スターチスを届けて

田古みゆう

文字の大きさ
37 / 113
10.3月19日 (1)

10.3月19日 (1) p.2

しおりを挟む
 優の言葉に浩志は呆れたようにため息を吐くと、教室へと向かって歩を進めた。

「だから、それはお前の勘違いだからだろ? たまたま同じ苗字ってだけのことで」

 浩志は自身の説が正しいと言わんばかりに優の仮説を一蹴するが、彼女は何故だか不満顔のままだった。

「成瀬の考えもそうかなとは思ったよ。でも、どうしても引っかかるの。苗字が同じってだけならまだしも、結婚の時期まで同じなんだよ。ただの妄想では無いような気がするのよね」

 優はどうやらその事が頭から離れなかったようだ。

「私ね、なんだか自分の考えが間違っているような気がしなくて、私なりにせつなさんのこと調べてみたの」
「調べてって……お前何したんだよ?」

 優の言葉に浩志は訝しそうに眉根を寄せて彼女の顔を見た。幾分険しい彼の顔色に、彼女は慌てて言葉を言い直す。

「ああ、えっと……調べてって言っても、部活の後輩にせつなさんの事を知っているかって聞いてみただけよ」

 優は自身の顔の前で手をヒラヒラと振って、大した事はしていないと彼の視線を散らす。

「それで?」

 彼女の動きに少しばかりの苛立ちを覚えつつも、浩志もせつなの事については殆ど何も知らないため、彼女の話に興味を引かれた。彼が自分の話を聞く姿勢を見せた事に優は安堵するとともに、先を話す事に小さな不安を覚える。

「それがね……」
「何だよ?」

 口籠る優に浩志は話の先を促した。優はたっぷりと間を置いたのち、不思議そうに口を開いた。

「誰もせつなさんの事を知らないって言うのよ」

 彼女の言葉の意味がよく分からないのか、浩志は小さく首を傾げる。

「どういう事だよ?」
「私にもよく分からない。せつなさんは、一年二組なのよね?」
「そうだと思うぞ」
「間違いない? 他の学年の子とか?」
「いや、いつもあの教室にいるし多分間違いないと思うけど……そう言われると、きちんと本人からクラスを聞いた事はないな」

 浩志は記憶を辿るように「う~ん」と唸りながら腕を組み考え込んだ。そんな浩志の様子に、優は更に不思議そうにしつつ言葉を繋げる。

「せつなさんのことを聞いた後輩の中に一年二組の子はいなかったから、もしかしたら、本当にせつなさんのことを知らないだけなのかも知れないけど……」
「けど?」
「確認した子の誰もが知らないって言うの」
「う~ん。まぁ、あいつ大人しそうだからな。スポーツやってるようなお前みたいなチャキチャキしたタイプとは関わってないんじゃないか?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...