推しと清く正しい逢瀬(デート)生活 ーこっそり、隣人推しちゃいますー

田古みゆう

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ぶっ飛ばしたいほど尊い推し(7)

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 そんな蓮に成瀬さんは諭すように訥々と語りかけた。

「酒を飲んだって、タバコを吸ったって、そんなことでお前のファンは離れていかない。それくらいで離れていくなら、何をしたって離れていくさ。それを繋ぎ止めるなんてこと、俺たちには無理なんだ。俺たちが出来ることは、真摯にファンと向き合い続けることだけだろ」

 成瀬さんの言葉に、蓮はふっと笑った。そして、その大きな体を屈めるようにしてベランダの柵へもたれる。

「簡単に言うなよ。俺たちにとってファン離れが何を意味するか、お前だって分かるだろ」

 蓮のその言葉に、成瀬さんは少し困ったように笑った。

「まぁ。それについては俺の方が深刻だよな」

 そう言って、成瀬さんもベランダの柵へもたれかかった。二人で並んで空を眺めている。何を思っているのか、暫くの間無言だった。

 二人の邪魔をするのは気が引けたが、私にはどうしても聞きたいことがあった。蓮と成瀬さんの邪魔をすることを心の中で詫びつつ、私は恐る恐る口を開く。

「あ、あの。そもそもなんだけど、蓮がタバコを吸っていたのは、酔っているからってことなんだよね? つまり、酔うほどお酒を飲んだの?」

 蓮はチラリと私に視線を寄越すだけで、何も答えない。代わりに成瀬さんが小さく肩を竦めてみせた。その反応が、私の疑問を肯定している。私は次の疑問を彼らにぶつけた。

「どうして?」

 私の短い問いに、蓮が鬱陶しそうに反応した。

「……んなこと、別にお前に関係ないだろ。俺だって酒を飲む時くらいある」

 むすりと答えた蓮の言葉には、剥き出しの苛立ちが込められていた。

 私に対して明らかに壁を作っている。それはまるで、野良猫のようだ。安易に手を出せば、きっと手酷く引っ掻かれる。迂闊に近づけば、牙を剥いて威嚇されるに違いない。

 ……そうだよね。私にとって蓮は身近で特別な存在でも、蓮にとって私はファンの一人に過ぎない。蓮の態度は至極当然だ。

 けれど、私はその壁を壊そうと試みる。

 だって、気になるのだ。どうして蓮が、アイドル影山蓮のイメージを崩してまで、酔いに任せているのか。その理由が知りたい。

 私は覚悟を決めて蓮に向き直った。そして、真っ直ぐ彼の目を見つめる。私の視線を受けた蓮は、とても不愉快そうに顔を歪めた。

 まるで威嚇する猫だ。毛を逆立てている姿がありありと想像できる。だがしかし、ここで怯んではならない!

 私には、蓮がこんなにもやさぐれていることに心当たりがあった。
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