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私の縁談
食べたくない食事を我慢して食べ、体力をつけるために、部屋の中で歩行訓練をする日々を送っていた私は、少しずつ体調が戻りつつあり、顔色も前より良くなっていた。
生きることに何の目的もなかった私だが、元気になるようにと歩行訓練を手伝ってくれたり、マッサージしてくれたりするアンナの気持ちを、私は大切にしたいと思ったのだ。
「お嬢様の長いお髪をトリートメントしましょうか。
綺麗なホワイトブロンドの髪は、お手入れしたら、もっと美しくなりますわ。
湯浴みの後に、お肌のケアも念入りにさせて下さいね。」
「アンナ。引きこもっている私に、そんな必要はないわよ。」
「お嬢様。これは私がどうしてもやりたいのです。
きっとお嬢様は磨くと更に美しくなりますわ。
美しくなると、気持ちも明るくなるはずです!」
アンナは、今では私の姉のような存在になっていた。
アンナがそこまでしたいというならお願いしてみようかしら。
アンナは毎日ひたすら私磨きに勤しみ、気付くと私は、死人のような顔から令嬢らしい外見になっていた。
「お義姉様、最近とても美しくなりましたわね。
元気なお義姉様を見ると、私はとても嬉しくなりますわ。」
「ヴィー、私のことはどうでもいいのよ。
貴女こそ、最近疲れた顔をしている気がするわ。大丈夫なの?」
ヴィーは少し前に正式に婚約が決まったようだ。
結婚に向けての教育が始まり、忙しい毎日を送っているらしい。殆ど家にいない日々が続いていて、今日も一週間ぶりに顔を合わせている。
ヴィーの婚約者はこの国の王太子殿下らしく、王太子妃教育はかなり厳しいらしい。
ヴィーの婚約者ということは、殿下は私の元婚約ということになる。私がそんな凄い方の婚約者をしていたなんて信じられない。
私はそれに耐えきれなくなって死のうとしたのかしら……
もしそうだとしたら、ヴィーに申し訳ない気持ちで胸が苦しくなり、押し潰されそうになる。
「正直……、とても辛いですわ。
でも殿下は私を大切にしてくれますし、そんな殿下のために私も頑張りたいと思っておりますのよ。」
ヴィーは、私の前で無理に笑っているように見えた。
私はそんなヴィーを見る度に、痛々しく感じて辛かった……
「お嬢様。無理にヴィオラ様に会う必要はないのでは?」
明るくて元気で、裏表のなさそうなアンナらしくない言動だと思ってしまった。
「……え? 家族で私に優しくしてくれるのはヴィーだけなのに、アンナはどうしてそんなことを言うの?」
「お嬢様はヴィオラ様にお会いすると、いつも傷付いたような顔をされているからですわ。
使用人の私が、このようなことを言うのは良くないことは理解しております。どうかお許し下さいませ。」
「そんなことはないわよ。
ただ、申し訳ない気持ちにはなるけれど。」
「私はお嬢様が倒れた後にこの邸にやってきたので、お嬢様に何があったのかは分かりませんわ。
ですから、私にとっては今のお嬢様が全てなのです。
お嬢様は大変お優しくてお美しくて、こんな素敵なお嬢様にお仕え出来て、私は幸せだと思っております。
そんなお嬢様が辛そうになさっていると、私も悲しくなるのです。
もし、ヴィオラ様と会話するのがお辛いなら、どうか無理はなさらないで欲しいのです。」
私はそんな酷い顔をしていたのかしら……
だとしたら、ヴィーにもアンナにも申し訳なかったわね。
「アンナ。私にそんな風に言ってくれるのは貴女だけよ。
いつも心配してくれてありがとう。
疲れているヴィーに酷い顔を見せるのは悪いから、気分が優れない時は顔を合わせるのは遠慮するようにするわ。」
「お嬢様……。私は昔から勘だけは鋭くて、家族や友人達からは、アンに嘘は絶対についてはいけないと言われてきましたわ。
私は人の嘘を暴く天才だと父も褒めてくれまして、男なら裁判官にしたいくらいだったと言われたことがあります。」
「まあ! アンナは凄いのね。アンナが一緒にいてくれたら,詐欺に遭わなくて済むわね。」
「嘘を暴くのが得意でも、勉学はそれほどでもなかったので、裁判官になるのは無理でしたけど。
そんな私から見て、ヴィオラ様は全くお辛そうには見えませんわ。むしろ、ヴィオラ様はこの婚約を喜んでいるように見えます。」
「……そうかしら?
