私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

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殿下の婚約

 気まずい雰囲気の中、殿下と話をしていると部屋の外が騒がしいことに気付く。
 すると殿下の従者らしき人物が部屋の中に入ってきて、殿下に何か耳打ちをしている。
 その瞬間、殿下の表情が険しくなるのが分かった。

「アリー、残念だが君に迎えが来たようだ」

「……迎えですか?」

「また会おう……」

 殿下はソファーから立ち上がって私の前まで来ると、手の甲にキスをして部屋から出て行ってしまった。
 突然のことに驚いて座ったまま固まっていると、聞き慣れた声で呼ばれる。

「アリエル! 大丈夫か?」

「……旦那様、どうしてここに?」

「仕事が早く終わったから、アリエルのいる茶会に顔を出して王妃殿下にご挨拶をしようと思って来てみたのだが……、部屋の外には殿下の従者と護衛騎士がいて、それで殿下がここにいることが分かって、少し焦ってしまった……」

 旦那様は余裕のない表情をしている。
 自分の妻が元婚約者と二人きりでいたのだから、不快に感じているのかもしれない。

「……申し訳ありませんでした。王妃殿下と交代して殿下が来られまして、少し話をしていました。
 二人きりで話をしましたが、やましい事は何もしておりません」

「私はアリエルを信じているから謝らなくていい。
 疲れた顔をしているな……。すぐに帰ろう」

「はい……」

 旦那様にエスコートされて馬車まで歩く。
 お茶会に来た時は一人だったから心細かったのに、今は旦那様が一緒にいるから、慣れない場所であっても安心出来た。
 いつどうなるか分からない夫婦関係だからこそ、あまり依存はしたくないと思っていたのに。
 旦那様に頼らないと生きていけない私は無力だわ……
 その日、旦那様は私が殿下と何を話したのかを聞いてくることはなかった。




 王妃殿下とお茶会をした日から一ヶ月くらい経過していた。
 ある日、いつもより早く帰ってきた旦那様に、二人で大切な話がしたいと言われた私は、旦那様の部屋に向かっていた。

「アリエル、急に呼び出して悪かったな。
 そこに座ってくれ」

「失礼します」

 私が旦那様の部屋に入るのはこれが初めてのことだったので、何だか不思議な気持ちになっていた。

「アリエル、落ち着いて聞いて欲しいことがある。
 殿下の婚約が決まった。アシュベリー国の第二王女だ」

「その方は前に兄が話していた方でしょうか?
 母国で厄介払いをされて嫁がされてくるという方ですか?」

「そうだ……。国王が側妃に生ませた王女らしいが、国王の血を引いているのかは分からないらしい。不義の子だという噂もある。
 アシュベリー国は王女を引き取ってくれるなら、多額の持参金の他に同盟関係の強化など、我が国の利になる話を沢山持ち掛けてきたようだ」

 そんな訳ありの人と本当に婚約するなんて……

「国王陛下と王妃殿下は、殿下と王女の婚約にあまり乗り気ではなかったが、アシュベリー国から提示された条件があまりに良かったため、この婚約を支持する貴族が多かったんだ。
 娘を持つ貴族は、側妃を狙うのに丁度いいと判断したようだな」

 側妃狙いの貴族の中に、バトラー侯爵家も入っているに違いない。自分の実家なのに本当に残念な気持ちになる。
 記憶喪失になる前の私は、本当にあの人たちと仲が良かったのかしら?

「アシュベリー国は王女の評判は良くないから、結婚したあとは幽閉しようが軟禁しようが好きにしていいとまで言ってきたらしい。
 殿下は王女との結婚は形だけにして、すぐに側妃を迎えるつもりだ。
 アリエル、これが何を意味するのか分かるな?」
 
 殿下の考えが信じられなかった。
 輿入れする王女殿下に対して不誠実だと思う。
 それに私は、殿下に離縁はしないと伝えたのに……

「……っ」

「アリエル、泣いているのか?」

 殿下はどうして分かってくれないのかしら?
 悲しくて悔しくて……、頬を涙が伝っている。

「私は……、殿下の側妃にはなりたくありません。
 殿下には離縁はしないことも、側妃にはならないことも、きちんとお話しをしましたのに……っ!」

 すると旦那様は私の側にやって来て、優しく抱きしめてくれたのだった。

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