66 / 155
好き、かもしれない(6)
しおりを挟む
萌乃は視線を少し上に向け、日常を思い出すかのように思案顔になりながら答える。パーフェクトヒューマン白谷吟は、きっと萌乃が無理をしていることに気が付いているだろう。
『無理をしても、それは本当の自分ではない』
白谷吟は、シロ先輩に言われたこの言葉を大切にしている人だ。たとえ萌乃がこの先、本来の彼女に合ったペースで仕事をしたとしても、嫌な顔をすることはないだろう。
「だったら、萌ちゃんのペースで仕事をするべきだよ。自分のペースで仕事ができれば、周りを見る余裕だって持てるはずだよ。こんな風にね」
私は、萌乃が持ってきてくれたカップを軽く持ちあげ、顔の横でフルフルと振って見せた。
「それは、同じプロジェクトのチームで、明日花さんは大変そうなのに、私まだ何もできなくて。できることって言ったら、飲み物を持ってくる事くらいだったので」
「でも、ちょうどいい頃合いを見計らって、持ってきてくれた訳でしょ? それって、周りを見てるってことじゃない。それに、相手を気遣えるって大事なことだよ。周りが見えていても、誰かに何かをするって、案外面倒くさいから、見て見ぬふりをする人だっているの。思いやりっていうのかな。仕事をする上では、そういう気持ちを持っている人の方が、きちんと仕事をしていると私は思うよ。だから、萌ちゃんも自分のペースで仕事をすればそれでいいと思う。むしろその方が、白谷先輩の力になれるんじゃないかな」
思いのままに言葉を紡ぎ、萌乃と視線を合わせると、萌乃は恥ずかしそうにはにかみながら、頭を下げた。
「ありがとうございます。そんな風に言っていただけて嬉しいです」
頭をあげてニコリと微笑む萌乃は、どこか肩の力が抜けたような、吹っ切れたような顔をしている。そんな萌乃につられ、私もどことなく肩の力が抜けた。
二人で笑い合っていると、ドアを軽くノックする音と共に、「クロ~、どうだ~」と間の抜けた声を発しながら、シロ先輩がドアの隙間から顔を覗かせた。
「ああ。シロ先輩。ちょうど良かった。資料、大体出来たので見てもらいたかったんですよ」
ドアに向かって声をかけると、シロ先輩がダルそうに入室してきた。その後ろには、先ほどまで話題にのぼっていた白谷吟の姿もある。
「八木さん、白谷さん。お疲れ様です」
「お疲れー」
「萩田さん、お疲れ様」
「皆さん、これから、こちらで打ち合わせされますか? でしたら私、お二人の飲み物も入れてきますね」
『無理をしても、それは本当の自分ではない』
白谷吟は、シロ先輩に言われたこの言葉を大切にしている人だ。たとえ萌乃がこの先、本来の彼女に合ったペースで仕事をしたとしても、嫌な顔をすることはないだろう。
「だったら、萌ちゃんのペースで仕事をするべきだよ。自分のペースで仕事ができれば、周りを見る余裕だって持てるはずだよ。こんな風にね」
私は、萌乃が持ってきてくれたカップを軽く持ちあげ、顔の横でフルフルと振って見せた。
「それは、同じプロジェクトのチームで、明日花さんは大変そうなのに、私まだ何もできなくて。できることって言ったら、飲み物を持ってくる事くらいだったので」
「でも、ちょうどいい頃合いを見計らって、持ってきてくれた訳でしょ? それって、周りを見てるってことじゃない。それに、相手を気遣えるって大事なことだよ。周りが見えていても、誰かに何かをするって、案外面倒くさいから、見て見ぬふりをする人だっているの。思いやりっていうのかな。仕事をする上では、そういう気持ちを持っている人の方が、きちんと仕事をしていると私は思うよ。だから、萌ちゃんも自分のペースで仕事をすればそれでいいと思う。むしろその方が、白谷先輩の力になれるんじゃないかな」
思いのままに言葉を紡ぎ、萌乃と視線を合わせると、萌乃は恥ずかしそうにはにかみながら、頭を下げた。
「ありがとうございます。そんな風に言っていただけて嬉しいです」
頭をあげてニコリと微笑む萌乃は、どこか肩の力が抜けたような、吹っ切れたような顔をしている。そんな萌乃につられ、私もどことなく肩の力が抜けた。
二人で笑い合っていると、ドアを軽くノックする音と共に、「クロ~、どうだ~」と間の抜けた声を発しながら、シロ先輩がドアの隙間から顔を覗かせた。
「ああ。シロ先輩。ちょうど良かった。資料、大体出来たので見てもらいたかったんですよ」
ドアに向かって声をかけると、シロ先輩がダルそうに入室してきた。その後ろには、先ほどまで話題にのぼっていた白谷吟の姿もある。
「八木さん、白谷さん。お疲れ様です」
「お疲れー」
「萩田さん、お疲れ様」
「皆さん、これから、こちらで打ち合わせされますか? でしたら私、お二人の飲み物も入れてきますね」
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
Husband's secret (夫の秘密)
設楽理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる