拾われ子だって、姫なのです!

田古みゆう

文字の大きさ
17 / 140

魅惑の姫様(6)

しおりを挟む
 千代の養父である井上正道と、太郎の養父である高山小十郎は、揃って非番だったらしく井上の屋敷で酒を酌み交わしていた。そこへ千代と太郎が戻って来て、早速ことの次第を報告する。

 話を聞き終えてまず第一声をあげたのは、男二人に酌をしていた千代の義母、志乃であった。

「千代、貴女はまたそのような無茶をして。もう少し年頃の娘らしく、淑やかに出来ないのですか?」

 志乃は溜息混じりにそう言うが、千代は特に気にした様子もない。むしろ得意げに胸を張って言った。

「だってお母様。突然、下女になれだなんて失礼な物言いをする輩を、そのままにしておくなんて出来ませんわ」

 志乃はそんな千代の様子に再び溜息を吐くと、今度は太郎に向かって問いかける。

「太郎もその場に居たのでしょう? どうして千代の振る舞いを許したのです?」

 志乃の問いに、太郎は抑揚のない声で答えた。

「申し訳ありません。奥方様」
「お母様。太郎を責めないでくださいませ。太郎は庇ってくれたのです。それをわたくしが振り切っただけなのです」

 千代の言葉に志乃は、三度みたび目の溜息を吐く。

「……全く。貴女はどうしてそうも勝ち気なのです? そんな事では、良い縁談など頂けませんよ?」

 志乃の叱責に、千代は肩を竦めて見せた。縁談話など、千代にとっては全く興味のない事だった。

 そんな二人の様子をどこか愉快そうに眺めていた正道が、がははと笑って言った。

「まぁいいではないか! 奥ゆかしいばかりが良いと言うものでもあるまい。自ら火の粉を振り払う強さも、これからの女子おなごには必要な事かもしれぬ」

 正道の手放しで褒め称える様子に、志乃は呆れたように四度目の溜息を吐く。

「旦那様がそのように甘やかすから、この子はこのように勝ち気な子に育ってしまったのですよ。この子が行き遅れたらどうするのです!」

 志乃の怒りの矛先が正道に向くと、正道はカラカラと笑い、太郎に目を向けた。

「その時は太郎が貰ってくれるさ。なぁ」
「……いえ、私は。姫様を御守りするのが役目ではありますが、そのような……」

 太郎の控えめな返答に被せるように、高山が豪快に笑う。

「がははは! なんだ太郎、お前もなかなか隅に置けんなぁ!」

 そんな養父の様子に太郎は面倒臭そうに顔をしかめてみせるが、酒の入っている男親たちは、太郎のそんな態度を気に留める様子もなく上機嫌に笑い声をあげた。

「もう! お父様も高山のおじ様も、今はそんな話をしている場合ではありませんのよ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

【読者賞受賞】江戸の飯屋『やわらぎ亭』〜元武家娘が一膳でほぐす人と心〜

☆ほしい
歴史・時代
【第11回歴史・時代小説大賞 読者賞受賞(ポイント最上位作品)】 文化文政の江戸・深川。 人知れず佇む一軒の飯屋――『やわらぎ亭』。 暖簾を掲げるのは、元武家の娘・おし乃。 家も家族も失い、父の形見の包丁一つで町に飛び込んだ彼女は、 「旨い飯で人の心をほどく」を信条に、今日も竈に火を入れる。 常連は、職人、火消し、子どもたち、そして──町奉行・遠山金四郎!? 変装してまで通い詰めるその理由は、一膳に込められた想いと味。 鯛茶漬け、芋がらの煮物、あんこう鍋…… その料理の奥に、江戸の暮らしと誇りが宿る。 涙も笑いも、湯気とともに立ち上る。 これは、舌と心を温める、江戸人情グルメ劇。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

処理中です...