クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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好き、かもしれない(7)

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 パタパタと軽快な足音と共に小会議室を出ていく萌乃の姿を、先輩二人は不思議そうな顔で見送った。

「なぁ。あいつって、あんな気の利いたこと言う奴だったか?」
「萩田さんは、気が利く子だよ。でも今日は、いつもよりも表情が明るかったね。矢城やぎさん、何か魔法でもかけた?」

 白谷吟は、相変わらずの爽やかスマイルで私の方をチラリと見る。その視線を遮るように、私は、顔の前で両手を横に振った。

「いえいえ。私は何も。ただ、萌ちゃんと雑談をしていただけですよ。ってか、魔法って何ですか?」

 軽いツッコミを入れながら否定をする。彼のこういうウィットに富んだ会話が、萌乃を含む多くの人を惹きつけているのだろうなと頭の片隅で感心した。

「魔法? そうだなぁ。矢城さんが使う魔法だから、やっぱり癒し系じゃない? 僕はいつも矢城さんの笑顔に癒されてるから。ねぇ。史郎もそう思わない?」
「は? 知らねぇし」

 突然話を振られたシロ先輩は、なぜか不機嫌そうにそっぽを向く。そんな二人のやり取りに苦笑いを浮かべつつ、私は、萌乃の事を白谷吟に聞いてみた。

「あの、白谷先輩。萌ちゃんの仕事ぶりって、実際のところどうですか?」
「え? 萩田さん?」
「はい。なんか少し悩んでいたというか……」

 実際には、彼の事を想って空回りしていただけなのだが、彼女の仕事ぶりに少なからず影響を及ぼしていたようなので、それとなく白谷吟の彼女に対する印象を確かめてみる。

「ああ。やっぱりそうだったんだ。彼女、別に仕事ができないわけじゃないと思うんだ。ただちょっと肩に力が入りすぎてる感じかな。気をつけて見ていたつもりなんだけど、なぜか僕と話すと、彼女、余計に力が入っちゃうみたいで。でも、矢城さんと話して何か吹っ切れたのかな」

 面目なさそうに眉尻を下げた白谷吟に、それ以上は何も言わず曖昧に笑っておく。まさか、この場で萌乃の空回りの原因を暴露するわけにはいかない。しかし、パーフェクトヒューマンのことだ。私が言うまでもなく萌乃の気持ちにも気が付いているかもしれない。

 そんな事を思っていると、シロ先輩が意外そうな声をあげた。

「クロが相談に乗ったのか?」
「え? 相談というか、話の流れというか。まぁ、そんな大したものじゃないですよ」
「そうかそうか。あのクロが、後輩の相談に。やっとクロも先輩としての自覚が芽生えたんだな」

 私の言葉など全く聞かず、シロ先輩はどこか満足そうに私の頭をポンポンと叩いた。
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