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私の婚約者
シールズ公爵様との顔合わせの日に、私は記憶喪失になってから初めて自分の母と兄の顔を見ることになった。
母は私と同じホワイトブロンドの髪と水色の瞳で、私は母親似だということが分かる。
兄の方は、父譲りのダークブロンドに私と同じ色の瞳。兄は父似のようだ。
「アリー。体調が回復して良かったわ。
今日はシールズ公爵様が来るのですから、粗相をしないように気を付けるようにね。」
「シールズ公爵の期限を損ねないように。
変な気は起こすな。」
「……畏まりました。」
両親が私に言いたいのは、王命での婚約が決まっているのだから、これ以上家名を汚すことはするなということなのだろう。
今の私には、そんなことをする気力すらないのに。
それに、そんなことをしたらアンナの責任が問われて、仕事をクビになってしまう。嫁ぎ先の男爵家が没落し、苦労してきたアンナに迷惑はかけられない。
私を避けていた母からは、何かきついことを言われたり、睨みつけられたりするのではないかと思っていたが、特にそのようなことはなかった。
しかし、余所余所しさのようなものは感じる。
兄に至っては、険しい表情で目すら合わせてくれなかった。
ここにヴィーがいてくれたら明るい雰囲気にしてくれるのかもしれないが、王太子妃教育が忙しいヴィーとは最近はずっと顔を合わせておらず、今日も出掛けていて不在のようだった。
母と兄の二人を見て、特別嫌がらせをされないのなら、私は今まで通りに無理に関わらずにいようと思った。
家族かもしれないが、家族だと思うのはやめよう。
私の今の家族は、私に元気をくれるアンナだけ……
シールズ公爵様がもうすぐ到着すると先触れがあり、邸の玄関でお待ちすることになる。
自分の部屋から出ることを禁じられていた私が、玄関先まで来るのも初めてだ。
名門の侯爵家らしく立派な邸だと思う。私はこの邸でどのように育ったのだろう?
自分の家のはずなのに、何も知らない赤の他人の家と変わらない……
立派な馬車が邸の敷地内に入ってきて、馬車から降りてきたのは、黒髪に赤い目が特徴的な美丈夫だった。
この人がシールズ公爵様?
国王陛下の側近をしていると聞いていたが、騎士をしているかのように鍛えられた体と、スラっとした長身、バランスよく整った美しい顔の美丈夫だった。
近寄り難く感じてしまうほど整った容姿を見て、ヴィーが令嬢に人気があると話をしていたことを思い出してしまった。
シールズ公爵様は、両親と和やかに挨拶をした後に兄とも言葉を交わしている。
私の前で笑わない両親が、シールズ公爵様には笑顔を向けている。傷者の私を引き取ってくれる人なのだから、両親だって愛想良くするのは当然のことか……
「オーウェン。多忙なのに、うちに来てもらって悪いな。」
「気にするな。こうやって来るのは当然のことだからな。」
シールズ公爵様は、兄が呼び捨てで呼ぶほどの親しい関係ということらしい。
私には険しい表情をしていた兄もシールズ公爵様には笑顔を向けるのね……
両親や兄が笑顔でシールズ公爵様と話をしている様子を黙って見ていると、そんな私に気付いた父が声を掛けてくる。
「アリー。黙ってないでお前もシールズ公爵に挨拶をしなさい。」
「……はい。シールズ公爵様、ご機嫌よう。
本日はお忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。」
今の私にとっては、シールズ公爵様は初対面と変わらないのだが、〝初めまして〟と言うわけにもいかず、何と挨拶をしていいのか分からなかった。
だから当たり障りなく挨拶をしたつもりだったのだが……、そんな私を見て、シールズ公爵様の表情が無くなるのが分かった。
「……ああ。今日はよろしく。」
絞り出すように一言、言葉を返してくれただけ。
この方は、私の家族と同様に私のことを嫌っているようだった。
ヴィーの言う通りだわ。この方は王命だから仕方なく婚約することにしただけ。
私との婚約は義務だからするだけで、別に思う方がいるのだろう。
私は顔も思い出せない、かつての恋人との愛を貫こうとした結果、自分の家族だけでなく、シールズ公爵様にも迷惑を掛けているのね……
そう考えると、泣きそうな気持ちになってしまう。
この場では、私は愛想良くして、笑顔でいなくてはならないのに……、笑顔を作ることは、こんなにも難しいことなのかしら。
別に愛する人がいながら、私みたいな傷者と婚約しなければならないシールズ公爵様の方がお辛いのに。
