クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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去り行く背中を追いかける(8)

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 お互い苦笑いを浮かべる。このままでは帰れないと思った瞬間、二人の間を車が通り過ぎた。車列の向こう側でシロ先輩がスッと手を小さく上げたのが見えた。

 私もそれに応えて、大きく手を振る。それを確認し、満足した様子でシロ先輩は踵を返した。私はその背中が完全に見えなくなるまで、その場にいた。

 本当は追いかけてしまいたかったけれど、そんなことをしたらシロ先輩は困るだろう。私は自分の家に向かってゆっくりと足を進めた。

 家に帰ってからというもの、私はずっとソワソワしていた。意味もなく部屋の中を行ったり来たりしてしまう。そんな私を母は呆れ顔で眺めていた。

 夕食を食べて、お風呂に入り、部屋に戻っても落ち着かない。ベッドの上に座り、ぼんやりとスマホをいじる。メッセージアプリを起動させて、シロ先輩とのトーク画面を開く。しかし、何と打てば良いのか分からず、すぐに閉じてしまう。

 そんなことを繰り返していると、ふと脳内にシロ先輩の声が再生された。耳元で囁かれたシロ先輩の声が蘇って、顔が熱くなる。それから、今日の出来事が次々思い出されて、心臓がドキドキし始めた。

 私はシロ先輩が好きなのだ。

 改めて実感すると、胸がきゅっと締め付けられるようだった。今頃シロ先輩は何をしているのだろうか。もう自宅へ帰りつきゆっくりと過ごしているだろうか。

 そう考えた途端、ハッとした。私は勢いよく立ち上がる。甘い時間を過ごしたことで忘れかけていたが、今日、私とシロ先輩があの神社で会ったのは、全くの偶然だ。何故、シロ先輩はあんなところにいたのだろうか。確か、お爺さんの家に顔見せに来たと言っていたはずだ。

 そこで私はある可能性に気づく。

(シロ先輩のお爺さんの家は、近くなの? あの神社まで歩いてきていたくらいだし、きっとそうだ。それに、お母さん同士が学生時代の友人だって……)

 一瞬にして、期待で胸が高まる。

(まさか……。でも、そうだとしたら……)

 考えすぎかもしれない。それでも、確かめずにはいられなかった。私は部屋を飛び出す。

「お母さん、もしかしてシロ先輩のご実家って、近くだったりする?」

 リビングでくつろいでいた母に声をかけると、母は目を丸くして私を見た。

「えっ? 急にどうしたのよ?」
「いいから。で、どうなの? 近くなの? 近くじゃないの?」

 私が焦れたように尋ねると、母は不思議そうな表情を浮かべながらも答えてくれた。その答えが、私の心を一気に浮き立たせた。
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