クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
81 / 155

砂浜の結婚式(13)

しおりを挟む
 ムキになって言い返すと、シロ先輩はわざとらしいくらいに驚いた顔を見せた。そしてすぐに、今度は悪戯っぽい笑みを見せる。

「そう。それ! それでこそいつものクロだ。いつもの調子でやれ。な? 確かに、今回はちょっとタイトなスケジュールになると思うけど、このチームには、なんたって吟がいるんだ。コイツに任せておけば問題ない」

 シロ先輩はそう言って、親指で白谷吟を指し示す。白谷吟は苦笑いしながらシロ先輩の手を退けた。

 確かにそうだ。白谷吟はパーフェクトなのだ。彼がいれば大抵のことは上手くいくだろう。それに新人とはいえ萌乃もいる。それから、私が全幅の信頼を置くシロ先輩だっているのだ。私一人が慌てる必要は無い。

 私は一人一人の顔を順番に見る。全員の視線が私に向けられていた。大丈夫。きっと乗り越えられる。自然とそう思えた。私はスッと背筋を正す。

「皆さん、頑張りましょう! 」

 私の言葉に、みんなは笑顔で応えてくれた。

 それから、キリの良いところまで作業をして、仕事を終わりにした。今日は本来なら、休日なのだ。そんなにガツガツ仕事をするもんじゃない。帰り支度をしながら、私はみんなに声をかける。

「このあと、ご飯食べに行きませんか?」

 シロ先輩が少し考えた後に答えた。

「そうだな。昼メシまだだし……せっかくの休みなんだ。のんびりと飯食ってから帰るか。なぁ、吟。萩田もどうだ?」

 シロ先輩が白谷吟を問答無用で誘い、萌乃の返答を待つ。

「あ、はい! お邪魔でなければ……ぜひ」

 萌乃は嬉しそうな声を上げる。その返事に満足したのか、シロ先輩が私に向き直る。

「よし! 決起集会だ。行くぞ、クロ」

 シロ先輩はニカッと笑う。私もつい頬を緩ませながら、大きな返事をする。

「はい! あ、でも、どこに行きます? ここの最上階行っちゃいます? 経費で……」

 調子に乗って提案すると、すかさずシロ先輩が白谷吟に話を振る。

「だとよ~。吟。領収書切っていいか?」

 白谷吟は困ったように笑う。それから真面目な顔で言った。

「実地調査だったら、いいんじゃないの?」
「ここ、コース料理しかやってないだろ。随分と高い実地調査だな」

 シロ先輩がゲラゲラと笑う。つられて私と萌乃も吹き出した。白谷吟は私たちの反応を見て楽しげに笑う。

 先輩たちのおかげで、すっかりいつもの自分に戻った気がする。

(このチームは最高だ。特に……)

 白谷吟と談笑しているシロ先輩の背中をこっそりと眺めながら、そんな事を思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

Husband's secret (夫の秘密)

設楽理沙
ライト文芸
果たして・・ 秘密などあったのだろうか! むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ  10秒~30秒?  何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。 ❦ イラストはAI生成画像 自作

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

処理中です...