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閑話 シールズ公爵
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私の幼馴染であるエリックには、アリエルという可愛い妹がいる。
アリエルは、美しいホワイトブロンドの髪に透き通った水色の瞳を持つ儚げな雰囲気の美少女だった。
彼女は小さな頃は体が弱く、あまり人前に出る機会はなかったらしい。
幼馴染の妹と言っても、そんなアリエルと私は関わることはなく、初めてまともに顔を合わせたのは、彼女が十歳で私が十三歳の時だった。
いつものようにエリックのところに遊び行くと、エリックが見たことのない美少女と一緒にいる。
「オーウェン。よく来たな!」
「……ああ。エリック、そちらは?」
「あれ? アリーと会ったことはなかったか?
妹のアリエルだ。」
「……多分初めて会うと思う。
オーウェン・シールズだ。よろしく。」
「アリエル・バトラーです。
兄がいつもお世話になっております。」
美しいカーテシーをし、穏やかで聞き心地のいい声で挨拶するアリエルに私はドキっとしてしまった。
茶会などで私に纏わりつく令嬢たちとは全く違った雰囲気を持つアリエルに、私はその時には惹かれていたのだと思う。
アリエルは私がエリックに会いに行くと、挨拶をしてくれたり、お茶を出してくれたりして、すぐに仲良くなることができた。
公爵家の跡取りである私に気に入られようと媚を売ろうとしたり、ベタベタしてきたりする令嬢たちとは違って、アリエルは節度ある態度で接してくれる。
そんな彼女と一緒にいると心から落ち着くことができ、私がアリエルに特別な感情を持っていることに気づくまで時間はかからなかった。
この国で婚約者を決める年齢は十五歳になってからという決まりがある。
私はアリエルが十五歳になったら、すぐに彼女に婚約を申し込もうと決めていた。
しかし、それは叶わなかった……
私の一つ年下の従兄弟である王太子殿下がまだ婚約者を決めておらず、高位貴族の令嬢は殿下の婚約者候補になってしまったからだ。
侯爵令嬢のアリエルも殿下の婚約者候補の一人になっていた。
そしてアリエルが十六歳の時、デビュタントの夜会で国王陛下からそれは発表された。
〝アリエル・バトラー侯爵令嬢を王太子の婚約者にする〟と。
後で知ったことだが、貴族学園に入学したアリエルに殿下が恋をしたらしい。
何度も婚約を申し込んで、やっと受け入れてもらえたのだと、幸せそうに話をする殿下が憎くて堪らなかった。
彼女は王太子妃教育を真面目に取り組み、陛下や王妃殿下からも可愛がられていると聞く。
アリエルへの気持ちを今すぐ忘れることはできないが、頑張るアリエルを見たら……
今は辛いが、いつかこの国の国母になるアリエルの支えになれるように、私は私の立場でやれることをやろうと決めた。
その頃、バトラー侯爵家に養女が迎えられる。
アリエルの一つ年下のその令嬢は、バトラー侯爵の友人の子爵の娘らしいが、子爵と夫人が事故で亡くなり、亡くなった子爵と折り合いの悪かった弟が子爵家を継ぐことになって、令嬢が冷遇されている姿を見た侯爵が引き取ることに決めらしい。
アリエルは義妹になった令嬢に親切に接していて、二人は仲がいいと評判の義姉妹になっていた。
アリエルが貴族学園を卒業し、殿下との婚姻まであと二年になる頃、その事件は起きる。
私はその時には、早く引退したいと言っていた父から公爵位を引き継ぎ、陛下の側近として仕事をする日々を送っていた。
ある日、あの威厳に満ちた陛下がある知らせを聞いて一瞬にして表情をなくしている。
どこかで大きな事件でも起きたのかと思った私は、すぐに陛下に尋ねていた。
「……陛下、何かありましたか?」
「これは内密だが、側近のオーウェンには話しておこう。
アリエルが……バトラー侯爵令嬢が……、侯爵家の使用人と心中したようだ。」
バサバサっと、持っていた書類が落ちる音が部屋に響いた……
アリエルは、美しいホワイトブロンドの髪に透き通った水色の瞳を持つ儚げな雰囲気の美少女だった。
彼女は小さな頃は体が弱く、あまり人前に出る機会はなかったらしい。
幼馴染の妹と言っても、そんなアリエルと私は関わることはなく、初めてまともに顔を合わせたのは、彼女が十歳で私が十三歳の時だった。
いつものようにエリックのところに遊び行くと、エリックが見たことのない美少女と一緒にいる。
「オーウェン。よく来たな!」
「……ああ。エリック、そちらは?」
「あれ? アリーと会ったことはなかったか?
