私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ

文字の大きさ
52 / 67

ダンス

しおりを挟む
 殿下はこの場で旦那様が断れないことを知っていながら、わざと言っているに違いない。

「王太子殿下。私がダンスを踊るのは、愛する妻だけだと決めておりましたが、臣下の一人として王女殿下には早くこの国に慣れて頂きたいと願っているのも事実です。
 王女殿下、私でよろしければダンスにお付き合い頂けますか?」

「はい。喜んで……」

「イザベラ、良かったな」

 嬉しそうに微笑む殿下の顔が悪魔のように見えてきた。この人は何を考えているのかしら?

 その時、旦那様がグイッと私を抱き寄せる。
 周りで私達を見ている貴族からは『まあ!』とか『溺愛?』などと声が上がっている。
 突然のことに驚いていると、旦那様が耳元で囁く。

「すぐに戻るから待っていてくれ」

「……分かりました」

 その後、旦那様は王女殿下をエスコートしてダンスに行ってしまった。

「二人は本当に仲がいいのねぇ。
 ふふっ……良かったわ」

「王妃殿下。お恥ずかしいですわ。
 このような場で失礼致しました」

「いいのよ。幸せな二人を見ると、私達まで嬉しくなってしまうわ。
 陛下もそう思いませんこと?」

「そうだな。今日は仲の良い二人を見れて、本当に良かった」

 今の私は顔が赤くなっているかもしれない。
 そんな私に王妃殿下はニコニコして声を掛けてくれたから助かった。
 王妃殿下は他の貴族の前で、私を懇意にしているかのように振る舞うことで助けてくれたようだ。
 旦那様のいない時に、このような心遣いは本当に有り難い。
 その時、王太子殿下が口を開く。

「シールズ公爵夫人。公爵を待つ間、私のダンスに付き合ってくれないか?」

 これが殿下の真の目的……

「……畏まりました」

 皆の視線を感じながら、殿下とのダンスが始まる。
 この人は何を考えているのかしら?
 にこやかな顔をしているけど目が怖い。

「アリー。公爵はこの場で君を抱きしめてまで、私を牽制したかったようだ」

 殿下はにこやかな表情のまま、他の人に聞こえない声量で話をしている。
 笑っているように見えて、声には怒りが込められているのが伝わり、底知れぬ恐怖を感じてしまう。

「主人は牽制などしておりませんわ。私達は夫婦ですから……、あのようなこともあります。
 しかし、殿下のご気分を害しましたら申し訳なく思っておりますわ」

「気分を害する……? それ以上の気持ちだ。
 愛のない結婚なのに、公爵に抱きしめられて頬を赤く染めるアリーを見たら、嫉妬で狂いそうになったよ」

 やはり私の顔は赤くなっていたようだ。
 感情を表に出してはいけないのにやってしまったわ。

「殿下。どうか婚約者の王女殿下を大切にして下さいませ。
 私達夫婦のことなど捨て置き下さい」

「王家と筆頭公爵家は近い立場にあるのだから、捨て置くなんてことが出来るはずはないだろう?
 それと何か勘違いしているようだが、イザベラは私と結婚したら一人で静かに暮らすことを望んでいるようだ。
 アシュベリー国では側妃の娘として生まれたが、元敵国から嫁がされてきた姫の娘ということで、色々と辛い立場だったらしい。身の安全を保障してくれれば何も求めないと言っていたから、私はイザベラの希望通りにしてやるつもりだ」

 そんな事情があったから、王女殿下は全てを諦めたような目をしていたのね……
 一人で静かに暮らしたいだなんて、少し前の私と同じだわ。
 
「殿下は私達夫婦に愛がないことを憂慮しておりましたが、そんな殿下が王女殿下と愛のない結婚をするのですか?」

「ふっ! 今のアリーからそんなことを言われるとは思わなかったな。
 王族で生まれた以上は、政略結婚が当たり前で国に利がある結婚を求められる。この結婚はアシュベリー国と我が国の利害関係が一致しているから結ばれることになったんだ。
 アリーとの婚約だって、君がバトラー侯爵家の令嬢だから皆から認められたんだ。
 だが、たとえ政略でも私たちは愛が芽生えたから幸せだった……」

 殿下の反応は冷ややかだった。

「イザベラは私が側妃を迎えることに同意してくれている。むしろ、イザベラ自身が側妃を迎えることを強く望んでいるようだ。
 私達が婚姻して一年後に君を迎えにいくから、シールズ公爵に絆されずに待っていてくれ。
 そうだな……、今すぐに別居して計画的に離縁に向けて動いてくれたら助かる。
 今日はその話がしたかったから、君をダンスに誘えて良かったよ」

「私は側妃にはなりませんとお話しましたわ。
 色々ありましたが、主人と生きていくことに決めたのです」

「アリー、意地を張るのはもうやめろ。
 感情的になるな。皆が私達を見ているのだからな」

「……」

 殿下の言葉に表情が歪みそうになるのを何とか我慢していると、そのタイミングでダンスの曲が終わる。

「シールズ公爵夫人。ダンスに付き合ってくれて嬉しかったよ。
 また何かの時に付き合ってくれ。また会おう」

 殿下は笑顔で去っていった……

「アリエル!」

 そのすぐ後、旦那様に呼ばれてハッとする。

「旦那様……、そろそろ帰りましょうか?」

「ああ、そうしよう」

 旦那様は私の腰に手を回して歩き出した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った

Mimi
恋愛
 声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。  わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。    今日まで身近だったふたりは。  今日から一番遠いふたりになった。    *****  伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。  徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。  シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。  お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……  * 無自覚の上から目線  * 幼馴染みという特別感  * 失くしてからの後悔   幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。 中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。 本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。 ご了承下さいませ。 他サイトにも公開中です

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜

早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

いいえ、望んでいません

わらびもち
恋愛
「お前を愛することはない!」 結婚初日、お決まりの台詞を吐かれ、別邸へと押し込まれた新妻ジュリエッタ。 だが彼女はそんな扱いに傷つくこともない。 なぜなら彼女は―――

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

処理中です...