推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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隣人特権、強すぎるんですけど。(21)

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 必死に言い募る成瀬さんが、なんだか可愛い。

 私は思わず笑ってしまった。

「え~。どうしよっかなぁ。私、今の成瀬さんの実力知らないしなぁ」

 からかうようにそう言えば、成瀬さんはさらに言い募る。

「じゃあさ、今度舞台観に来てよ」

 そう言って真っ直ぐ私を見つめるその眼差しがあまりにも真剣で、ほんの少し逸らすことさえ躊躇われた。冗談めかしていい場面ではなさそうだ。私は思わず息をつめて、成瀬さんを見つめ返した。私たちの間には、何とも言えない空気が漂う。

 成瀬さんは何を思って私を誘うのだろう。単なる社交辞令にしては少し必死なような……。

 私の疑問を含んだ視線に耐えきれなくなったのか、成瀬さんはふいっと視線を逸らしてしまった。少し照れたように頭を搔くその仕草は、いつもよりも幼く見えてなんだか微笑ましい。

「俺さ、今舞台の稽古中なんだ」

 成瀬さんが視線を逸らしたまま、ポツリと呟く。

「舞台が始まったらさ、観に来てよ」

 その声は少し掠れていた。

 思いがけない展開に私は、ただじっと成瀬さんの顔を見る。

 いつかは成瀬さんの舞台を観に行ってみようと思っていたけれど、まさか成瀬さんの方から誘ってもらえるなんて……。

 湧き上がる嬉しさを私は必死に抑える。妙なテンションにならないように気をつけながら、大きく頷いた。

「絶対に行く!」

 私の答えを聞いた瞬間、成瀬さんの顔がパッと明るくなる。

「そっか。じゃあ、気合入れて稽古しないとな」

 そう言って嬉しそうに笑う成瀬さんがあまりにも可愛くて、私は思わず笑ってしまった。つられて成瀬さんも笑い出す。私たちは意味もなく二人で笑い合う。

 あぁ、なんて楽しい時間なんだろう!

 私は今この瞬間を噛み締める。ひとしきり笑った後で、私はふと不安になった。

「でも私、観劇とかあまり経験なくて。蓮の舞台を一度観に行ったことがあるくらいなんだけど、そんな人が行っても平気?」

 私の心配をよそに、成瀬さんは穏やかに微笑む。

「大丈夫だよ。気楽に来てよ」

 その笑顔に、私はホッと胸を撫で下ろす。

 思いがけず成瀬さんの舞台を観に行く約束をしてしまった。

 隣人特権、強すぎるよ。もしかして私、これから不幸のどん底に突き落とされたりしちゃう?

 私は心の中でそんな自虐を呟く。そんな思いとは裏腹に、私の頬は緩みっぱなし。そんな私を見て、成瀬さんが不思議そうに首を傾げた。

 全ての仕草が可愛いなんて、反則だよ。

 あぁ……、やっぱり好きになっちゃったなぁ。
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