その後、楽しそうに会話をする家族とシールズ公爵様の横で、私は時間が過ぎるのを黙って耐えることにした。
母は私と同じホワイトブロンドの髪と水色の瞳で、私は母親似だということが分かる。
兄の方は、父譲りのダークブロンドに私と同じ色の瞳。兄は父似のようだ。
「アリー。体調が回復して良かったわ。
今日はシールズ公爵様が来るのですから、粗相をしないように気を付けるようにね。」
「シールズ公爵の期限を損ねないように。
変な気は起こすな。」
「……畏まりました。」
両親が私に言いたいのは、王命での婚約が決まっているのだから、これ以上家名を汚すことはするなということなのだろう。
今の私には、そんなことをする気力すらないのに。
それに、そんなことをしたらアンナの責任が問われて、仕事をクビになってしまう。嫁ぎ先の男爵家が没落し、苦労してきたアンナに迷惑はかけられない。
私を避けていた母からは、何かきついことを言われたり、睨みつけられたりするのではないかと思っていたが、特にそのようなことはなかった。
しかし、余所余所しさのようなものは感じる。
兄に至っては、険しい表情で目すら合わせてくれなかった。
ここにヴィーがいてくれたら明るい雰囲気にしてくれるのかもしれないが、王太子妃教育が忙しいヴィーとは最近はずっと顔を合わせておらず、今日も出掛けていて不在のようだった。
母と兄の二人を見て、特別嫌がらせをされないのなら、私は今まで通りに無理に関わらずにいようと思った。
家族かもしれないが、家族だと思うのはやめよう。
私の今の家族は、私に元気をくれるアンナだけ……
シールズ公爵様がもうすぐ到着すると先触れがあり、邸の玄関でお待ちすることになる。
自分の部屋から出ることを禁じられていた私が、玄関先まで来るのも初めてだ。
名門の侯爵家らしく立派な邸だと思う。私はこの邸でどのように育ったのだろう?
自分の家のはずなのに、何も知らない赤の他人の家と変わらない……
立派な馬車が邸の敷地内に入ってきて、馬車から降りてきたのは、黒髪に赤い目が特徴的な美丈夫だった。
この人がシールズ公爵様?
国王陛下の側近をしていると聞いていたが、騎士をしているかのように鍛えられた体と、スラっとした長身、バランスよく整った美しい顔の美丈夫だった。
近寄り難く感じてしまうほど整った容姿を見て、ヴィーが令嬢に人気があると話をしていたことを思い出してしまった。
シールズ公爵様は、両親と和やかに挨拶をした後に兄とも言葉を交わしている。
私の前で笑わない両親が、シールズ公爵様には笑顔を向けている。傷者の私を引き取ってくれる人なのだから、両親だって愛想良くするのは当然のことか……
「オーウェン。多忙なのに、うちに来てもらって悪いな。」
「気にするな。こうやって来るのは当然のことだからな。」
シールズ公爵様は、兄が呼び捨てで呼ぶほどの親しい関係ということらしい。
私には険しい表情をしていた兄もシールズ公爵様には笑顔を向けるのね……
両親や兄が笑顔でシールズ公爵様と話をしている様子を黙って見ていると、そんな私に気付いた父が声を掛けてくる。
「アリー。黙ってないでお前もシールズ公爵に挨拶をしなさい。」
「……はい。シールズ公爵様、ご機嫌よう。
本日はお忙しい中、お時間を頂きありがとうございます。」
今の私にとっては、シールズ公爵様は初対面と変わらないのだが、〝初めまして〟と言うわけにもいかず、何と挨拶をしていいのか分からなかった。
だから当たり障りなく挨拶をしたつもりだったのだが……、そんな私を見て、シールズ公爵様の表情が無くなるのが分かった。
「……ああ。今日はよろしく。」
絞り出すように一言、言葉を返してくれただけ。
この方は、私の家族と同様に私のことを嫌っているようだった。
ヴィーの言う通りだわ。この方は王命だから仕方なく婚約することにしただけ。
私との婚約は義務だからするだけで、別に思う方がいるのだろう。
私は顔も思い出せない、かつての恋人との愛を貫こうとした結果、自分の家族だけでなく、シールズ公爵様にも迷惑を掛けているのね……
そう考えると、泣きそうな気持ちになってしまう。
この場では、私は愛想良くして、笑顔でいなくてはならないのに……、笑顔を作ることは、こんなにも難しいことなのかしら。
別に愛する人がいながら、私みたいな傷者と婚約しなければならないシールズ公爵様の方がお辛いのに。
その後、楽しそうに会話をする家族とシールズ公爵様の横で、私は時間が過ぎるのを黙って耐えることにした。
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