妹のアリエルだ。」
「……多分初めて会うと思う。
オーウェン・シールズだ。よろしく。」
「アリエル・バトラーです。
兄がいつもお世話になっております。」
美しいカーテシーをし、穏やかで聞き心地のいい声で挨拶するアリエルに私はドキっとしてしまった。
茶会などで私に纏わりつく令嬢たちとは全く違った雰囲気を持つアリエルに、私はその時には惹かれていたのだと思う。
アリエルは私がエリックに会いに行くと、挨拶をしてくれたり、お茶を出してくれたりして、すぐに仲良くなることができた。
公爵家の跡取りである私に気に入られようと媚を売ろうとしたり、ベタベタしてきたりする令嬢たちとは違って、アリエルは節度ある態度で接してくれる。
そんな彼女と一緒にいると心から落ち着くことができ、私がアリエルに特別な感情を持っていることに気づくまで時間はかからなかった。
この国で婚約者を決める年齢は十五歳になってからという決まりがある。
私はアリエルが十五歳になったら、すぐに彼女に婚約を申し込もうと決めていた。
しかし、それは叶わなかった……
私の一つ年下の従兄弟である王太子殿下がまだ婚約者を決めておらず、高位貴族の令嬢は殿下の婚約者候補になってしまったからだ。
侯爵令嬢のアリエルも殿下の婚約者候補の一人になっていた。
そしてアリエルが十六歳の時、デビュタントの夜会で国王陛下からそれは発表された。
〝アリエル・バトラー侯爵令嬢を王太子の婚約者にする〟と。
後で知ったことだが、貴族学園に入学したアリエルに殿下が恋をしたらしい。
何度も婚約を申し込んで、やっと受け入れてもらえたのだと、幸せそうに話をする殿下が憎くて堪らなかった。
彼女は王太子妃教育を真面目に取り組み、陛下や王妃殿下からも可愛がられていると聞く。
アリエルへの気持ちを今すぐ忘れることはできないが、頑張るアリエルを見たら……
今は辛いが、いつかこの国の国母になるアリエルの支えになれるように、私は私の立場でやれることをやろうと決めた。
その頃、バトラー侯爵家に養女が迎えられる。
アリエルの一つ年下のその令嬢は、バトラー侯爵の友人の子爵の娘らしいが、子爵と夫人が事故で亡くなり、亡くなった子爵と折り合いの悪かった弟が子爵家を継ぐことになって、令嬢が冷遇されている姿を見た侯爵が引き取ることに決めらしい。
アリエルは義妹になった令嬢に親切に接していて、二人は仲がいいと評判の義姉妹になっていた。
アリエルが貴族学園を卒業し、殿下との婚姻まであと二年になる頃、その事件は起きる。
私はその時には、早く引退したいと言っていた父から公爵位を引き継ぎ、陛下の側近として仕事をする日々を送っていた。
ある日、あの威厳に満ちた陛下がある知らせを聞いて一瞬にして表情をなくしている。
どこかで大きな事件でも起きたのかと思った私は、すぐに陛下に尋ねていた。
「……陛下、何かありましたか?」
「これは内密だが、側近のオーウェンには話しておこう。
アリエルが……バトラー侯爵令嬢が……、侯爵家の使用人と心中したようだ。」
バサバサっと、持っていた書類が落ちる音が部屋に響いた……
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