クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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むかし歩いた道(4)

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 どうして忘れていたのだろう。思い出の場所だというのに。

 振り返った私は、ゆっくりと深呼吸をすると、真っ直ぐにシロ先輩の目を見た。不思議そうな表情で私を見るシロ先輩に、私は言う。

「あそこに行ってみませんか? シロ先輩が言った通り、あの場所には以前大きな桜の木が立っていたんです。実は思い出の場所で……」

 そう言った私を、シロ先輩はまじまじと見つめてくる。そして、フッと笑った。

「……俺もだ」
「え?」

 シロ先輩が小さく呟いた言葉を上手く聞き取れず、首を傾げた私を見て、シロ先輩はなんでもないと言うように首を振る。そして、ベンチから立ち上がると、そのまま前を向いてスタスタと歩き出した。

 シロ先輩の後を追いかけるようにしてたどり着いたその場所は、やはり記憶の中の場所とは違った。ポッカリと空いた空間には、大きな切り株だけが残されている。

 シロ先輩は、その切り株の前まで来ると、おもむろにしゃがみ込んだ。私もその隣へと歩み寄る。シロ先輩は、何も言わずにじっとその切り株を見つめている。その横顔からは、何を思っているのか窺うことはできない。

 私も同じように、ただじっと目の前のそれを見つめていた。大きな幹に背を預けてシロヤギさんからの手紙を読んでいたあの頃のことが脳裏に蘇る。

 そういえばと、私は顔を上げて辺りをキョロキョロと見回す。すると、少し離れたところにポツンと立っている小さな灯籠を見つけた。私は、灯籠のところまで行くと、こんなに小さかっただろうかと思いながら、少し屈んで灯籠を覗き込む。

 すると、あの時のように、灯籠の中には小さく折り畳まれた紙片が入っていた。誰かが、あの頃の私と同じように、この場所で秘密のやり取りをしているのだろうか。その紙の隙間から見える拙い文字を見て、私は小さく笑う。

「どうした?」

 突然背後からかけられた声に、私はビクッとして慌てて振り返る。そこには、いつの間にやってきたのか、シロ先輩が立っていた。

「いえ、何でもないです」

 秘密のやり取りは、秘密にしておくべきだろう。私は慌てて、屈めていた腰を伸ばす。シロ先輩は、私が見ていた方向をチラリと見たが、すぐに視線を外すと、私の方へ向き直った。

「思い出には浸れたか?」

 私はコクリと肯く。その反応に、シロ先輩は満足そうに微笑んだ。それから私たちは、静かに境内を後にした。

「で、これからどうするんだ?」

 通りへと出ると、何気ない口調でシロ先輩が尋ねてきた。
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