私は、ヴィーが無理をしているのではないかと心配になってしまうのよ。」
「お嬢様、王太子殿下の妃になるということは、将来の国母になるのですから、高度なことを求められるのは当然なのです。厳しいことを言うようですが、無理をしなくてはいけないことは沢山あると思います。
私はお嬢様には、ヴィオラ様のことばかり考えないで、ご自分のことを大切にして欲しいと思っています。
お嬢様は生きているのです。そして、これからも生きていかなくてはならないのです。」
「アンナは側にいてくれるの?」
「お嬢様が望むなら、ずっと側に置いてくださいませ。」
「……ありがとう。アンナが一緒なら頑張れるような気がするわ。」
アンナとそんな話をした後日、父が久しぶりに私の部屋にやって来た。
「アリー、随分と回復したようだな。
ちょうど良かった。お前の婚約者が決まったんだ。
お前は忘れているかもしれないが、昔からよく知る人物だ。
王命だから断れないからな。
近々、顔合わせをするために先方がいらっしゃる予定だ。
アンナ、準備を頼んだぞ。」
「畏まりました。」
「縁談相手の方は、私の知り合いだった方なのでしょうか?」
「ああ。昔のアリーは普通に仲良くしていた人物だ。
しかし今のお前は記憶を失くしているから、相手には昔のアリーとは別人だと思って欲しいと伝えてある。
もう決まった縁談だから、余計な心配はしなくていい。」
父は一方的に話をして、またすぐに出て行ってしまった。
こんな私が縁談だなんて……
生きることに何の目的もなかった私だが、元気になるようにと歩行訓練を手伝ってくれたり、マッサージしてくれたりするアンナの気持ちを、私は大切にしたいと思ったのだ。
「お嬢様の長いお髪をトリートメントしましょうか。
綺麗なホワイトブロンドの髪は、お手入れしたら、もっと美しくなりますわ。
湯浴みの後に、お肌のケアも念入りにさせて下さいね。」
「アンナ。引きこもっている私に、そんな必要はないわよ。」
「お嬢様。これは私がどうしてもやりたいのです。
きっとお嬢様は磨くと更に美しくなりますわ。
美しくなると、気持ちも明るくなるはずです!」
アンナは、今では私の姉のような存在になっていた。
アンナがそこまでしたいというならお願いしてみようかしら。
アンナは毎日ひたすら私磨きに勤しみ、気付くと私は、死人のような顔から令嬢らしい外見になっていた。
「お義姉様、最近とても美しくなりましたわね。
元気なお義姉様を見ると、私はとても嬉しくなりますわ。」
「ヴィー、私のことはどうでもいいのよ。
貴女こそ、最近疲れた顔をしている気がするわ。大丈夫なの?」
ヴィーは少し前に正式に婚約が決まったようだ。
結婚に向けての教育が始まり、忙しい毎日を送っているらしい。殆ど家にいない日々が続いていて、今日も一週間ぶりに顔を合わせている。
ヴィーの婚約者はこの国の王太子殿下らしく、王太子妃教育はかなり厳しいらしい。
ヴィーの婚約者ということは、殿下は私の元婚約ということになる。私がそんな凄い方の婚約者をしていたなんて信じられない。
私はそれに耐えきれなくなって死のうとしたのかしら……
もしそうだとしたら、ヴィーに申し訳ない気持ちで胸が苦しくなり、押し潰されそうになる。
「正直……、とても辛いですわ。
でも殿下は私を大切にしてくれますし、そんな殿下のために私も頑張りたいと思っておりますのよ。」
ヴィーは、私の前で無理に笑っているように見えた。
私はそんなヴィーを見る度に、痛々しく感じて辛かった……
「お嬢様。無理にヴィオラ様に会う必要はないのでは?」
