スターチスを届けて

田古みゆう

文字の大きさ
39 / 113
10.3月19日 (1)

10.3月19日 (1) p.4

しおりを挟む
「まぁな~。でも、せつなは物静かだけど、結構ガツンと言う感じだぞ。影が薄いとかじゃないと思う。いじめの対象になるかなぁ……やっぱ違うか」

 一人でいじめ説を一蹴する浩志に、優は解決しない疑問を投げかける。

「でもじゃあ、なんで誰もせつなさんのことを知らないんだろう? やっぱりなんか変じゃない?」

 二人は顔を見合わせ互いに眉を寄せる。しばらくの間、小さく唸り声を上げながら尤もらしい答えを導き出そうとしていたが、結局何も出てこなかった。浩志が先に根を上げる。

「あ~! もう無理。考えたって分かるわけない。今からせつなのところに行こうぜ」
「え? 今から?」

 せつなについての考えを巡らせている間に、二人は教室へ辿り着いていた。自分の机に鞄を掛けようとしていた優は、浩志の突然の提案に驚き、鞄を取り落とす。慌てて鞄を拾い上げ机の上に置くと、優はツカツカと浩志のもとへ歩み寄った。

「もうすぐ先生が来るのにどうするのよ?」
「朝の連絡なんて聞かなくたって大したことねぇーよ」

 どうってことないという顔をする浩志に、優は目に見えて呆れた。

「あんたはいいかもしれないけど、呼び出された方はいい迷惑よ。あんたって、どうしてそうも短絡的なの!?」
「なっ!! 元はと言えば、お前がせつなの事が気になるって言い出したんだろ。だから俺は……」

 優と浩志が言い合いを始めても周りのクラスメイトは、どこ吹く風。また今日も痴話喧嘩を始めたよくらいの生暖かい視線を向けられるだけだった。そうこうするうちに、朝の予鈴が二人の声をかき消すように鳴り響く。

 各クラスで朝のSTショートタイムを終えると全校生徒が校庭へ集められ、今年度最後の全校集会という名の修了式が行われた。

 校長先生や生徒指導の先生が春休みの過ごし方について長くてつまらない話を長々としている間、浩志は背伸びをしたり、頭をふらふらと左右に振りながら生徒たちの中にせつなの姿を探した。

 中学と高校の合同で行われる全校集会は、中三生と高三生が既に登校していない事もありいつもの集会よりも人が少ない。各クラスがいつもよりも幾分余裕を持って整列している。しかしそうは言っても、視界の先はほとんど他の生徒の姿に遮られ、彼はせつなの姿を捉えられないでいた。

 集会が終わり生徒がバラバラと教室へ戻り始めると、浩志は慌てたように一年生の列へ駆けて行く。そんな浩志の後ろ姿を見た優は、友人たちの輪を離れるとゆっくりと彼の後を追った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...