私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

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結婚

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 シールズ公爵様との最悪の顔合わせをした数日後、父が私の部屋にやって来た。

「シールズ公爵は、早く婚姻を結びたいと言ってくれている。
 国王陛下もそのことを賛成してくれたから、お前とシールズ公爵の婚姻は三ヶ月後に決まった。
 有り難いことに花嫁衣装などの準備は、全て公爵家でやってくれるようだ。
 シールズ公爵から何か希望はないかを聞かれているんだが、アリーの希望は何かあるか?」

「結婚式は挙げなくてもいいですわ。
 祝福される結婚ではないことは理解しておりますし、お金をかける必要もありません。」

「自分が何を言っているのか分かっているのか?
 公爵家と侯爵家の結婚なのに、式も挙げられなかったなんて笑い話にされてしまう。
 公爵家ではすでに式を挙げる教会を手配してくれている!」

「……失礼しました。でしたら、結婚式の準備が大変だと思われますので、式は家族だけの簡素なものでお願いしたいと思っています。
 それと、公爵家にはアンナを一緒に連れて行きたいのですが。」

「お前の希望はそれだけか?」

「はい。」

「分かった。シールズ公爵にそのように伝えておく。」


 正式に結婚が決まった後、シールズ公爵様は十日に一度くらいの割合で私に会いに来てくれた。
 シールズ公爵様は私に話をするわけでもなく、ただお茶を一杯だけ飲んで、両親や兄に挨拶だけをして帰っていく。私に会いに来ているというよりも、両親と兄に会いに来ているのだと思う。
 両親や兄に向けている笑顔は私には見せてくれない。
 この方は、この結婚を家同士の契約として割り切っているのだろう。
 シールズ公爵様の態度を見れば、結婚しても私が冷遇されるのは予想できた。

 私はこの結婚に何の期待も持たない。
 持ってはいけないのだ……

 


 婚約期間はあっと言う間に過ぎていき、結婚式当日を迎えていた。

「お嬢様、素晴らしいドレスですわ!
 美しいお嬢様にとてもお似合いです。」

「ありがとう。アンナのヘアメイクの腕が良いから助かったわ。」

「お褒めの言葉に感謝致します。
 しかしそれだけではありません! このドレスがお嬢様によく似合っているのです。
 公爵様が有名なデザイナーに作らせただけあって、本当に素敵です!」

 確かに素晴らしいドレスだと思う。光に反射してキラキラ光る生地に複雑な刺繍の入ったドレスは、誰がどう見ても高価な物だと分かる。さすが公爵家だわ。
 愛のある結婚ではないけれど、公爵家の体面を気にして立派なドレスを贈ってくれたのだろう。

「まあ! お義姉様、とても綺麗だわ。
 誰が見ても不幸な結婚には見えないわ。
 さすがシールズ公爵様ね。高価なドレスやアクセサリーで本妻のご機嫌取りでもしようって考えなのかしら?
 お義姉様……、本当に可哀想……」

 控室に入って来たヴィーは私のドレス姿を見て、また可哀想だと言う。
 ヴィーとは久しぶりに顔を合わせたけど、何だかいつもと様子が違う。言葉に棘があるし、疲労が溜まった顔をしている。
 王太子妃教育で忙しいのに、私の結婚式なんかに付き合わせてしまって悪かったかしら。

 本当は結婚式なんて必要ないのに……

「ヴィー、忙しいのに来てくれてありがとう。
 私もこの結婚の意味を理解しているし、与えられた物に何の期待も持っていないわ。
 この結婚で幸せになれないのも知っているし、これからは静かに生きていくつもりよ。
 こんな結婚式に呼んでしまって悪かったわね。ごめんなさい。」

「……お義姉様はどうして怒らないの?」

「えっ?」

「……っ!……何でもないわ。
 お飾りの公爵夫人でも、公爵夫人という身分で贅沢できるでしょうから、修道院に行くよりはまだマシかもしれないわね。
 幸せになれない結婚だけど、楽しくやって下さいね。社交の場でお義姉様とお会いできたら嬉しいわ。
 じゃあ、私はそろそろお義父様たちの所に戻るわね。」

「……」

 バタンと扉の閉まる音がした。

「……何ですか、あれは?
 本当に仲の良い義姉妹だったのでしょうか?
 こんなお祝いの日に、家族にあんなことを言うものなのでしょうか?」

「アンナ……、いいのよ。
 私はそれだけのことをして、ヴィーに迷惑を掛けてきたのだから。
 そりよりも、どんな時でもアンナが一緒に居てくれるから私は幸せよ。」

「お嬢様……」


 しかし、明るくて可愛くて笑顔の似合うヴィーだと思っていたのに、今日のヴィーは思い詰めたような顔をしていて何だかおかしかった。
 ヴィーは私のせいで好きな人を諦めることになったのだから、私に八つ当たりくらいはしたくなるわよね……
 
 幸せになれない夫婦生活の始まりである結婚式は、何事もなく無事に終え、私はそのまま公爵家に向かうことになる。

 そしてその日の夜、アンナや公爵家のメイドたちは私を念入りに磨いて初夜の準備をしていた。
 公爵様は他にお相手がいるらしいから、初夜は一緒に過ごさないと思うのに、こんな準備なんて必要なのかしら。

 しかし私の予想は大きく外れて、旦那様は夫婦の寝室に訪れた。
 ロマンス小説みたいに『君を愛することはない』とかわざわざ言いにきたのかもしれない。
 今更何を言われても私は何も感じないわ。覚悟は出来ているもの。
 
 旦那様はベッドに腰掛ける私の側にやって来る。
 そして……

「私は君を愛することはないだろう。
 しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚には出来ない。貴族の義務として今宵は君を抱く。
 これを終えたら、君は領地で好きに生活すればいい。」

 ああ……、そういうことなのね……

「……畏まりました。」

 私はその日、旦那様と閨を共にした。


 
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