スターチスを届けて

田古みゆう

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6.3月13日

3月13日 p.1

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 浩志は中庭の例の花壇の前にいた。

 優から折り紙の花の話を聞いてから数日の間、彼は毎日のように夕刻になると教室の窓から中庭を見下ろしていた。そこには必ず、真新しい大きめの制服を着た小さな後ろ姿があった。その後ろ姿を目にする度に、浩志の中で今回の件とせつなが何か関係しているのではないかと思えてならなかった。確信はどこにもなかった。だが何故だかそう思えて、日が経つにつれその思いは浩志の中から消えなくなっていった。

 そのため彼は、直接少女に確かめてみようと思い、この場所でせつなが来るのを待ち構えているのである。しかし、今日に限ってせつなの姿は花壇の前にない。彼はその場で足踏みをして何とか体を温めようとするけれど、木枯らしの吹く中、そんなことでは体は温まらず、残念なことにどんどんと冷えていく。

(早く来てくれよ……)

 腕を組み、肩を窄めて縮こまりながら足踏みを続けた。何とか気を紛らわせようと、何気なく花壇へ目をやる。すると、花壇の様子が以前と少し違うような気がした。何が違うのだろうか。浩志は寒さ対策の足踏みをやめて、目をすがめて花壇をじっくりと見やる。

 そして、以前との違いに彼はハッと目を見張った。花壇の中には、土を押し上げるようにして茶色の中に緑色の小さなものがいくつもあった。

(咲いたっ!?)

 浩志は花壇の淵にしゃがみ込むと、息を殺して土をじっくりと見る。見間違いではなく、確かに土の中から緑色のものが押し出ようとする膨らみが花壇のあちらこちらに見受けられた。状況を正確に表すと発芽であり、決して開花した訳ではない。つまり、彼が瞬時に思ったことは間違いではあるのだが、今の彼にはそんなことはどうでもいいことだった。

 浩志はバッと立ち上がると慌ててキョロキョロと周囲を見回し始めた。

 この花壇の変化をあの少女に早く伝えたい。

 そう思うのに、こんな時に限ってせつなは一向に姿を現さない。ソワソワとしながら浩志はくまなく視線を動かして、中庭にせつなの影を捉えようとしていた。

 そんな彼の背後から不意に声が掛けられる。

「あなた、こんなところに居て寒くない?」

 背後からの声に浩志が素早く振り向くと、木枯らしの中、大きめのウェーブがかかった髪を肩口で揺らす女性がいた。女性は、浩志のようにコートのようなものは羽織っておらず、少し厚手のカーディガンの下からのぞく赤いエプロンが目を引いた。

「えっと……すみません。もう帰ります」
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