クロとシロと、時々ギン

田古みゆう

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真実はすぐそばに(5)

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 私は恥ずかしくて何も答えられない。白谷吟はそんな私を見て、可笑しそうに笑いながら続けた。

「そうは言っても、僕は直接、史郎の気持ちを聞いたことはないけどね。でも見ていれば分かるよ。史郎が矢城さんのことを好きだっていうのはさ」

 そう言って、白谷吟は優しく目を細めた。その言葉を聞いて、私は何と言っていいのか分からない。ただ、顔が熱くなっているのだけは分かった。

 白谷吟は、そんな私を見て再び笑うと、それから少し真面目な表情になる。そして、ゆっくりと言った。

「史郎のこと、よろしくね」

 その言葉に、私は少し驚いてしまう。直接話を聞いていないと言う割に、白谷吟は随分と確信を持った言い方をする。私が戸惑って小首を傾げていると、私の疑問に気がついたのか、白谷吟はさも当たり前のように言った。

「だって、君たち付き合うことになったんでしょ」

 白谷吟の言葉に、私は耳まで真っ赤になってしまう。白谷吟はそんな私を面白そうに見つめてきた。それから、少しだけ寂しげな目になって言った。

「これで、僕もお役ごめんか」

 白谷吟の呟きが、私の耳に届く。彼の声は穏やかだったが、どこか諦めの感情が混じっているように聞こえた。

 言葉の意味が分からず、続く言葉を待ったが、白谷吟はそれ以上は何も言わなかった。

 私は何か言わなくてはと口を開く。しかし、何を言えば良いのかわからず、そのまま口を閉じた。

 沈黙が流れる。白谷吟は、静かに私を見つめていた。私もまた、彼から視線を外せずにじっと見返した。どれくらい時間が経っただろう。先に口を開いたのは、白谷吟の方だった。白谷吟はいつもの調子に戻って言った。

「話が逸れちゃったね。僕が言いたかったことはさ、君の想い人のシロヤギさんは、史郎の可能性が限りなく高いってことだよ。それに、ほら、あのセリフ!」
「セリフ?」
「無理してもそれは本当の自分じゃないってやつ」

 ああ、と私は肯く。

 それは、私がシロヤギさんに言われた言葉だ。そして、白谷吟と私がシロ先輩から貰った言葉。確かに、シロ先輩がシロヤギさんなら、あの似通った言葉にも納得がいく。

 私が納得した様子を見せると、白谷吟は満足げに微笑んだ。私たちはしばらく黙り込む。
私は考える。シロ先輩がシロヤギさんである可能性を。考えれば考えるほど、期待が膨らんでいく。一人で考えていた昨晩よりも、さらに期待は確信へと変わっていった。

 だけど、期待と確信の隙間に少しの不安が混じる。
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