クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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弱点は、たまご!?(6)

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 萌乃が私に問いかけてきた。その様子から察するに、おそらく、深い意味のある問いではないのだろう。ただ単に、私に話を振っただけのはずだ。だから私も、深く考えることなく答えた。

「うーん。そうだなぁ。食材を一つ選ぶってことでしょ? それならやっぱり、卵かなぁ」

 私の答えに、意外な反応を見せた人物がいた。白谷吟だ。彼は目を丸くして、私の顔を見つめている。予想外の反応に、何か変なことを言っただろうかと、狼狽してしまう。

 すると、シロ先輩がくすっと笑い、何故が上機嫌で口を開いた。

「へぇ。卵とは意外だな。クロなら豪快に『肉』とか言うと思ったんだけど。何で卵なんだ?」

 シロ先輩の質問に、私は苦笑いしながら頭を掻いた。

「もちろん、お肉もいいですけどね。一つの食材のフルコースとなると、卵料理なら品数が多く食べられるかなと思っただけです。前菜がたまごサラダ、スープにかき玉汁、メインはオムレツで、デザートがプリン……パッと思い浮かぶだけでも、これだけの品数ができますよ」

 私の回答を聞いて、シロ先輩は感心したように息をつく。

「なるほど。確かに、卵はいろいろと使えるかもな」
「はい! 卵は栄養価も高いですし、超優秀食材だと思います。だけど、お肉をメイン食材にしてしまうと、いくらプロでもデザートが作れないかなぁと……」

 私がそう付け加えると、黙って話を聞いていた白谷吟の顔が若干引きつったように見えた。しかし、すぐに笑顔に戻ると、小さく「そっか」と相槌を打ち、それ以上は何も言わなかった。

 そんな白谷吟の態度に笑いを堪えるかのように、シロ先輩は口元を手で押さえた。

「だとよ。吟。卵は超優秀食材らしいぞ。もし、クロと低価格プランを利用することになったら、お前らケンカだな」
「えっ!?」
「なっ……!?」
「はっ!?」

 シロ先輩の言葉に、その場にいる全員が同時に驚きの声を上げる。一人楽しそうな笑みを浮かべるシロ先輩に、いち早く衝撃から立ち直った白谷吟が困惑の表情を見せながら、慌てて抗議をする。

「ちょっと、史郎。変なこと言わないでよ。どうしてここで低価格プランの話が出てくるんだよ」

 白谷吟の抗議の声など全く気にした素振りを見せないシロ先輩は、何故だか嬉しそうに小さく肩をすくめた。

「だって、本当のことだろ。お前ら、食の好みが違いすぎ。お前、卵食べられないだろ」
「それはそうだけど……。僕と矢城さんは、そもそも低価格プランは利用しないから!」
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