元アラサー転生令嬢と拗らせた貴公子たち

せいめ

文字の大きさ
111 / 161
ヒロインがやって来た

勘違い

しおりを挟む
 私は今、部屋で休んでいる。一度朝食に起きたが、疲れが溜まっていて、気分が悪いから休むということにした。というか、フィーネに頼んで、起きた時から気分が悪そうだったということにしてもらった。

 勝手に外堀を埋めようとしている、フィル兄様にムカついたので、気分が悪いということにして、部屋に籠っていよう。フィル兄様のせいで、眠れないし、勉強に集中出来ないと言って寮に戻ることも検討中。やっぱり、寮は借りたままで良かったわね。

 そんなことを考えていたら、長時間眠ってしまっていた。起きたら、目がチカチカしている。これは前世ぶりの偏頭痛?寝過ぎて、生活リズムを崩したからかな。偏頭痛は前世の時に酷かったけど、いい薬があったから何とかなっていたんだよね。この世界には偏頭痛の薬あるのかな?前世の時も、10代後半くらいから症状を自覚したような気がする。ううっ。目がチカチカするから、気持ち悪い。うえー。
 トイレに駆け込んで、激しく嘔吐する私。こうなる前に、薬を服用すればいいのだけど。薬なんてないし。治癒魔法も、今ひとつな気がする。あー、気持ち悪い。

「お、お嬢様、大丈夫ですか?」

 トイレで吐いているところに、フィーネが駆けつける。

「うん。ごめんね。はぁ、はぁ。」

 胃が空になり、胆汁が出てくるほど吐き続けていると、おば様が来てくれる。多分、心配したメイドが呼んでくれたのだろうね。

「マリー、大丈夫?…顔色が悪過ぎるわ。」

 おば様は背中をさすってくれる。

「おば様、申し訳ありません。もう、全部吐いてしまったので、大丈夫ですわ。休めば治りますので、少し横になっています。」

 嘔吐の後に、ズキンと強い頭痛がやってくる。洗面所で、口をすすぐ。ちょっとスッキリかな。フラフラで、ベッドにいく私。前世で服用していた薬は素晴らしかったのね。

「フィーネ、部屋を暗くして欲しいの。」

「はい。カーテンを閉めますわね。」

「おば様、寝ていれば治りますから、心配しないでください。はぁ、はぁ。」

「そんなに吐くなんて…。もしかして…!マリー、フィルを呼びましょうか?」

「いえ、フィル兄様は呼ばなくて平気ですわ。少し休みますので、おば様も戻ってくださって大丈夫です。はぁ、はぁ。ご心配をおかけしました。」

 おば様に心配かけちゃったわね。でも気持ち悪くて、こんなに頭が痛い時は、1人で静かに横になるのが1番楽なのよね。あー痛い、気持ち悪い。最悪ね。
 しかしおば様が、あの激しい嘔吐を見て、何かを勘違いしてしまっていたということには、後で気付くことになる。

 目を閉じて休んでいると、誰かが入って来たようだ。

「マリー、こんなに顔色が悪いなんて。大丈夫?嘔吐したんだって?」

 あー、フィル兄様を呼んじゃったのね。静かに眠れないわね。まだ頭痛がつらい私は、弱々しい声になってしまった。

「嘔吐は止まりましたが、頭がすごく痛いので、しばらく休ませてもらいますわ。1人で大丈夫ですから、フィル兄様は、せっかくの休日なので、ゆっくり過ごして下さいね。」

「マリー、そんなこと言わないで。側に付いていたい。」

 いや、ゆっくり寝れないから。一人にして欲しい。あっ!何か痛み止めとか取り寄せてくれないかな。

「フィル兄様、頭が痛過ぎるので、何か痛み止めはないでしょうか?」

「分かった!侍医に聞いてみるよ。待ってて。」

 よし!出て行ってくれたわね。少し目を閉じて休もう。

 しばらく静かに横になっていると、フィル兄様が来る。

「マリー、大丈夫?侍医に来てもらったよ。薬も色々手配はしてもらったんだけど、一応、診察を受けた方がいいと思うんだよね。」

 診察しなくても、これは恐らく偏頭痛だと思うんだけど。一応、診てもらう?

