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閉ざした心
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ヴィーは私に話をした後、お茶に手も付けずに帰っていった。
「奥様……、お願いです。今後はヴィオラ様が来てもお会いしないで下さいませ。
使用人の私がこんなことを言うのは無礼であることは承知しております。どうかお許しください。」
アンナが悲しそうな顔を見せる時は、いつもヴィーが関わっている時だ。
私は今、酷い顔をしているに違いない。
「アンナ、私は平気なの。
私が投げ出したことをヴィーが引き受けてくれているのよ。ヴィーは被害者だわ。
毎日大変な生活を送っていれば、八つ当たりだってしたくもなるわよ。」
「平気そうには見えませんわ。
せっかく公爵家に慣れて、奥様の笑顔が見れるようになったのに……
今の奥様は、また傷付いた表情をなさっております。」
記憶を失う前の私が全て悪いのに、それでもアンナは私を大切に思ってくれている。
それだけで今の私は幸せだ。
「ありがとう。でも本当に大丈夫よ。」
そうは言ったものの、旦那様と顔を合わせることは苦痛になってしまった。
始めから旦那様には何の期待も持っていなかったのだから、嘘をつかれたことくらいどうだっていいはずなのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう。
でも良かった……。これで今後は遠慮なく旦那様と距離を置ける。いい人だから悪いなんて気を遣って、旦那様の誘いに付き合う必要もない。
私はお飾りの妻なのだから……
その日から、体調不良を理由にして旦那様との食事は断らせてもらうことにした。
翌日、そんな私の所に旦那様から花束が届く。
「奥様、旦那様から花束の贈り物でございます。」
「メイド長。旦那様にお礼を伝えてくれるかしら。」
「畏まりました。花はどちらに飾りましょうか?」
「今は気分が優れないから、花の匂いを受け付けないの。
ダイニングに飾ってもらえる?」
「畏まりました。」
旦那様は、私の部屋に花を飾らなかったことをメイド長に聞いたのか、それから花束を贈ってくることはなくなった。
部屋にこもる日々を過ごしていたある日のこと……
「奥様、旦那様が奥様を見舞いたいといらしております。」
ハァー……、来てしまったならしょうがない。
食事を断り続けていてずっと顔を合わせていなかったから、私の生存確認にでも来たのかもしれないわ。
「中にお通しして。」
「畏まりました。」
部屋に入ってきた旦那様は、私の顔を見るなり安堵の表情を浮かべる。
「アリエル、具合が悪かったと聞いて心配していた。
仕事で忙しくて、なかなか君に会いに来れなくてすまなかった。流石に夜間に部屋を訪ねるわけにはいかないからな。
思ったよりも顔色が良かったから安心したよ。」
私しかいない所で、わざわざ妻を気遣う夫を演じなくていいのに。
旦那様と話をすると惨めな気持ちになる……
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」
「そろそろ、一緒に食事を食べれないか?
一人で食べるよりも、君と一緒に食べる方が美味しいんだ。」
「…………」
「……アリエル?」
「旦那様……、私はそろそろ領地に向かわせてもらいたいと思っています。
私が出て行ったら、すぐに旦那様の愛する人をこの邸に迎えて下さいませ。
お飾りの妻の私になど気を遣わなくていいのです。」
旦那様の顔が一瞬にして険しくなる。
「私にはアリエルだけだ。
愛人などいないし、欲しいと思ったことはない。
信じてくれ……」
「旦那様は初夜を済ませたら、領地で好きに過ごしていいと言ってくださいました。
リフォームが済んでいないなら、古くてもいいのでどこかの別邸でもいいのです。
お願いします。」
「あと少し……、あと少しだけ待ってくれ。
今はここの生活で我慢して欲しい。お願いだ!
