らないけど、私は普通に楽しいお茶会になった。


◇◇


「アリシア、どういうつもりなの?
 私に恥をかかせたわね!」

 馬車に乗り込んで二人きりになった瞬間、私を睨みながら怒鳴りつける義母。
 あー、はいはい。そう来ると思っていましたよ。

「クスクス……年甲斐もなくド派手なドレスに身を包み、周りのご婦人方から白い目で見られていることにすら気づかない奥様は存在自体が恥ですわ。
 お茶の飲み方やカーテシー、歩き方など全然美しくないですし、いくら伯爵夫人であっても成金育ちは隠し切れないようですわね。一緒にいる私が恥をかきました」

「アリシア! 私生児の分際で誰に向かって言っているの?」

「私生児の私が元成金男爵令嬢の奥様に話をしましたわ」

 パーン!

 痛っ! 義母のビンタが飛んできた。
 ふふっ……。面白くないとすぐ殴る悪い癖は相変わらずね。しかもあの姉の母だけあって馬鹿力で殴るから、頬は腫れるし下手すると口から出血するのよ。

 アリシアは伯爵家で理不尽に殴られることが多かった。
 義母は私達の立場が変わっても、弱っちいアリシアを馬鹿にして態度を改めようともしなかったのだ(公爵がいる時は除く)。
 その結果、未だに私を見下していて、少し煽ってやっただけでこうやって簡単に手を上げてしまうのよ。あの父ですら、私の雰囲気が変わったことに気付いて態度を改めたのに。

「伯爵夫人が公爵夫人に暴力を振るったということでよろしいですわね?」

「あ……」

 やってしまったというような表情の義母を見た後、私は大声を上げる。

「キャー!! 誰か助けて下さいませぇ」

「奥様! 失礼します」

 その瞬間、私の護衛騎士が馬車のドアを開けた。
 実は事前に、馬車に乗り込んでも声を掛けるまでは出発しないで欲しいと御者と護衛騎士達に頼んでおいたのだ。
 ちなみにここはお茶会をした王宮で、色々な貴族の馬車が乗り入れをする非常に目立つ場所でもある。

「奥様……、頬が腫れて……口から出血が……」

 義母が思いっきり殴ってくれたので、騎士は私の頬が腫れていることにすぐに気づいてくれた。

「伯爵夫人が私に暴力を……」

 弱々しく話す私を見た騎士の動きは早かった。

「ベント伯爵夫人! 今すぐご同行願います」

「ち、違うわ! 私は……」

 義母は公爵家の騎士達によって、馬車から引き摺り下ろされた。
 この瞬間も色々な貴族に目撃されているだろうから、ベント伯爵夫人がアンダーソン公爵家の騎士に連行されていたとすぐに噂になるだろう。
 ここは王宮なので、義母は公爵家の騎士から王宮を警備する近衛騎士に引き渡されたようだ。
 ふふ……、ザマァ! 

 姉と共に散々アリシアを虐めてくれた義母に仕返しができ、スカッと清々しい気分で公爵家に帰るが、厄介な男が私を待っているのである。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています

22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」 そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。 理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。 (まあ、そんな気はしてました) 社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。 未練もないし、王宮に居続ける理由もない。 だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。 これからは自由に静かに暮らそう! そう思っていたのに―― 「……なぜ、殿下がここに?」 「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」 婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!? さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。 「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」 「いいや、俺の妻になるべきだろう?」 「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

【完結】気付けばいつも傍に貴方がいる

kana
恋愛
ベルティアーナ・ウォール公爵令嬢はレフタルド王国のラシード第一王子の婚約者候補だった。 いつも令嬢を隣に侍らす王子から『声も聞きたくない、顔も見たくない』と拒絶されるが、これ幸いと大喜びで婚約者候補を辞退した。 実はこれは二回目の人生だ。 回帰前のベルティアーナは第一王子の婚約者で、大人しく控えめ。常に貼り付けた笑みを浮かべて人の言いなりだった。 彼女は王太子になった第一王子の妃になってからも、弟のウィルダー以外の誰からも気にかけてもらえることなく公務と執務をするだけの都合のいいお飾りの妃だった。 そして白い結婚のまま約一年後に自ら命を絶った。 その理由と原因を知った人物が自分の命と引き換えにやり直しを望んだ結果、ベルティアーナの置かれていた環境が変わりることで彼女の性格までいい意味で変わることに⋯⋯ そんな彼女は家族全員で海を隔てた他国に移住する。 ※ 投稿する前に確認していますが誤字脱字の多い作者ですがよろしくお願いいたします。 ※ 設定ゆるゆるです。

龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜

クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。 生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。 母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。 そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。 それから〜18年後 約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。 アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。 いざ〜龍国へ出発した。 あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね?? 確か双子だったよね? もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜! 物語に登場する人物達の視点です。

恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ

恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。 王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。 長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。 婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。 ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。 濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。 ※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています

私たちの離婚幸福論

桔梗
ファンタジー
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

処理中です...