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魅惑の姫様(6)
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千代の養父である井上正道と、太郎の養父である高山小十郎は、揃って非番だったらしく井上の屋敷で酒を酌み交わしていた。そこへ千代と太郎が戻って来て、早速ことの次第を報告する。
話を聞き終えてまず第一声をあげたのは、男二人に酌をしていた千代の義母、志乃であった。
「千代、貴女はまたそのような無茶をして。もう少し年頃の娘らしく、淑やかに出来ないのですか?」
志乃は溜息混じりにそう言うが、千代は特に気にした様子もない。むしろ得意げに胸を張って言った。
「だってお母様。突然、下女になれだなんて失礼な物言いをする輩を、そのままにしておくなんて出来ませんわ」
志乃はそんな千代の様子に再び溜息を吐くと、今度は太郎に向かって問いかける。
「太郎もその場に居たのでしょう? どうして千代の振る舞いを許したのです?」
志乃の問いに、太郎は抑揚のない声で答えた。
「申し訳ありません。奥方様」
「お母様。太郎を責めないでくださいませ。太郎は庇ってくれたのです。それをわたくしが振り切っただけなのです」
千代の言葉に志乃は、三度目の溜息を吐く。
「……全く。貴女はどうしてそうも勝ち気なのです? そんな事では、良い縁談など頂けませんよ?」
志乃の叱責に、千代は肩を竦めて見せた。縁談話など、千代にとっては全く興味のない事だった。
そんな二人の様子をどこか愉快そうに眺めていた正道が、がははと笑って言った。
「まぁいいではないか! 奥ゆかしいばかりが良いと言うものでもあるまい。自ら火の粉を振り払う強さも、これからの女子には必要な事かもしれぬ」
正道の手放しで褒め称える様子に、志乃は呆れたように四度目の溜息を吐く。
「旦那様がそのように甘やかすから、この子はこのように勝ち気な子に育ってしまったのですよ。この子が行き遅れたらどうするのです!」
志乃の怒りの矛先が正道に向くと、正道はカラカラと笑い、太郎に目を向けた。
「その時は太郎が貰ってくれるさ。なぁ」
「……いえ、私は。姫様を御守りするのが役目ではありますが、そのような……」
太郎の控えめな返答に被せるように、高山が豪快に笑う。
「がははは! なんだ太郎、お前もなかなか隅に置けんなぁ!」
そんな養父の様子に太郎は面倒臭そうに顔をしかめてみせるが、酒の入っている男親たちは、太郎のそんな態度を気に留める様子もなく上機嫌に笑い声をあげた。
「もう! お父様も高山のおじ様も、今はそんな話をしている場合ではありませんのよ!」
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「だってお母様。突然、下女になれだなんて失礼な物言いをする輩を、そのままにしておくなんて出来ませんわ」
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「……全く。貴女はどうしてそうも勝ち気なのです? そんな事では、良い縁談など頂けませんよ?」
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「まぁいいではないか! 奥ゆかしいばかりが良いと言うものでもあるまい。自ら火の粉を振り払う強さも、これからの女子には必要な事かもしれぬ」
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「その時は太郎が貰ってくれるさ。なぁ」
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