時が来たら、君に打ち明けたいことがある。」
「……どうして?」
「お願いだ。どうかあと少し待ってくれ。
ここから出ていかないでくれ……」
その後も、旦那様は『出て行かないで』と『あと少し待って欲しい』という言葉を繰り返す。
公爵という立場の人が、どうしてここまで必死に私を引き留めるのか、全く理解出来なかった。
突き放すつもりでいたのに、懇願する旦那様を見たら胸がズキズキしてしまう。
「……あと少しだけ待ちます。
しかし、まだ気分が優れないので食事は部屋で取らせて下さい。」
「ありがとう。
君の体調が良くなるまで私は待つよ。」
旦那様は力なく微笑むと部屋を出て行った。
その日から十日ほど経ったある日、旦那様から両親と兄が公爵家に訪れる予定であることを告げられるのであった。
「奥様……、お願いです。今後はヴィオラ様が来てもお会いしないで下さいませ。
使用人の私がこんなことを言うのは無礼であることは承知しております。どうかお許しください。」
アンナが悲しそうな顔を見せる時は、いつもヴィーが関わっている時だ。
私は今、酷い顔をしているに違いない。
「アンナ、私は平気なの。
私が投げ出したことをヴィーが引き受けてくれているのよ。ヴィーは被害者だわ。
毎日大変な生活を送っていれば、八つ当たりだってしたくもなるわよ。」
「平気そうには見えませんわ。
せっかく公爵家に慣れて、奥様の笑顔が見れるようになったのに……
今の奥様は、また傷付いた表情をなさっております。」
記憶を失う前の私が全て悪いのに、それでもアンナは私を大切に思ってくれている。
それだけで今の私は幸せだ。
「ありがとう。でも本当に大丈夫よ。」
そうは言ったものの、旦那様と顔を合わせることは苦痛になってしまった。
始めから旦那様には何の期待も持っていなかったのだから、嘘をつかれたことくらいどうだっていいはずなのに、どうしてこんな気持ちになるのだろう。
でも良かった……。これで今後は遠慮なく旦那様と距離を置ける。いい人だから悪いなんて気を遣って、旦那様の誘いに付き合う必要もない。
私はお飾りの妻なのだから……
その日から、体調不良を理由にして旦那様との食事は断らせてもらうことにした。
翌日、そんな私の所に旦那様から花束が届く。
「奥様、旦那様から花束の贈り物でございます。」
「メイド長。旦那様にお礼を伝えてくれるかしら。」
「畏まりました。花はどちらに飾りましょうか?」
「今は気分が優れないから、花の匂いを受け付けないの。
ダイニングに飾ってもらえる?」
「畏まりました。」
旦那様は、私の部屋に花を飾らなかったことをメイド長に聞いたのか、それから花束を贈ってくることはなくなった。
部屋にこもる日々を過ごしていたある日のこと……
「奥様、旦那様が奥様を見舞いたいといらしております。」
ハァー……、来てしまったならしょうがない。
食事を断り続けていてずっと顔を合わせていなかったから、私の生存確認にでも来たのかもしれないわ。
「中にお通しして。」
「畏まりました。」
部屋に入ってきた旦那様は、私の顔を見るなり安堵の表情を浮かべる。
「アリエル、具合が悪かったと聞いて心配していた。
仕事で忙しくて、なかなか君に会いに来れなくてすまなかった。流石に夜間に部屋を訪ねるわけにはいかないからな。
思ったよりも顔色が良かったから安心したよ。」
私しかいない所で、わざわざ妻を気遣う夫を演じなくていいのに。
旦那様と話をすると惨めな気持ちになる……
「ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。」
「そろそろ、一緒に食事を食べれないか?
一人で食べるよりも、君と一緒に食べる方が美味しいんだ。」
「…………」
「……アリエル?」
「旦那様……、私はそろそろ領地に向かわせてもらいたいと思っています。
私が出て行ったら、すぐに旦那様の愛する人をこの邸に迎えて下さいませ。
お飾りの妻の私になど気を遣わなくていいのです。」
旦那様の顔が一瞬にして険しくなる。
「私にはアリエルだけだ。
愛人などいないし、欲しいと思ったことはない。
信じてくれ……」
「旦那様は初夜を済ませたら、領地で好きに過ごしていいと言ってくださいました。
リフォームが済んでいないなら、古くてもいいのでどこかの別邸でもいいのです。
お願いします。」
「あと少し……、あと少しだけ待ってくれ。
今はここの生活で我慢して欲しい。お願いだ!
時が来たら、君に打ち明けたいことがある。」
「……どうして?」
「お願いだ。どうかあと少し待ってくれ。
ここから出ていかないでくれ……」
その後も、旦那様は『出て行かないで』と『あと少し待って欲しい』という言葉を繰り返す。
公爵という立場の人が、どうしてここまで必死に私を引き留めるのか、全く理解出来なかった。
突き放すつもりでいたのに、懇願する旦那様を見たら胸がズキズキしてしまう。
「……あと少しだけ待ちます。
しかし、まだ気分が優れないので食事は部屋で取らせて下さい。」
「ありがとう。
君の体調が良くなるまで私は待つよ。」
旦那様は力なく微笑むと部屋を出て行った。
その日から十日ほど経ったある日、旦那様から両親と兄が公爵家に訪れる予定であることを告げられるのであった。
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