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隣人特権、強すぎるんですけど。(18)
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お酒に酔っているのか、推しの笑顔に酔っているのか、それとも両方に酔っているのか。ふわふわと浮かれた気分の私は、勧められるままにお酒を飲み、他愛ない話をする。成瀬さんはビール片手に、私の話に相槌を打つ。ドキドキするけれど、それ以上に楽しい時間がゆるゆると過ぎていく。
「もお~。本当に驚いたんですよ。Scorpioのライブ観てたら、突然成瀬さんが映ったんですから」
ほろ酔い気分で、私はあの日の衝撃を口にする。成瀬さんは、ビーフジャーキーを齧りながら朗らかに笑った。
「あはは。まぁ、そうだよね。知ってるやつが推しのバックで踊ってたら、そりゃ驚くよね」
私はコクコクと頷く。
「せっかくのライブだったのに、気が散ったよね。ごめん」
成瀬さんは申し訳なさそうに眉を下げる。私は慌てて首を横に振った。
「すごい素敵でした。あんなにダンスが上手なのに、バックでライトが当たらないなんて勿体無いです。成瀬さんはもっと世に出るべき人です!」
私が力説すると、成瀬さんは照れたように頭をかいた。そして、少し考えるように視線を宙に彷徨わせる。わずかな沈黙の後、成瀬さんは静かに口を開いた。
「まぁ、そればっかりはね。俺の力だけじゃ……」
成瀬さんの声が少し低くなった気がした。やはり厳しい世界なのだろう。実力以外にも、運とかタイミングとか。いろんなものが味方してくれなければ、日の目を見ることはないのかもしれない。
「すみません。私みたいな素人がエラそうなこと……」
自分の不用意に発した言葉が成瀬さんの心に影を落とした気がして、私は慌てて謝罪した。
「ううん。石川さんが俺のことを褒めてくれたのは分かってるから」
成瀬さんは小さく笑って首を振る。しかし、その笑顔はどこか寂しそう。なんとか元気を出してもらいたい。
「あ、あのっ。努力は裏切りませんから!」
私は拳を握りしめて力説した。すると、成瀬さんは目を大きく見開き、それからプッと噴き出した。
「ありがと」
そのままお腹を抱えて笑い出す。
「さすがは、強火の影山担だ。それ、蓮の好きな言葉だよね」
「はい。やっぱり、わかっちゃいました?」
「うん。まぁね。あいつ、本当によく言ってるから」
成瀬さんの笑顔に少し明るさが戻った気がして、私はホッとする。
「でも、蓮と成瀬さんって仲良かったんですね。もぉ~、どうして教えてくれなかったんですか? もっと早く知りたかったです」
私はわかりやすくむくれ顔をして見せる。
「もお~。本当に驚いたんですよ。Scorpioのライブ観てたら、突然成瀬さんが映ったんですから」
ほろ酔い気分で、私はあの日の衝撃を口にする。成瀬さんは、ビーフジャーキーを齧りながら朗らかに笑った。
「あはは。まぁ、そうだよね。知ってるやつが推しのバックで踊ってたら、そりゃ驚くよね」
私はコクコクと頷く。
「せっかくのライブだったのに、気が散ったよね。ごめん」
成瀬さんは申し訳なさそうに眉を下げる。私は慌てて首を横に振った。
「すごい素敵でした。あんなにダンスが上手なのに、バックでライトが当たらないなんて勿体無いです。成瀬さんはもっと世に出るべき人です!」
私が力説すると、成瀬さんは照れたように頭をかいた。そして、少し考えるように視線を宙に彷徨わせる。わずかな沈黙の後、成瀬さんは静かに口を開いた。
「まぁ、そればっかりはね。俺の力だけじゃ……」
成瀬さんの声が少し低くなった気がした。やはり厳しい世界なのだろう。実力以外にも、運とかタイミングとか。いろんなものが味方してくれなければ、日の目を見ることはないのかもしれない。
「すみません。私みたいな素人がエラそうなこと……」
自分の不用意に発した言葉が成瀬さんの心に影を落とした気がして、私は慌てて謝罪した。
「ううん。石川さんが俺のことを褒めてくれたのは分かってるから」
成瀬さんは小さく笑って首を振る。しかし、その笑顔はどこか寂しそう。なんとか元気を出してもらいたい。
「あ、あのっ。努力は裏切りませんから!」
私は拳を握りしめて力説した。すると、成瀬さんは目を大きく見開き、それからプッと噴き出した。
「ありがと」
そのままお腹を抱えて笑い出す。
「さすがは、強火の影山担だ。それ、蓮の好きな言葉だよね」
「はい。やっぱり、わかっちゃいました?」
「うん。まぁね。あいつ、本当によく言ってるから」
成瀬さんの笑顔に少し明るさが戻った気がして、私はホッとする。
「でも、蓮と成瀬さんって仲良かったんですね。もぉ~、どうして教えてくれなかったんですか? もっと早く知りたかったです」
私はわかりやすくむくれ顔をして見せる。
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