「フィル兄様、ありがとうございます。診察をお願いできますか?」

「うん。診てもらおうか。」

 フィル兄様が連れてきたのは、まだ若い男性医師だった。おじいちゃん先生を想像していたので、少し驚くが、嫌とは言えない。いつもの先生は、出掛けて不在らしく、代わりに弟子が来たらしい。何と言うかね、知的イケメンな研修医に診てもらうような気分。少し気まずいが、我慢だわ。何だか、先生も気まずそうだ。頭痛いけど、挨拶はするか。

「先生、このままで申し訳ありません。どうぞよろしくお願いします。」

「…こちらこそ、よろしくお願いします。」

 フィル兄様は、少し離れたところで、診察を見ている。アンタは保護者か?と言いたいが、恐らく、若い医師と2人にはさせたくないのかもね。症状を聞いて、脈などをチェックしていた。恐らく、前世みたいに医学は発達してなさそうだから、そこまでは期待できないよね。先生に頭痛持ちだから、頭痛に効く薬を欲しいと言ってみると。

「頭痛に効く薬はあるのですが、妊娠中は服用出来ない物なのです。妊娠の可能性はありませんか?」

 先生は、とても言いにくそうだ。若いもんね。

「それはありませんので、その薬をください。」

「あの…、嘔吐が酷かったと聞きましたが?」

 もしかして、嘔吐が酷すぎて、妊娠を疑われた?マジかよ!

「先生、妊娠の心配はありませんし、私は頭痛が酷すぎて気持ちが悪くなる体質なのですわ。」

「…そうでしたか。酷い頭痛なのですね。分かりました。頭痛の薬を出しますね。」

 誤解は解けたかな?まぁ、確かに、偏頭痛持ちじゃないと、吐くほどひどいって分からないよね。
 先生は、薬を処方して帰って行った。薬を飲むのに、フィーネに水を持って来てもらう。どれ、飲んでみようか。と思った時だった。

「マリー!妊娠中はお薬は気をつけないとダメなのよ!飲まない方がいいんじゃないの?」

 おば様が勢いよく、部屋に入って来た。

「おば様、私は妊娠はしてませんので、大丈夫ですわ。」

「えっ?でもあんなに酷い嘔吐は、つわりかと思ったのだけど。」

「頭痛が酷すぎて、気持ち悪くなってしまったのです。」

「あら?そうだったのね。てっきり、妊娠かと思ってしまったわ。ごめんなさいね。」

「私はまだ学生ですから、妊娠はありえませんわ。」

「そ、そうよね。」

 ん?おば様の目が泳いだ気がする。えー!何で?思わずフィル兄様をジーっと見つめる私。フィル兄様は、優しく微笑む。この人、おば様に何を話したのかしら?
 おば様は、気まずそうに、部屋を出て行った。2人になったところで、聞いてみる。

「私はなぜ、妊娠を疑われたのでしょうか?フィル兄様は何か知っていますか?」

 まだ頭は痛いが、気になってしょうがない。

「私達が仲良しなのを、気付いていたのかもね。」

 バレてたのー?つーか、笑顔で言うなよ!恥ずかしいだろ。

「フィル兄様は、おば様に何か話したのですか?」

「んー、父上と母上にはマリーと恋人同士になったと話したよ。2人には言っておかないと、縁談の話を持って来ちゃうからね。そしたら、母上が交際の許可をマリーの両親からも、取った方がいいって言うから、3人でマリーの両親に会いに行って来たんだよね。マリーのお父上は微妙な反応だったね。まぁ、可愛い娘を取られるようで、嫌だったんじゃないかな。でも、うちの母上に敵う人はいないから、渋々、了承してくれたよ。だけど、婚約はまだ駄目だって。父上と母上は、婚約もしたいと言い出したんだけど、マリーのお父上は、それだけはまだ駄目だって引かなかったんだ。とりあえず、恋人として交際は認めるけど、マリーの事を傷つけたら、すぐに別れてもらうって、気合いを入れられて帰ってきたよ。」

 お父様グッジョブ!ああ、お父様を今すぐに、抱きしめたい。お父様は、私の子供の頃の約束を守ってくれているのね。大好きなお父様がそこまで私を大切にしてくれているなんて、嬉しくて涙が溢れちゃう。

「…マリー?どうしたの?」

「お父様が大好きだなぁと思って。お父様に会って、今すぐ、抱き締めたいくらいですわ。」

「へぇ。マリーがそこまで言うなんてね。本当にお父上が大好きなんだね。そういえば、マリーのお父上に言われたよ。マリーはよくお父様みたいな人と結婚したいって言っていたんだってね。…少し妬けるな。」

「お父様は、私が子供の頃にお願いした、約束を守ってくれているのです。勝手に婚約者を決めないって約束を、まだ忘れずにいてくれたのだなぁと思って、嬉しかったのです。」

「ふーん。勝手に婚約者を決めないって約束をしていたんだね。」

「フィル兄様、恋人同士が同じ邸に住んでいると、変な誤解をされて、清い交際に見てもらえないので、私は寮に戻ってもいいでしょうか?」

 おば様に妊娠してると勘違いされたこととか、ヤバいよね。変な噂が立たないうちに、ここは出た方が良さそうだ。

「…何を言ってるの?」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

嘘つくつもりはなかったんです!お願いだから忘れて欲しいのにもう遅い。王子様は異世界転生娘を溺愛しているみたいだけどちょっと勘弁して欲しい。

季邑 えり
恋愛
異世界転生した記憶をもつリアリム伯爵令嬢は、自他ともに認めるイザベラ公爵令嬢の腰ぎんちゃく。  今日もイザベラ嬢をよいしょするつもりが、うっかりして「王子様は理想的な結婚相手だ」と言ってしまった。それを偶然に聞いた王子は、早速リアリムを婚約者候補に入れてしまう。  王子様狙いのイザベラ嬢に睨まれたらたまらない。何とかして婚約者になることから逃れたいリアリムと、そんなリアリムにロックオンして何とかして婚約者にしたい王子。  婚約者候補から逃れるために、偽りの恋人役を知り合いの騎士にお願いすることにしたのだけど…なんとこの騎士も一筋縄ではいかなかった!  おとぼけ転生娘と、麗しい王子様の恋愛ラブコメディー…のはず。  イラストはベアしゅう様に描いていただきました。

笑い方を忘れた令嬢

Blue
恋愛
 お母様が天国へと旅立ってから10年の月日が流れた。大好きなお父様と二人で過ごす日々に突然終止符が打たれる。突然やって来た新しい家族。病で倒れてしまったお父様。私を嫌な目つきで見てくる伯父様。どうしたらいいの?誰か、助けて。

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】魔女令嬢はただ静かに生きていたいだけ

⚪︎
恋愛
 公爵家の令嬢として傲慢に育った十歳の少女、エマ・ルソーネは、ちょっとした事故により前世の記憶を思い出し、今世が乙女ゲームの世界であることに気付く。しかも自分は、魔女の血を引く最低最悪の悪役令嬢だった。  待っているのはオールデスエンド。回避すべく動くも、何故だが攻略対象たちとの接点は増えるばかりで、あれよあれよという間に物語の筋書き通り、魔法研究機関に入所することになってしまう。  ひたすら静かに過ごすことに努めるエマを、研究所に集った癖のある者たちの脅威が襲う。日々の苦悩に、エマの胃痛はとどまる所を知らない……

病めるときも健やかなるときも、お前だけは絶対許さないからなマジで

あだち
恋愛
ペルラ伯爵家の跡取り娘・フェリータの婚約者が、王女様に横取りされた。どうやら、伯爵家の天敵たるカヴァリエリ家の当主にして王女の側近・ロレンツィオが、裏で糸を引いたという。 怒り狂うフェリータは、大事な婚約者を取り返したい一心で、祝祭の日に捨て身の行動に出た。 ……それが結果的に、にっくきロレンツィオ本人と結婚することに結びつくとも知らず。 *** 『……いやホントに許せん。今更言えるか、実は前から好きだったなんて』  

「結婚しよう」

まひる
恋愛
私はメルシャ。16歳。黒茶髪、赤茶の瞳。153㎝。マヌサワの貧乏農村出身。朝から夜まで食事処で働いていた特別特徴も特長もない女の子です。でもある日、無駄に見目の良い男性に求婚されました。何でしょうか、これ。 一人の男性との出会いを切っ掛けに、彼女を取り巻く世界が動き出します。様々な体験を経て、彼女達は何処へ辿り着くのでしょうか。

処理中です...