クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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好き、かもしれない(1)

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 カタカタと、ノートパソコンのキーボードを打つタイピング音のみが、しんと静まり返った小会議室の空気を揺らす。

 仕事に集中したいとき、私は、自身のデスクではなく、こうして、個室に籠って仕事をする。無音の室内は、短期集中をするのに向いている。

 プレゼンに必要な資料を粗方作り終え、キーボードから手を離す。両手の指を絡め、グッと上に伸びをすると、根詰め過ぎた体が軽く悲鳴をあげた。しかし、それがまた気持ちいい。

 座ったまま軽く上半身のストレッチをしていると、コンコンと軽いノック音が室内に響き、誘われるように視線をそちらへ向ける。こちらの返事を待たず、一人の女子社員が入ってきた。

明日花あすかさん。コーヒー、どうですか?」
「ありがとう、萌ちゃん。一段落ついたから、頂こうかな」

 後輩の萩田はぎた萌乃もえのに笑みを見せる。萌乃は嬉しそうに近寄ってくると、紙カップのコーヒーを一つ手渡してくれた。それから、私の隣の席に腰を下ろすと、手にした自分用のマグカップに口を付けながら、先ほどまで私が作業を進めていたパソコンの画面を覗き込む。

「資料、もう出来たんですか?」
「うん。大体ね」
「すごいですね。明日花さんって。私、資料作るの苦手で。私がやってたら、明日になっても終わらないかもです」

 そんな自虐を言う割に、涼しい顔で喉を潤しているあたり、本心からの言葉ではないだろうとは思うけれど、それを指摘するほど、私たちは、親しくない。それに、私自身、それほど後輩の育成に熱もない。

「こんなの大したことないよ。慣れもあるし。もしアレなら、白谷先輩に教えてもらったら? 萌ちゃん、白谷先輩と組んでるんだし」

 アレとはなんだ。

 心の中で自身にツッコミを入れながら、適当な事を言っていると、萌乃の表情が暗くなった。

「明日花さんって、白谷さんと仲良いんですか?」
「え? う~ん。どうかな。悪くはないと思うよ。でも、どうして?」
「いえ。良くお話されているので」
「ああ。私と組んでるシロ先輩と白谷先輩って幼馴染なんだって。だから、仲良いのはあの二人で、私は、おまけみたいなもんだよ」

 軽く手を振りながら、話を流してみるが、萌乃の表情はさらに暗くなる。

「どうした? もしかして、白谷先輩と上手くいってない?」

 萌乃は三か月の研修期間を先日終えたばかりの新入社員だ。配属先となったニ課で、白谷しろやぎんが教育係となったと聞いている。新人の萌乃が独り立ち出来るまでは、二人で動くことになる。
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