明るくて元気で、裏表のなさそうなアンナらしくない言動だと思ってしまった。
「……え? 家族で私に優しくしてくれるのはヴィーだけなのに、アンナはどうしてそんなことを言うの?」
「お嬢様はヴィオラ様にお会いすると、いつも傷付いたような顔をされているからですわ。
使用人の私が、このようなことを言うのは良くないことは理解しております。どうかお許し下さいませ。」
「そんなことはないわよ。
ただ、申し訳ない気持ちにはなるけれど。」
「私はお嬢様が倒れた後にこの邸にやってきたので、お嬢様に何があったのかは分かりませんわ。
ですから、私にとっては今のお嬢様が全てなのです。
お嬢様は大変お優しくてお美しくて、こんな素敵なお嬢様にお仕え出来て、私は幸せだと思っております。
そんなお嬢様が辛そうになさっていると、私も悲しくなるのです。
もし、ヴィオラ様と会話するのがお辛いなら、どうか無理はなさらないで欲しいのです。」
私はそんな酷い顔をしていたのかしら……
だとしたら、ヴィーにもアンナにも申し訳なかったわね。
「アンナ。私にそんな風に言ってくれるのは貴女だけよ。
いつも心配してくれてありがとう。
疲れているヴィーに酷い顔を見せるのは悪いから、気分が優れない時は顔を合わせるのは遠慮するようにするわ。」
「お嬢様……。私は昔から勘だけは鋭くて、家族や友人達からは、アンに嘘は絶対についてはいけないと言われてきましたわ。
私は人の嘘を暴く天才だと父も褒めてくれまして、男なら裁判官にしたいくらいだったと言われたことがあります。」
「まあ! アンナは凄いのね。アンナが一緒にいてくれたら,詐欺に遭わなくて済むわね。」
「嘘を暴くのが得意でも、勉学はそれほどでもなかったので、裁判官になるのは無理でしたけど。
そんな私から見て、ヴィオラ様は全くお辛そうには見えませんわ。むしろ、ヴィオラ様はこの婚約を喜んでいるように見えます。」
「……そうかしら?
私は、ヴィーが無理をしているのではないかと心配になってしまうのよ。」
「お嬢様、王太子殿下の妃になるということは、将来の国母になるのですから、高度なことを求められるのは当然なのです。厳しいことを言うようですが、無理をしなくてはいけないことは沢山あると思います。
私はお嬢様には、ヴィオラ様のことばかり考えないで、ご自分のことを大切にして欲しいと思っています。
お嬢様は生きているのです。そして、これからも生きていかなくてはならないのです。」
「アンナは側にいてくれるの?」
「お嬢様が望むなら、ずっと側に置いてくださいませ。」
「……ありがとう。アンナが一緒なら頑張れるような気がするわ。」
アンナとそんな話をした後日、父が久しぶりに私の部屋にやって来た。
「アリー、随分と回復したようだな。
ちょうど良かった。お前の婚約者が決まったんだ。
お前は忘れているかもしれないが、昔からよく知る人物だ。
王命だから断れないからな。
近々、顔合わせをするために先方がいらっしゃる予定だ。
アンナ、準備を頼んだぞ。」
「畏まりました。」
「縁談相手の方は、私の知り合いだった方なのでしょうか?」
「ああ。昔のアリーは普通に仲良くしていた人物だ。
しかし今のお前は記憶を失くしているから、相手には昔のアリーとは別人だと思って欲しいと伝えてある。
もう決まった縁談だから、余計な心配はしなくていい。」
父は一方的に話をして、またすぐに出て行ってしまった。
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