59 / 151
隣人特権、強すぎるんですけど。(17)
しおりを挟む
その笑顔にまたドキッと胸が高鳴った。慌てて目を逸らして、私は卵焼きを咀嚼する。優しい味のする卵焼きを綺麗に平らげた頃には、心もお腹もすっかり満たされていた。
私は満足感に浸りながら、こっそりとお隣さんの様子を盗み見る。夜景を見ながら缶ビールを飲み、時折つまみ代わりに自分用の皿の卵焼きを頬張る。そんな何気ない仕草さえも様になっている成瀬さんの動きを、つい目で追ってしまう。
すると、成瀬さんが不意にこちらを向いたので視線がバッチリ絡んだ。慌てて視線を逸らすがもう遅い。私の不自然な動きはしっかり見られてしまったようだ。成瀬さんが小さく笑う気配がする。
「石川さんも、ビール飲む?」
そう言って、成瀬さんが自身の缶ビールを持ち上げる。まるでCMのワンシーンのようだ。
私は慌てて首を横に振る。
「実は私、ビールは苦手で……。チューハイとかなら結構いけるんですけど」
「そっか。じゃあこっちか」
成瀬さんは当たり前のように缶チューハイを差し出してきた。あまりにも自然過ぎて、思わず受け取ってしまう。
成瀬さんから貰ってばかりだ。
私は缶を持ったまま、まじまじと成瀬さんの顔を見つめる。心の声が聞こえるはずもないのに、成瀬さんは笑いながらヒラヒラと手を振った。
「嫌じゃなかったら飲んでよ。俺、石川さんと楽しく飲みたいからさ」
その笑顔は、まるでアイドルのよう。
あなたの笑顔だけで、私はもう酔いそうです!
思わず心の中で叫んでしまった。缶チューハイを両手で握りつぶさんばかりに握りしめる。
ドキドキが止まらない……。心臓が壊れそうだよ。
そんな私の気持ちなどお構いなしに、成瀬さんは二本目の缶ビールに手を伸ばす。カシュッと小気味よい音がした。
私も慌てて成瀬さんに倣って缶チューハイのプルタブを開ける。プシュッと炭酸が抜ける音がした。そのまま口に運ぶと、グレープフルーツの爽やかな味が口いっぱいに広がる。ゴクゴクと喉を鳴らして飲めば、あっという間に半分ほどがなくなってしまった。缶から口を離し、ふぅと一息つく。すると、成瀬さんから小気味良い賛辞が飛んできた。
「いい飲みっぷりじゃん」
推しの眩しすぎるほどの笑顔に、思わずくらりとしてしまう。私は照れ隠しに残りを一気に飲み干した。
「お、なかなかいけるね。どお? もう一本飲む?」
空になった缶を私の手から取りながら、成瀬さんが嬉しそうに尋ねてくる。推しの笑顔に誘われるように、私はコクリと頷いた。
私は満足感に浸りながら、こっそりとお隣さんの様子を盗み見る。夜景を見ながら缶ビールを飲み、時折つまみ代わりに自分用の皿の卵焼きを頬張る。そんな何気ない仕草さえも様になっている成瀬さんの動きを、つい目で追ってしまう。
すると、成瀬さんが不意にこちらを向いたので視線がバッチリ絡んだ。慌てて視線を逸らすがもう遅い。私の不自然な動きはしっかり見られてしまったようだ。成瀬さんが小さく笑う気配がする。
「石川さんも、ビール飲む?」
そう言って、成瀬さんが自身の缶ビールを持ち上げる。まるでCMのワンシーンのようだ。
私は慌てて首を横に振る。
「実は私、ビールは苦手で……。チューハイとかなら結構いけるんですけど」
「そっか。じゃあこっちか」
成瀬さんは当たり前のように缶チューハイを差し出してきた。あまりにも自然過ぎて、思わず受け取ってしまう。
成瀬さんから貰ってばかりだ。
私は缶を持ったまま、まじまじと成瀬さんの顔を見つめる。心の声が聞こえるはずもないのに、成瀬さんは笑いながらヒラヒラと手を振った。
「嫌じゃなかったら飲んでよ。俺、石川さんと楽しく飲みたいからさ」
その笑顔は、まるでアイドルのよう。
あなたの笑顔だけで、私はもう酔いそうです!
