推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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隣人だもの。……気になるでしょ。(16)

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 由紀さんが『そうそう』と電話口で頷く。

「由紀さんは、あの人のこと知っているんですか?」

 蓮のバックを務めていた成瀬さんのことを、何故由紀さんは知っているのか。実は成瀬さんは、スコッコの間では有名なバックダンサーだったりするのだろうか。

 そんな私の疑問に、由紀さんはあっさりと答えてくれた。

『知ってるもなにも、なるちゃんは樹と蓮の同期だよ』
「えっ?」

 その答えに私が驚きに固まっていると、由紀さんが話を続ける。

『昔は結構一緒に先輩のバックについたりしたよ。なるちゃんの名前、なんて言ったかな……』

 由紀さんが電話の向こうで必死に思い出そうとしている様子が伝わってくる。

「……成瀬陽一?」

 私は思わず成瀬さんの本名を口にしていた。由紀さんが電話の向こうで『そうだそうだ』と納得の声を漏らす。

『やっぱり千紘ちゃんも知ってたんじゃん』

 由紀さんが、「なんだぁ」なんて言いながら笑っている。私は、そんな由紀さんに慌てて訂正した。

「いえ、知ってたっていうか……その、なんていうか……」

 言葉が尻すぼみになる。そんな私の様子を気にすることもなく、由紀さんは話を続ける。

『でもさ~、初めてだよね。なるちゃんがScorpioスコルピオのバックについたのって。珍しいっていうか、超レア。樹も嬉しそうだったし、良い場面見れちゃった~』
「確かに蓮もいつもより楽しそう……だったかも」

 ライブの様子を思い出そうとしてみても、成瀬さんの姿ばかりが頭に浮かんでしまい、蓮のパフォーマンスをロクに覚えていない。はっきりと「楽しそうだった」と言い切れないところが悔しい。

 なんで私は推しのことをちゃんと観ていなかったんだ。

 不甲斐ない自分に内心で腹を立てる。自分に対する怒りで、スマホを握る手に力がこもった。そんな私の気持ちなど露知らず、由紀さんは話を続ける。

『っていうかさ、珍しいと言えば最後の整列の時、いつもと違ったよね? いつもは礼1回なのに今日は2回してたのって、何か意味があるのかなぁ?』

 興奮気味に捲し立てる由紀さんの話に、私は曖昧な返事を返す。

「え? うーん、どうでしょう。勢いで2回しちゃっただけじゃないですか?」
『でもいつも1回だけなのに、そんなことある? 絶対意図的だよ。アレは。なんかさ、今日のScorpioは全体的に力入ってたと思わない? 特別感みたいな』

 由紀さんの言葉に「確かに」と頷く。

「成瀬さ……なるちゃんの出演も、特別と言えば特別ですもんね」
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