元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

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アンネマリー編〜転生に気付いたのでやり直します

感謝と微笑み

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 王宮の図書館に通う様になり、かなり充実している。
 利用する方々が落ち着いた方ばかりなので、集中できるし、司書さんは親切でかなり優秀。こんなに広くて、沢山ある本の中から、目的の本をさっと探してくれる。

 私は隅の窓側の席が気に入り、いつもそこでレポート作成をしている。静かで、人目につかなくていいのだ。

 シリル様は王宮に来たついでと言いつつ、分からないところがないかと聞きに来てくれる。気遣いの出来る、イケメン眼鏡の素敵な方です。

 そして、レポートを作成している私を見で声を掛けてくれた方が。人の良さそうな仙人みたいな、お爺ちゃま。いつも頑張っているねー、何を書いているの?みたいな感じで話し掛けてくれた。

 飛び級をして早期の卒業を目指す為に、レポートを作成している事を伝えたら、やたら興味を持ってくれている。よくよく話を聞いたら、貴族学園の前の学園長を務めていた方でした。こんなタイミングで、教育の重鎮に出会えるなんて…。

 図々しいかなと思いつつ、助言を求めると、いい感じのヒントをくれるのです。
 私はこの出会いに本当に感謝した。

 そんな感じで、レポートは卒業までの残りの2学年と半分をやり切った。シリル様や前学園長のアドバイスのおかげか、なかなか良い評価を貰えたと思う。休みを返上し、ロマンス小説もカフェでお茶するのも我慢した甲斐があったと思う。こんなに勉強したのは、前世の大学受験以来だ。

 あとは、卒業認定の試験を受けるのみである。

 そんな時、シリル様が過去の学期末の試験問題を踏まえて、卒業認定の試験問題を予測してきてくれた。

 自分だって王太子殿下の側近としての仕事や、侯爵家の跡取りとして、多忙であるはずなのに。ここまでしてくれるなんて…。

 ここまでしてくれた彼の為にも結果を出さないといけない。絶対に合格しないと。

 そう思って卒業認定試験に臨む私であった。


 そして数日後の昼休み…。卒業認定試験の結果を聞く為に、私は学園長室に来ている。

「アンネマリー・スペンサー侯爵令嬢。…合格です。
卒業を認めます。よく頑張りましたね。」

 その結果を聞いて、私はすぐに教室に戻り、レベッカ達に報告した。嬉しくて涙が出てきてしまった。それを見た3人の親友達も、泣かないのと言いつつ、目が潤んでいる。そして、他のクラスメイト達にもお礼を伝えた。みんな、私が勉強に集中出来る様にと、色々と配慮してくれていたからだ。みんな喜んでくれた。正式に学園から発表するまでは秘密ということも伝えておいた。何を噂されるか分からないからね!

 クラスメイト達への報告が済んだ後、レベッカが

「一番お世話になった先輩には報告しないのかしら?」

 ニヤリとして、私に尋ねる。

 そうなんだよねー。報告しに行きたいけど、いきなりクラスを尋ねたら迷惑だろうし、元仮婚約者もいるし、何を噂されるか。どうしようと悩んでいると、

「私が呼びに行きますよ。多分、今なら教室にいると思うので。」

 同じクラスの伯爵家の子息が声を掛けてくれる。

「そこまでお世話になるのは申し訳ないですわ。」

「彼は私の従兄弟なのですよ。スペンサー嬢のおかげで、最近あの従兄弟の性格が穏やかになってきたので、感謝しているのです。図書室近くの空き教室あたりに来るように言えばいいですか?」

 確かに呼び出すには穴場だ。しかし、性格が穏やかになったって一体何がだろう。いつも穏やかじゃないの?もしかして身内には厳しい方なのかしら。シリル様は親族にどう思われているのか。

 せっかくなので、彼に呼んできてもらうことにした。

 空き教室で待っていると、すぐにシリル様が来てくれた。

「突然お呼びして申し訳ありません。報告したい事がありまして。…無事に卒業認定試験に合格致しました。」


 シリル様は、フッと優しく微笑む。この微笑みは危険だ!

「それは良かった。君の努力の成果だ。頑張ったな。」

「いえ、シリル様のおかげですわ。目標を決めたのは良かったですが、一人ではここまで出来ませんでした。シリル様にはいつも助けていただいてばかりで。本当にありがとうございました。シリル様がいてくれて、良かったです。」

「…いや、君に少しは必要とされて、私も嬉しかったよ。」

「少しではなく、かなり必要としてましたわ。それくらい感謝してます。」

「……そこまで言われたら、少し恥ずかしいな。」

 冷静であまり感情を出さないシリル様が、珍しく照れた?少し顔が赤くなったかも。ちょっとかわいい!

「学園にはいつまで来る予定なんだ?」

「あと1ヶ月で長期休暇になるので、休暇前までは来たいと思ってます。」

「休暇前の学園のダンスパーティーには出れるのか?」

 忘れていたが、休暇前には学園主催のダンスパーティーがあったのだ。学園主催なので、少しカジュアルでエスコートなしでもいいし、仲の良い友人にエスコートしてもらってもいいし、婚約者と参加する人もいる。
 レベッカは婚約者にエスコートしてもらうって言ってたな。仲が良さそうで羨ましいと思っていた。

「忘れていたので考えていませんでしたが、学園最後なので、出席したいと思います。」

 シリル様は「そうか。」と一瞬考え込んだ後、スッと跪いて、

「アンネマリー嬢、どうか私に今度のパーティーであなたのエスコート役をさせていただけないだろうか。」

 いつもの腹黒さや、余裕がある様子が感じられない、真っ直ぐな瞳で私を見つめるシリル様を見て、心臓がビックリしている私。
 たぶん、今は私の顔が赤くなっているはず。だってかっこいいんだもん!
 私の答えは決まっていた。

「はい。喜んで。」

 恥ずかしいのと、嬉しいのが合わせあった複雑な表情になってしまっていたと思う。でも、こんな風に跪いて、エスコートを申し込まれるなんて初めてだから、とても嬉しかった。

 シリル様は私の返事を聞いて、また優しく微笑んでくれた。
 この人の微笑みはとにかくヤバい。気をつけないと魂を盗られるわ!


 数日後、私の知らないところで、私とシリル様が噂になるなんて、この時の私は気付いていなかった。



令嬢A
「聞きまして?あのマディソン侯爵子息がスペンサー侯爵令嬢に跪いてたらしいですわよ!」

令嬢B
「まぁ!愛の告白かしら!ステキだわぁ」

令嬢C
「今まで沢山の御令嬢に言い寄られても、冷たくして全く相手にしてこなかったのに。スペンサー侯爵令嬢にだけは優しく微笑まれるとか。」











 


 

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