クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

文字の大きさ
120 / 155

去り行く背中を追いかける(7)

しおりを挟む
 私は、自分の胸の中にある想いを伝えたくて、ギュッとシロ先輩の手を握る。シロ先輩も、それに答えるように、少しだけ手に力を込めてくれた。

 好きな人と触れ合うだけで、世界は色鮮やかに変わる。それは、とても不思議な感覚だった。今までと変わらない私たちが良いと言いながらも、私は変わっていくことを望んでいる。そんな矛盾がおかしくて、私が静かに微笑んだときだった。

 不意にシロ先輩のお腹がぐーっと鳴った。その音を聞いた途端、私達は同時に噴き出す。そこには先程まで漂っていたほんのりと甘い雰囲気はなく、いつもの心地よい時間が流れていた。シロ先輩は、照れたように頬を掻いて言う。

「腹減ったな」

 その一言に、私はまた笑ってしまった。ムードなんて全くない。でも、それがシロ先輩らしくて、私もいつも通りの調子を取り戻す。

「何か食べに行きますか? と言っても、この辺には何もないですけど……」

 神社の周りにあるのは、住宅ばかりである。シロ先輩は、腕を組んで少しの間考える仕草を見せた後、首を振った。

「いや……。せっかくだけど、今日は帰るわ」

 そう言うと、シロ先輩は私の手を引いてベンチから立ち上がる。

(もっと一緒に居たいのに。……帰るんだ)

 私は少し残念に思いながら、それでも仕方ないかと思い直す。私たちは、並んで歩き始めた。

 境内を出ると、「送るか?」と聞かれた。これまで言われたことのない言葉に、私は少しだけ戸惑う。それと同時に、なんだか特別感を感じて、甘酸っぱい気持ちが込み上げる。私は笑顔で首を振った。

「大丈夫ですよ。うち近いですから。それに一緒に戻ったら、先輩、また母に捕まりますよ」

 そう冗談めかすと、シロ先輩は苦笑いを浮かべた。

「そっか。そうだな」

 そして、どちらからともなく立ち止まる。神社を出てすぐの交差点に着いたのだ。

「じゃあ、ここで。気をつけて帰れよ」
「はい」

 いつになく優しさの滲む言葉が嬉しい。私は名残惜しさを堪えて返事をした。

 信号が青に変わり、横断歩道を渡り始める。交差点を曲がれば、もうシロ先輩の姿が見えなくなってしまう。そう思うと、月曜日には職場で会えるというのに、無性に寂しくなった。思わず振り返る。

 シロ先輩はそこに佇んだまま、こちらをじっと見つめていた。そのまま数秒見つめ合っているうちに、信号が点滅を始める。私は慌てて前を向いて駆け出した。

 横断歩道を渡り終え、再度振り変えるとまだシロ先輩はこちらを見ていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

処理中です...