思わず心の中で叫んでしまった。缶チューハイを両手で握りつぶさんばかりに握りしめる。
ドキドキが止まらない……。心臓が壊れそうだよ。
そんな私の気持ちなどお構いなしに、成瀬さんは二本目の缶ビールに手を伸ばす。カシュッと小気味よい音がした。
私も慌てて成瀬さんに倣って缶チューハイのプルタブを開ける。プシュッと炭酸が抜ける音がした。そのまま口に運ぶと、グレープフルーツの爽やかな味が口いっぱいに広がる。ゴクゴクと喉を鳴らして飲めば、あっという間に半分ほどがなくなってしまった。缶から口を離し、ふぅと一息つく。すると、成瀬さんから小気味良い賛辞が飛んできた。
「いい飲みっぷりじゃん」
推しの眩しすぎるほどの笑顔に、思わずくらりとしてしまう。私は照れ隠しに残りを一気に飲み干した。
「お、なかなかいけるね。どお? もう一本飲む?」
空になった缶を私の手から取りながら、成瀬さんが嬉しそうに尋ねてくる。推しの笑顔に誘われるように、私はコクリと頷いた。
0
あなたにおすすめの小説
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
【完結】指先が触れる距離
山田森湖
恋愛
オフィスの隣の席に座る彼女、田中美咲。
必要最低限の会話しか交わさない同僚――そのはずなのに、いつしか彼女の小さな仕草や変化に心を奪われていく。
「おはようございます」の一言、資料を受け渡すときの指先の触れ合い、ふと香るシャンプーの匂い……。
手を伸ばせば届く距離なのに、簡単には踏み込めない関係。
近いようで遠い「隣の席」から始まる、ささやかで切ないオフィスラブストーリー。
俺に抱かれる覚悟をしろ〜俺様御曹司の溺愛
ラヴ KAZU
恋愛
みゆは付き合う度に騙されて男性不信になり
もう絶対に男性の言葉は信じないと決心した。
そんなある日会社の休憩室で一人の男性と出会う
これが桂木廉也との出会いである。
廉也はみゆに信じられない程の愛情を注ぐ。
みゆは一瞬にして廉也と恋に落ちたが同じ過ちを犯してはいけないと廉也と距離を取ろうとする。
以前愛した御曹司龍司との別れ、それは会社役員に結婚を反対された為だった。
二人の恋の行方は……
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜
葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー
あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。
見ると幸せになれるという
珍しい月 ブルームーン。
月の光に照らされた、たったひと晩の
それは奇跡みたいな恋だった。
‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆
藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト
来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター
想のファンにケガをさせられた小夜は、
責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。
それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。
ひと晩だけの思い出のはずだったが……
夜の帝王の一途な愛
ラヴ KAZU
恋愛
彼氏ナシ・子供ナシ・仕事ナシ……、ないない尽くしで人生に焦りを感じているアラフォー女性の前に、ある日突然、白馬の王子様が現れた! ピュアな主人公が待ちに待った〝白馬の王子様"の正体は、若くしてホストクラブを経営するカリスマNO.1ホスト。「俺と一緒に暮らさないか」突然のプロポーズと思いきや、契約結婚の申し出だった。
ところが、イケメンホスト麻生凌はたっぷりの愛情を濯ぐ。
翻弄される結城あゆみ。
そんな凌には誰にも言えない秘密があった。
あゆみの運命は……
もつれた心、ほどいてあげる~カリスマ美容師御曹司の甘美な溺愛レッスン~
泉南佳那
恋愛
イケメンカリスマ美容師と内気で地味な書店員との、甘々溺愛ストーリーです!
どうぞお楽しみいただけますように。
〈あらすじ〉
加藤優紀は、現在、25歳の書店員。
東京の中心部ながら、昭和味たっぷりの裏町に位置する「高木書店」という名の本屋を、祖母とふたりで切り盛りしている。
彼女が高木書店で働きはじめたのは、3年ほど前から。
短大卒業後、不動産会社で営業事務をしていたが、同期の、親会社の重役令嬢からいじめに近い嫌がらせを受け、逃げるように会社を辞めた過去があった。
そのことは優紀の心に小さいながらも深い傷をつけた。
人付き合いを恐れるようになった優紀は、それ以来、つぶれかけの本屋で人の目につかない質素な生活に安んじていた。
一方、高木書店の目と鼻の先に、優紀の兄の幼なじみで、大企業の社長令息にしてカリスマ美容師の香坂玲伊が〈リインカネーション〉という総合ビューティーサロンを経営していた。
玲伊は優紀より4歳年上の29歳。
優紀も、兄とともに玲伊と一緒に遊んだ幼なじみであった。
店が近いこともあり、玲伊はしょっちゅう、優紀の本屋に顔を出していた。
子供のころから、かっこよくて優しかった玲伊は、優紀の初恋の人。
その気持ちは今もまったく変わっていなかったが、しがない書店員の自分が、カリスマ美容師にして御曹司の彼に釣り合うはずがないと、その恋心に蓋をしていた。
そんなある日、優紀は玲伊に「自分の店に来て」言われる。
優紀が〈リインカネーション〉を訪れると、人気のファッション誌『KALEN』の編集者が待っていた。
そして「シンデレラ・プロジェクト」のモデルをしてほしいと依頼される。
「シンデレラ・プロジェクト」とは、玲伊の店の1周年記念の企画で、〈リインカネーション〉のすべての施設を使い、2~3カ月でモデルの女性を美しく変身させ、それを雑誌の連載記事として掲載するというもの。
優紀は固辞したが、玲伊の熱心な誘いに負け、最終的に引き受けることとなる。
はじめての経験に戸惑いながらも、超一流の施術に心が満たされていく優紀。
そして、玲伊への恋心はいっそう募ってゆく。
玲伊はとても優しいが、それは親友の妹だから。
そんな切ない気持ちを抱えていた。
プロジェクトがはじまり、ひと月が過ぎた。
書店の仕事と〈リインカネーション〉の施術という二重生活に慣れてきた矢先、大問題が発生する。
突然、編集部に上層部から横やりが入り、優紀は「シンデレラ・プロジェクト」のモデルを下ろされることになった。
残念に思いながらも、やはり夢でしかなかったのだとあきらめる優紀だったが、そんなとき、玲伊から呼び出しを受けて……
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる