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隣人だもの。……気になるでしょ。(17)
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成瀬さんのことが頭から離れない私は、さりげなく彼のことを話題にしてみる。すると由紀さんは少し茶化すように答えた。
『え~、何なに? 千紘ちゃん、なるちゃんのことが気になるの? 推し変しちゃう?』
茶化してくる由紀さんに、私は「違います」と慌てながら否定する。しかし言葉とは裏腹に、私の頭の中は成瀬さんのことでいっぱいだった。
電話の向こうで由紀さんがくすくすと笑う。
『ごめんごめん。冗談だよ。千紘ちゃんが影山担下りるとかあり得ないもんね』
「そうですよ。私の蓮への愛は揺らぎませんから」
『蓮は私を光の中へ連れ戻してくれた王子様ですから~、だっけ?』
由紀さんの言葉に、私は何度も頷く。
そう。蓮は暗闇の中にいた私を救い出してくれた救世主なのだ。蓮は私の心の支え。そんな蓮に忠誠の愛を誓うのは、当然のこと。
それなのに、推しの雄姿を観ないで、バックについた成瀬さんに釘付けになってしまうなんて……。今も、見逃してしまった蓮のパフォーマンスよりも、成瀬さんのことが気になっているなんて……。こんなのは蓮に対する裏切りだ。
そう自分に言い聞かせてみても、気持ちは全くついていかない。罪悪感のような何とも言えないモヤモヤとした気持ちを抱え、私は口籠る。
すると由紀さんが電話口で明るく笑った。
『千紘ちゃん、また難しく考えすぎてるんじゃない? 私たちヲタクの使命は全力で推しを推すこと。それが出来ていれば、推しが何人いたっていいんだよ』
由紀さんの言葉にハッとする。
全力で推す!
そうか。今日の私はこれが出来ていなかった。だから、こんなにモヤモヤとした気持ちを抱えているんだ。
由紀さんの言葉に目が覚めた私は、思わず電話に向かって頭を下げた。
「由紀さん! ありがとうございます!」
グズグズと悩んでいたのがバカらしく思えてくるほど、由紀さんの言葉は私の心を軽くしてくれた。私は、少し晴れやかな気持ちで口を開く。
「私、これから全力で推し事することを誓います!」
私の現金な返答に、電話の向こうで由紀さんが苦笑するのがわかった。
きっと単純だなと思われているのだろう。でも、私の心には由紀さんの言葉がしっかりと刻まれたのだから仕方がない。
そう思った途端に、また彼のことで頭がいっぱいになる。この気持ちの昂りは、久しぶりだ。蓮を推し始めたときのような、心が沸き立つようなこの感じ。
……隣人だけど、推してもいいよね? だって、気になるんだもん。
『え~、何なに? 千紘ちゃん、なるちゃんのことが気になるの? 推し変しちゃう?』
茶化してくる由紀さんに、私は「違います」と慌てながら否定する。しかし言葉とは裏腹に、私の頭の中は成瀬さんのことでいっぱいだった。
電話の向こうで由紀さんがくすくすと笑う。
『ごめんごめん。冗談だよ。千紘ちゃんが影山担下りるとかあり得ないもんね』
「そうですよ。私の蓮への愛は揺らぎませんから」
『蓮は私を光の中へ連れ戻してくれた王子様ですから~、だっけ?』
由紀さんの言葉に、私は何度も頷く。
そう。蓮は暗闇の中にいた私を救い出してくれた救世主なのだ。蓮は私の心の支え。そんな蓮に忠誠の愛を誓うのは、当然のこと。
それなのに、推しの雄姿を観ないで、バックについた成瀬さんに釘付けになってしまうなんて……。今も、見逃してしまった蓮のパフォーマンスよりも、成瀬さんのことが気になっているなんて……。こんなのは蓮に対する裏切りだ。
そう自分に言い聞かせてみても、気持ちは全くついていかない。罪悪感のような何とも言えないモヤモヤとした気持ちを抱え、私は口籠る。
すると由紀さんが電話口で明るく笑った。
『千紘ちゃん、また難しく考えすぎてるんじゃない? 私たちヲタクの使命は全力で推しを推すこと。それが出来ていれば、推しが何人いたっていいんだよ』
由紀さんの言葉にハッとする。
全力で推す!
そうか。今日の私はこれが出来ていなかった。だから、こんなにモヤモヤとした気持ちを抱えているんだ。
由紀さんの言葉に目が覚めた私は、思わず電話に向かって頭を下げた。
「由紀さん! ありがとうございます!」
グズグズと悩んでいたのがバカらしく思えてくるほど、由紀さんの言葉は私の心を軽くしてくれた。私は、少し晴れやかな気持ちで口を開く。
「私、これから全力で推し事することを誓います!」
私の現金な返答に、電話の向こうで由紀さんが苦笑するのがわかった。
きっと単純だなと思われているのだろう。でも、私の心には由紀さんの言葉がしっかりと刻まれたのだから仕方がない。
そう思った途端に、また彼のことで頭がいっぱいになる。この気持ちの昂りは、久しぶりだ。蓮を推し始めたときのような、心が沸き立つようなこの感じ。
……隣人だけど、推してもいいよね? だって、気になるんだもん。
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