私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

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お義姉様が可哀想

 縁談が決まった後、私の日常は忙しくなっていた。
 令嬢として必要なマナーや、ダンスなどを学ばなくてはいけなくなったからだ。
 記憶喪失になった私は、忘れてしまっていることばかりで、また一から覚えなくてはならない。
 文字などは覚えていたから問題はないが、ずっと引きこもる生活をしていた私は、ボーっとすることに慣れてしまっており、体の動きが鈍っていた。
 しかし講師の先生方は、昔私を指導してくれた方らしく、親切に指導してくれたから良かった。
 私の縁談相手は名門の公爵家の当主らしく、未来の公爵夫人として覚えなくてはいけないことが沢山あるらしい。

 こんな私が公爵家なんかに嫁いでやっていけるの……?

 私みたいな傷物が、どうして名門の公爵家に嫁ぐのか意味が分からなかった。
 しかしその理由は、ヴィーから教えられることになる。


「お義姉様。まさかお義姉様に、王命で婚約者が決められるとは思いませんでしたわ。
 しかもあのシールズ公爵様だなんて……。
 あの方は、あの若さで国王陛下の側近を務めるほどに有能な方らしいですね。
 でも私は、お義姉様にあの方は合わないような気がします。」

「……私もそう思うわ。できれば結婚なんてせずに、修道院に行きたいと思っていたのよ。」

「お義姉様は記憶喪失になっていますが、いつ記憶が戻るか分からないから監視の意味があるようですわね……」

「え……」

「王太子妃教育を受けていたお義姉様は、王家の秘密を沢山知っておられるようですから……
 本来なら幽閉されてもおかしくないらしいですが、お優しい王妃殿下や王太子殿下が、記憶喪失のお義姉様が可哀想だからと恩情をかけて下さったらしいですわ。」

 そういうことだったのね……
 王家に近い公爵家に嫁がせて、私が王家の秘密をバラさないかを監視するために……
 今の私は、その時の記憶どころか元婚約者である王太子殿下の顔すら覚えていないのに。
 落ち込みそうになるのを何とか我慢していると、そんな私にお構いなしに、ヴィーは話を続ける。

「シールズ公爵様は令嬢方に人気の殿方ですわ。
 何でも……、心に決めた方がいらっしゃるとか?」

「……心に決めた人?」

「ええ。公爵様は身分だけでなく、とても優秀で見目麗しい方ですの。そんな公爵様と一夜の恋でもいいからと、令嬢だけでなく夫人方まで言い寄っている姿を何度も見たことがあります。
 そこまで人気の方なのに、どなたも相手にされないと聞きますわね。
 隠れて愛人を囲ってらっしゃると噂もありますわ。
 その方とは結婚出来ないからと、お義姉様をお飾りの妻にでもするつもりなのかもしれませんわね。」

「……殿方が愛人を持つのは珍しいことではないわ。」

「お義姉様……、そんな悲しそうにしないで下さいませ。
 私はお義姉様には無理に結婚をして欲しくなかったのです。
 だって……、お義姉様にはあのお方が……」

 ヴィーは、私に誰か思う人がいたかのようなことを口にしている……

「ヴィー、どういうこと? 私には誰か好きな方でもいたの?」

「えっ……? お義姉様は記憶が戻りつつあって、あの方のことを思い出したから、結婚をしないで修道院に行きたいと考えたのではないのですか?」

「……ヴィー、私には好きな人がいたの?」

「……お義姉様。本当にあの方のことまで忘れてしまっているのですか?
 お義姉様はその方と心中するほど、愛し合っていたではないですか!
 私は……、お義姉様は残りの人生もあの方だけを思って生きていきたいから修道院に行きたがっているのだと思っていましたわ。」

 ヴィーの言葉は、頭を鈍器で殴られるような衝撃だった。

「心中……? 私は心中したの……?」
 
「ええ……。二人で毒を飲んで心中したなんて言えませんでしたわ。……お義父様も酷い。
 お義姉様が修道院に行きたがっているのを知りながら、王命だからと縁談を簡単に決めてしまうなんて。
 お義姉様は大切な人を亡くしてこんなに傷付いているのに……、別に愛する人のいる殿方の所に無理に嫁がせようとするなんて。
 お義姉様が可哀想……」

「…………っ!」

「別に愛する人がいるシールズ公爵様との結婚が、幸せになれるはずがないのに。
 私はお義姉様が可哀想だから、希望通りに修道院に行かせてあげて欲しいとお義父様やお義母様にお願いしたのです。
 しかし、王命だからダメだと言われてしまいましたわ。
 お義父様とお義母様は、いつも私を可愛がって下さっているから、私がお願いすれば聞き入れて下さると思っていたのに、それだけは聞き入れてもらえませんでした。
 お義姉様……、何の力にもなれずにごめんなさい。」


 その後、ヴィーと何を話したのか覚えていない。
 気がつくと時間だけが過ぎていき、シールズ公爵様と顔合わせをする日を迎えていた。

「お嬢様。私は貧乏男爵家で、社交すらずっと出来ませんでしたので、今の流行りの髪型やメイクはあまり知らなかったのです。
 ですから、若いメイド達やドレスの採寸に来たデザイナーさん達に聞いたりして、今の流行のヘアメイクを私なりに色々と調べておきましたわ。」

 アンナは塞ぎ込む私を元気づけようとしてくれているようだ。
 私なんかのために、ここまでやってくれるアンナを裏切ることは出来ない。
 今日はしっかりやらなくては……

「アンナ、ありがとう。
 私なんかのためにそこまでしてくれるなんて、本当に感謝しているわ。」

「お嬢様。〝私なんか〟と言うのはもうやめませんか?
 私は……、私のお嬢様が一番だと思って仕えさせて頂いてますのよ。
 綺麗で優しくてお上品で、所作の一つひとつが美しくて……。私の実家の家族や友人達がいたら、お嬢様を見せて自慢したいくらいなのです。
 私は、こんな凄いお嬢様にお仕えしているのよって!」

「アンナは褒めすぎよ。
 でも嬉しいわ。ありがとう……」

 アンナはニコニコしながら、私を美しく飾ってくれたのだった。


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