天気オタクと雨宿りカフェ

田古みゆう

文字の大きさ
6 / 8

p.6

しおりを挟む
 私の言葉に、彼は穏やかに肯く。

「そう。あのムワッとしたやつを、とても薄くした感じの匂いがしたんだ」
「ふ~ん? それが、ペト……?」
「ペトリコール。雨の降り始めに感じる匂いのことをそう呼ぶんだ。乾燥した空気中のカビや排ガスなどを含む埃が、水と混ざり、熱によって匂いを発生させているのさ」
「水と混ざって? それって雨が降ってってことだよね?」
「うん。そうだね」

 彼の説明に、私は、軽く首を傾げる。

「でも、あなた、雨が降ってくる前に、匂いがするって言ってたと思うけど、それはどうしてなの?」

 私の疑問に、彼は軽やかに答えをくれる。

「ペトリコールは、気体だからね。どこか別の場所で、水と反応して生まれた匂いが、風に乗って運ばれてくるのさ」
「ふ~ん」

 私は、またパンケーキを一口食べる。

 彼は、私の知らない事をいつもサラリと答えてくれる。そう、今みたいに。

 だけど……

 今日の彼は、いつもと少し違う。なんだか、いつもよりも饒舌な気がした。

 パンケーキを食べながら、チラリと彼の顔を見る。彼は、どことなく嬉しそうにしながら、窓を叩く勢いが激しくなった雨を見ている。

 その時、ゴロロロと外で物凄い音がした。ドキリと心臓が勢いよく跳ね、思わず首を竦める。雷だ。

 私の反応を目の端に捉えたのか、彼は、窓から目を離す。私を覗き込むようにして見ると、フォークを握っている私の手を包むようにして、上からポンポンと優しく叩いた。

「大丈夫。音だけだから、雷は全然遠いよ」
「……うん」

 私は、気持ちを落ち着けるために、カップへと手を伸ばし、コクリコクリと飲み下す。それから、大きくハァァと息を吐き出した。

 雷は苦手だ。あの、大きな音を聞くだけで、胸がドキドキとして、不安に駆られる。そして、いきなり光る稲光。どうして、そんなに私を驚かせるのか。

 恨めしく思い、ついつい窓を睨みつける。すると、間髪入れずに、雷様にゴロロロロと威嚇されてしまった。

 眉根を寄せて、歯を食いしばる。すると、彼がまた優しく手をポンポンと叩く。

「気にするから、怖いと思うんだよ」
「そんな事言ったって……。じゃあ、あなた、何か話してよ。気分が紛れる話」
「気分が紛れる話……? う~ん、そうだなぁ……」

 私の懇願に、彼は腕を組み、目を瞑って天井を仰ぐ。しばらくして、パチリと目を開けると、彼は、とても真面目な顔をして、口を開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

課長と私のほのぼの婚

藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。 舘林陽一35歳。 仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。 ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。 ※他サイトにも投稿。 ※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母、雪江は大学教授であり、著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

処理中です...