スターチスを届けて

田古みゆう

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12.3月19日 (3)

12.3月19日 (3) p.1

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 生徒指導室を後にした浩志と優は、先程聞いた話と現実がうまく噛み合わず、地に足つかぬ感覚のままぼんやりと校内を歩いていた。

「ねえ。成瀬?」

 張りのあるいつもの声はどこへ行ってしまったのか、力のない優の声はどこかふわっとしていた。そんな力無い声は、自分の意識下に沈み込んでいる浩志の耳までは届かず、優の口から発した瞬間に空気中に散り溶けてしまう。二人の間には、お互いの声が届かない程に分厚い沈黙の壁があるようだった。

 沈黙の中どこへ行くともなしに歩いていた浩志たちは、中庭の見える渡り廊下へと来ていた。廊下の壁にもたれ、どこを見るともなしにぼんやりとしている浩志の腕に優はそっと手を当てた。彼は、一瞬ビクリと肩を振るわせたが、それが優の手の温もりだと気がつくと、やがてぼんやりとしていた焦点も合ってきたようだった。幾分か、浩志が表情を取り戻したのを見てとった優が遠慮がちに声をかける。

「ねえ。成瀬? 小石川先生の話が本当だとしたら、蒼井せつなさんという人は、もういないはずよね?」
「ああ」
「でも、成瀬は蒼井せつなさんに会ったのよね?」
「ああ」
「しかも、十五年前の姿のせつなさんに会っているのよね?」

 浩志は何かを考えるように優と合わせていた視線をするりと外すと、中庭を見つめた。

「……こいちゃんの話だとそうなるな」
「それって、せつなさんは幽……」
「っ!」

 優の言葉を遮るようにして、浩志が鋭く息を呑んだ。

 彼の視線の先を辿るようにして優も視線を中庭へと滑らせる。そこには、肩ほどまである髪を二つに分けて縛り、幾分か大きめの真新しい制服を着た少女の姿があった。少女は花壇をじっと見つめている。

 浩志も、少女の姿を目にしたのだろう。優が口を開くより早く、彼は駆け出した。優も慌てて浩志の後を追う。中庭へ飛び出した浩志は、鋭く声を発した。

「せつな!」

 花壇を見つめていた少女が振り向いた。浩志の背中越しに少女の顔を見た優は、先程目にしたばかりの白黒の少女の写真と瓜二つの顔に思わず目を見開き立ち止まった。

 突然息を切らして現れた浩志と見知らぬ女子生徒を、せつなは無表情のまま見つめ続けている。彼らの周りだけ時が止まったかのように誰一人動くものはいない。

 どれだけそうして居ただろうか。沈黙を破ったのは、意外にもせつなだった。

「なに?」

 無感情に響くその声を聞いた優は、目を見開いたまま、何を言うでもなくただ口をパクパクと開閉している。
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