私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

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閑話 シールズ公爵

 ヴィオラ・バトラーは、私の王宮の執務室にやってきた。王太子妃教育の合間にわざわざ来たのだろう。

「シールズ公爵様。バトラー侯爵家に抗議文を送ってきたとは本当ですか?
 お義姉様から何を聞いたのか分かりませんが、誤解ですわ!」

「アリエルからは何も聞いていないから、誤解も何もない。
 バトラー侯爵令嬢は、シールズ公爵家を馬鹿にしているのか?
 格上である公爵家に先触れもなしにやってきて、部屋で公爵夫人を怒鳴りつけていたらしいな」

「確かに先触れもなく、突然お邪魔したのは申し訳ありませんでした。
 しかし私は王太子妃教育が多忙でして、なかなか時間が取れず、ずっと義姉に会いに行くことが叶いませんでした。あの日はやっと時間が空いたので、義姉にどうしても会いたくなった私は、失礼を承知で会いに行かせて頂きました」

「……それで?」

「しかし義姉からは、ここは元子爵令嬢が軽々しく来る場所ではないと冷たく言われてしまいました。
 私のことは何を言っても構いませんが、義姉はシールズ公爵様の不満まで話していたのです。
 この結婚は間違いだったとか、あの男が忘れられないとか、離縁がしたいだとか……
 国王陛下の決めた結婚にそんなことを言う義姉に我慢出来ず、つい感情的になってしまいましたわ。
 申し訳ありませんでした」

 弱々しく話をし、被害者のように振る舞うヴィオラ・バトラー。事情を知らない者が見たら簡単に騙されてしまうかもしれない。

「理由など関係ない。君はまだ、ただの侯爵令嬢だ。侯爵令嬢が公爵夫人に無礼を働いたことには変わりない。
 王太子妃になりたいのなら考えて行動するように。
 うちにはもう来ないでくれ」

「……っ! ……失礼します」

 アリエルを陥れようとしたが、私の反応が自分の期待とは違っていて面白くなかったようだ。あの女は顔色を悪くして退出していった。
 しかしあの女に抗議はしたものの、アリエルからは避けられる日々が続く。最近は体調不良を理由に食事すら別にしたいと言われ、顔すら合わせられなくなってしまった。
 やっとの思いで部屋を訪ねると、生気を失った目を向けられ、領地に行きたいとか、旦那様の愛する人をこの邸に迎えるようにとか、お飾りの妻の私に気を遣わなくていいだとか、聞いていて胸が痛くなるようなことを言われる。
 アリエルは私に心を閉ざしている。あの女に何かを言われたに違いない。

 しかし、私はここで折れるわけにはいかなかった。
 もうすぐあの女の調査が終わり証拠が揃う。そしたらアリエルの名誉を回復できる。それまでは何とか邸に引き留めておきたかった。

 そのやり取りの後日、あの女のメイドとアリエルの元メイドたちの証言が揃う。
 あの女は、自分のメイドたちに大金を使って口裏を合わせるように命令したらしい。それでメイドたちは、アリエルが使用人の男と密会して男女の関係だったと嘘の証言したようだ。
 反対にアリエルの元メイドたちは、アリエルと使用人の男に男女の関係はなく、彼女は婚約者であった殿下を大切に思っていたとバトラー侯爵たちに訴えたが、信じてもらえず仕事をクビになったということだった。
 アリエルはあの女に陥れられた。心中したのではなく、無理心中に巻き込まれた被害者だ。
 しかし、使用人たちの証言とアリエルを診察した医師の診断書だけで、あの女が素直に罪を認めるとは思えなかった。
 そこで私は、国王陛下にこのことを報告し力添えを願い出ることにした。
 国王陛下は私の報告を聞き、驚くことなく冷静な反応を見せる。そして昼食会を開き、あの女に自白剤を飲ませてみようと言って下さったのだった。

 国王陛下はすぐにバトラー侯爵家を招待して昼食会が開いてくれた。表向きは、婚約者候補とその家族との親睦を深めるという名目だ。私はバトラー侯爵の娘婿という立場で同席を許される。
 そこで陛下は乾杯がしたいと言って、皆にワインを振る舞う。その中で唯一の未成年であるヴィオラ・バトラーには自白剤入りのジュースが出される。
 ジュースのグラスが空になったことを確認した陛下は……

「ヴィオラ嬢、お前はアリエルが嫌いか?」

「消えて欲しいくらい大嫌いですわ!
 え、何で……?」

 自白剤を飲むと、本人の意思に関係なく質問されたことに正直に答えてしまうのだ。
 事情を知らないバトラー侯爵や夫人たちが愕然とする中、陛下は質問を続ける。

「アリエルが嫌いだから、陥れたのか?
 毒殺しようとして失敗したから焦っていたのか?」

「陥れようとしましたが、私は毒殺なんて考えていませんでした。
 ヘクターが身分を弁えずに、お義姉様に恋慕していたので、お義姉様もヘクターがずっと好きで悩んでいたと嘘を話しただけですわ。
 お義姉様はヘクターと結ばれることを願っているから、純潔を奪ってしまえば殿下には嫁げないし、お義父様も諦めてヘクターとの結婚を許してくれるはずだと言ったのに……、まさかあの男が毒で無理心中を図るとは思いませんでした。純潔を奪ってくれればそれで良かったのに! 余計なことをして、本当に使えない男でした。
 どうして……? 私は喋りたくないのに、口が勝手に……いやぁぁー!」

 パニックになるヴィオラ・バトラーを取り押さえながら、バトラー侯爵が口を開く。

「陛下、これは自白剤ですか?」

「そうだ。その女から確実に証言させるために、ジュースに自白剤を入れさせてもらった」

 陛下から自白剤と聞き、バトラー侯爵と夫人、エリックは全てを理解したようだった。

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