スターチスを届けて

田古みゆう

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16.4月1日(1)

16.4月1日(1) p.11

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「せつなさんは、悲しいから泣いているんじゃありません。先生たちに、自分がここに居るって伝えられたことが嬉しいんだそうです」

 せつなの意図を伝える優を食い入るように見つめていた蒼井は、口元を手で覆いながら無言で相槌を打った。蒼井の傍らに佇む新郎は、そんな蒼井を支えるように肩にそっと手を添えていた。正人の目元にも光るものがある。

「せつな……、あの……」

 蒼井が何かを言おうと口を開いた。しかし気持ちが追いつかず、何も言えずに口籠る。しばらくの沈黙が続いたあと、皆と同じように目を赤くした小石川が、気遣うように声をかけた。

「永香。もうそろそろ……。生徒がざわつき出しているし、次の予定もあるから」

 小石川の言葉で壇上からそれとなく司会役の生徒へ視線を送ると、チラチラとこちらの様子を伺っているのがわかる。

「……そうね。でも」

 名残惜しそうに浩志と優の間の空間を見つめる蒼井を見かねて、小石川が提案した。

「この会が終わってからもう一度皆で集まろう。成瀬と河合、それからせつなも。それでいいか?」

 優たちは互いに視線を交わし、頷きあう。

「わかりました。もちろん、せつなさんも大丈夫です」
「良し。分かったな、永香。せつなとの話は、またあとでだ」
「……うん。でも」

 これ以上時間を引き延ばせないことを頭では理解していても気持ちが追いつかない蒼井は、どこか歯切れの悪い返答をする。そんな蒼井に向かってせつながニカッと笑いかけた。

「もう、お姉ちゃん。我儘言っちゃだめだよ。せつなは、中庭のあの花壇の前で待っているから。あとで絶対来てね」

 優からせつなの言葉を聞いた蒼井は、いつしか重力に耐え切れずに零れ落ちてしまった涙を拭うと、せつながいるであろう空間に向かって何度も頷いた。

「うん。うん。必ず。お姉ちゃん、絶対に行くから待っていてね」

 蒼井の答えを聞いたのち、浩志たち三人と小石川は壇上を降りた。

 他の生徒よりも明らかに長く壇上で話していた浩志たちは、これ以上目立たないようにと、壁際をそっと進み会場後方の席へ戻る。その間小石川は、壇上へ訝し気に視線を向けていた司会の生徒へ歩み寄り、二言三言冗談を交えて言葉を交わす。司会の気を逸らしてから、進行を進めるようにとサラリと促した。

 その後、参加者全員の集合写真を撮り、涙ながらの蒼井の謝辞を経て、サプライズパーティーは和気藹々と盛り上がりを見せるうちに閉会した。
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