レンタルオフィス、借りて下さい

田古みゆう

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6.やっぱり快適な仕事場がいいよね

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 やはり飛び込み営業のように、1軒1軒アポなしで当たるべきだろうか。いやいや。今どき、アポなし訪問など相手にされるわけがない。

 しかし、デジタル広告もSNSも、思ったように宣伝効果を得られていない。もう動くしかないのだ。

 自分を奮い立たせ、まずは戸数の多いマンションにあたろうと、足を向ける。狙いを定めた場所は、1階が商業施設用のフロアになっていた。その一角、有名コーヒーチェーン店は、相変わらず、商品を求める客の列が店の外にまで続いている。俺は、その店に目を留めた。

 たくさんの利用客がいるのだが、そのうちの8割ほどがパソコンを開いている。一人客のほとんどが、パソコンと向き合っていたり、勉強をしていたり、何かしらの資料を広げているのだ。

 求めていた客層がまさに、ここにいた。

 俺は、アポなし訪問計画をあっさりと捨て去り、この店でしばらく様子見をすることにした。コーヒーを片手に空いている席に座り、鞄からパソコンと適当な資料を取り出す。周りの席は、そんな感じのサラリーマンばかり。

 店に入って数時間。注意深く観察をしてみたが、仕事をしている人や、勉強をしている人が席を立つことはない。たぶん、俺の目論見は当たっている。

 そう結論付け、早速行動に移す。手元にあった資料を1枚、ハラリと隣のサラリーマンの足元に落とす。

「あ、すみません」
「いえいえ。はいどうぞ。お仕事ですか?」

 資料を拾い上げたサラリーマンは、爽やかな笑顔を向けてくれた。

「そうなんですよ。自宅で仕事をしていても捗らなくて。そちらもですか?」
「まぁ。ここは、人の出入りはそれなりにありますけど、広々とした座席とか、気晴らしのコーヒーとかが飲めて仕事が捗りますもんね」

 適当に相手の話に合わせて、相槌を打つ。やはり、仕事場を求めている人のようだ。よし、それならば。

 俺は意を決し、デジタル広告をその人に見せようとした。

「実は……」
「仕事のできる場所をお探しと言うことでしたら、私、ここよりも静かでいい場所を知っていますよ」

 サラリーマンはそう言うと、自分のスマホを手早く操作し、画面を見せてきた。

「ここは、冷暖房完備。防音設備の整った個室ブース完備。もちろんWi-Fi設備だってあります。月極で借りれば、ドリンクも飲み放題。自宅やカフェで仕事をするよりも断然仕事が捗りますよ」
「え?」

 レンタルオフィスを営業するはずの俺が、逆に素敵なオフィスを営業されてしまった。
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