スターチスを届けて

田古みゆう

文字の大きさ
33 / 113
9.3月17日

9.3月17日 p.2

しおりを挟む
「ああ。なるほど。確かにそうだね」

 彼女は自分から彼の家に押し掛けたことなど忘れたかのように眉間にシワを寄せ、納得と同情の入り混じった相槌を大きく打つ。思春期の彼らにとって、親の干渉は回避すべき事案でしかないようだった。

 数分歩くと目指す公園にたどり着いた。そこは、小さなブランコと鉄棒、それから、木蔭に置かれたベンチ以外はなにも無いこじんまりとした公園だった。夕刻ということもあり、公園に人影はなくひっそりと静まり返っている。

「ここ」

 それだけ言って、浩志は公園の小さな門を通り過ぎ、中へと入っていく。優も後からついていく。彼は木蔭のベンチへは向かわず、鉄棒の方へと歩を進めていた。

「ねぇ。ベンチに座らない?」

 優が声を掛けたちょうどその時、彼は鉄棒に手をかけ、素早くクルリと逆上がりをして体を鉄棒の上へと持ち上げていた。そして、そのままそれを跨ぎ、器用に鉄棒の上に腰掛けた。

「ん~、ベンチはまだちょっと寒いかな」

 浩志は、Tシャツにハーフパンツという部屋着姿のまま外へ出てきていた。いくらか春めいてきたとはいえ、夕刻の木蔭は確かに肌寒いだろう。そのことに思い至った優はそれ以上は何も言わず、浩志が腰かける鉄棒へと歩み寄る。

 そして支柱に背を預けるようにして寄りかかると、空を見上げた。浩志の自宅や今いる公園は小高い場所にあり、頭上を遮る物がないためかいつもよりも空が広かった。青よりもオレンジ色の面積が増え始めた空は何だか幻想的で、彼女はその部分だけを切り取りたくなり、両手でフレームの形を作るとそれを空に向け覗き込んでみた。空のグラデーションに見入っていると、頭上から浩志の声が降ってくる。

「それで、話ってなんだよ?」
「えっ? ああ。そうだった」

 彼女は本来の目的を思い出すと、くるりと体の向きを変えて鉄棒にもたれかかる。

「今日、部活のときに先輩に聞いたんだけど……もしかしてと思って……」
「何が?」

 話の意図がつかめず、浩志は彼女に話の先を促した。

「昨日、成瀬が待ち合わせをしていた子。名前は、蒼井せつなさんよね?」
「別に、待ち合わせってわけじゃないけど……まぁ、そう」
「その子、お姉さんの結婚式に花を送りたくて、今、準備しているのよね?」
「う~ん。結婚式に送りたいのかどうかは知らないけど、結婚のお祝いにするつもりみたいだな」

 優の質問の意図が全く読み取れないまま、浩志は彼女から投げられる質問に淡々と答える。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...