クロとシロと、時々ギン

行ってみっか（６）

　今まではホテル内での結婚式がメインだったが、最近では神社仏閣での和婚も人気が出てきている。そこで、この機会にウェディング事業に力を入れようという狙いがあるそうだ。

　私は、シロ先輩の説明を聞きながら、頭の中で整理していく。

　このプロジェクトは、今抱えている案件たちと並行して着手することになるだろう。これまで私とシロ先輩が行っていた業務は、いわゆるルート営業というやつだ。決まった取引先のみを回る営業で、既存顧客の現状やニーズから企画を提案していくのが仕事だった。

　だが、新プロジェクトでは、ターゲット層の重点的なマーケティングを必要としている。そう言ったノウハウは、私の属する営業一課よりも営業ニ課の方が得意としている。

　マーケティングを行なった上で、クライアントの要望と擦り合わせを行い、企画を提案する形となるのだろうか。つまり、これまでとは違ったアプローチが求められることになる。並行業務は大変かもしれない。

　私が考え込んでいると、ふいに、シロ先輩の声が耳に届く。私は、視線を上げて、シロ先輩を見る。

「……だから、今日は夕方から先方の下見にいってみっか」
「え？」
「下見だよ。下見。相手を知らなきゃ、戦略は立てられんだろ」

　シロ先輩の言葉に、私は慌ててうなずく。

「わ、わかりました」

　シロ先輩から告げられた時刻を確認すると、私は慌てて自分のデスクに戻った。夕方までに残りの業務を片付けなければならない。

　午後四時過ぎ。私たちは、ホテルのロビーにいた。

（さすが、高級ホテル。ロビーも広いし、豪華）

　思わず感嘆してしまう。

　私たちがやって来たのは、この辺りだと一番大きな規模のホテルで、格式も高い。エントランスを抜けると、目の前に大理石の床が広がる。まるで、ヨーロッパの宮殿に来たような錯覚に陥りそうになる。

　キョロキョロと周りを見渡していると、突然、後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには、にこやかな笑みを浮かべる女性が立っていた。

「ねぇ、明日花じゃない？」

　私は、目を丸くする。そこにいたのは理沙だった。隣に立つ恋人らしき男性の腕に自分の腕を絡ませてこちらに笑いかけている。

　私は、戸惑いながらも笑顔を返した。すると、理沙の隣にいる男性が私に向かって軽く会釈をする。私もつられて、ペコリと頭を下げた。

　そんな私の態度を見て、理沙は可笑そうに笑う。

「ちょっと。何よ、その他人行儀な感じ。ってか、明日花もここで式挙げるの？」