君を愛するつもりはないと言われた私は、鬼嫁になることにした

せいめ

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既成事実

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 顔面蒼白の伯爵様は、部屋に2人になると跪く。


「……エレノア。
 わ、私は君を裏切ることを…してしまった。
 すまない…。こんなことをするつもりは……」


 目がヤバイ…。メイド長があんな風に言っていた理由が分かったような気がする。

「伯爵様、昨夜の御相手はどちらのお方でしたの?」

 自称この家のボスで鬼嫁である私は、意識的に感情を抑える。

「………。」

「伯爵様。話せないなら、中途半端に謝罪などしなくて結構ですから、この部屋から出て行ってもらえますか?」

「…………アブス子爵令嬢だ。」


 アブス子爵令嬢は私よりも少し年上で、友人ではないが私も知っている。
 あの女は多分、ずっと伯爵様を慕っていたと思う。私が伯爵様を好きだった頃、夜会で伯爵様によく話しかけているのを見たことがある令嬢だったから覚えているんだよね。好きな人のことを慕っている人は、見ればなんとなく分かるから。
 見た目は大人しそうな令嬢だったと思うけど、ギル達が言っていた、第二夫人を狙う女狐の中にあの女もいたのかな?


「アブス子爵令嬢と一晩を過ごしたと言うのですね?閨を共にしたと?」

「…すまない。……私もなぜこんなことになったのか、分からないんだ。
 酒に酔ってしまったと思って、客間で休ませてもらったのだが、その後に気付くとアブス子爵令嬢とまぐわっていた。その後記憶が曖昧だが、気づいたら朝になっていた…。
 エレノアを裏切ろうなんて、考えたことはない。
 本当にすまない。………っ。」

 声が震えている?泣いてるの…?

 ハァー。泣きたいのはこっちだよ。
 何でこんな人と結婚しちゃったんだろう…。って何度思ったことか。

「…それで、アブス子爵令嬢はどうしましたか?」

「……純潔を奪われたから、責任を取って欲しいと言われた。」

 ありがちなパターンだ…。

「ではそうして下さい。」

「私は第二夫人は要らない!!」

 バカか…?ああ、ストレスだ。


「伯爵様、夜会でそんなことをしたら、すぐに色々な方の耳に入ってしまうでしょう。
 責任をとらなければ、貴方は何と思われるでしょうね?」

 多分あの女、真面目に自分の両親に報告してそうだし。

「……アブス子爵令嬢は、明日、両親と共にこの邸に来たいと言っていた。
 私は誠心誠意、謝ろうと思っている。」

 謝って済む問題ではない。既成事実作ったんだから…。あの女は伯爵様が好きなんだろうし。

 白い結婚まであと1年切ったから、静かに待とうと思っていたのに…。
 愛も何もない旦那様だけど、こんな裏切りはキツいな。


 伯爵様の話を聞いても、キリがないと判断した私は…

「伯爵様…、1人にしてもらえますか?」

「……分かった。
 エレノア、本当に申し訳なかった。」

 許すか!バカが…。



 伯爵様が出て行った後、私は実家のギルに手紙を書き、護衛騎士に急ぎで届けてもらうことにした。
 こんな時は、金持ちの実家と優秀な義弟に頼らせてもらおう。

 護衛騎士は1時間かからないで戻って来た。単騎は速い!前世なら騎手に推薦してたけど、体がデカいから無理か…。じゃなくて!

「お嬢、ギルバート様から手紙を預かってきました。」

「ご苦労!ギルは何か言ってた?」

「いえ特には。…無言でしたが、怒っておられるようでした。」

「そう。ありがとう。」

 普通怒るよね。余所のお嬢さんに手を出して、無断外泊してきた義姉の旦那様の話を聞かされたらさ。
 どれ、ギルからの手紙を見てみようか。

〝詳細かつ確かな情報を得るには明日には間に合わないが、急ぎで調べる。
 義姉さん、これが全て終わったら、家に帰ってくる準備をして。〟

 
 ですよねー。明日までにはムリなのはしょうがない。
 家に帰って来いってか。出戻り扱いされそうだな。



 ストレスに耐えながら、明日はやり過ごすしかないな…。
 

 
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