クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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好き、かもしれない(6)

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 萌乃は視線を少し上に向け、日常を思い出すかのように思案顔になりながら答える。パーフェクトヒューマン白谷吟は、きっと萌乃が無理をしていることに気が付いているだろう。

『無理をしても、それは本当の自分ではない』

 白谷吟は、シロ先輩に言われたこの言葉を大切にしている人だ。たとえ萌乃がこの先、本来の彼女に合ったペースで仕事をしたとしても、嫌な顔をすることはないだろう。

「だったら、萌ちゃんのペースで仕事をするべきだよ。自分のペースで仕事ができれば、周りを見る余裕だって持てるはずだよ。こんな風にね」

 私は、萌乃が持ってきてくれたカップを軽く持ちあげ、顔の横でフルフルと振って見せた。

「それは、同じプロジェクトのチームで、明日花さんは大変そうなのに、私まだ何もできなくて。できることって言ったら、飲み物を持ってくる事くらいだったので」
「でも、ちょうどいい頃合いを見計らって、持ってきてくれた訳でしょ? それって、周りを見てるってことじゃない。それに、相手を気遣えるって大事なことだよ。周りが見えていても、誰かに何かをするって、案外面倒くさいから、見て見ぬふりをする人だっているの。思いやりっていうのかな。仕事をする上では、そういう気持ちを持っている人の方が、きちんと仕事をしていると私は思うよ。だから、萌ちゃんも自分のペースで仕事をすればそれでいいと思う。むしろその方が、白谷先輩の力になれるんじゃないかな」

 思いのままに言葉を紡ぎ、萌乃と視線を合わせると、萌乃は恥ずかしそうにはにかみながら、頭を下げた。

「ありがとうございます。そんな風に言っていただけて嬉しいです」

 頭をあげてニコリと微笑む萌乃は、どこか肩の力が抜けたような、吹っ切れたような顔をしている。そんな萌乃につられ、私もどことなく肩の力が抜けた。

 二人で笑い合っていると、ドアを軽くノックする音と共に、「クロ~、どうだ~」と間の抜けた声を発しながら、シロ先輩がドアの隙間から顔を覗かせた。

「ああ。シロ先輩。ちょうど良かった。資料、大体出来たので見てもらいたかったんですよ」

 ドアに向かって声をかけると、シロ先輩がダルそうに入室してきた。その後ろには、先ほどまで話題にのぼっていた白谷吟の姿もある。

「八木さん、白谷さん。お疲れ様です」
「お疲れー」
「萩田さん、お疲れ様」
「皆さん、これから、こちらで打ち合わせされますか? でしたら私、お二人の飲み物も入れてきますね」
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