サラリーマンと異世界 ~秩序が崩壊した世界を気ままに生き抜く~

結城絡繰

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第84話 絶望の幕閉じ

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 現場から百メートルほど離れた住宅街で停車する。
 夜闇をのたうち回るシルエットはヒュージセンチピードだった。
 付近は常に地震が発生しており、迂闊に喋っていると舌を噛みそうだ。

 ここから自警団『盾と牙』の全容は見えない。
 ただし銃声と爆発音が連鎖して、ヒュージセンチピードの体躯に炸裂しているのが確認できる。
 彼らは懸命に戦っているようだ。

 空をいくつかの人影が飛び回っている。
 彼らは連携してヒュージセンチピードに攻撃をしている模様だ。
 きっと自警団のメンバーだろう。
 変容で飛行能力を得た人間である。
 それぞれ刃物や鈍器で外殻の破壊を試みているらしい。

 どこまで効果があるか分からないものの、彼らはよくやっている。
 それでも実際は劣勢だ。
 なんとか耐え凌いでいるだけで、戦いの規模感がまるで違う。

 ヒュージセンチピードは度重なる攻撃で外殻の一部が剥げていたが、動きに支障はない様子だった。
 自警団の猛攻を無視して暴れ狂っている。
 その一撃が地形を変える破壊力なのだから、接近して戦うのは危険すぎる。
 少し離れてもサイズからすれば十分に射程内と言える。

 観察する間に空中の一人が木端微塵になった。
 ヒュージセンチピードの体当たりを避け損ねたのだ。
 生身で防げる威力ではない。
 肉片が家屋の屋根を叩く音がした。

 ヒュージセンチピードは頭部を打ち付けるようにして地上に攻撃する。
 悲鳴と怒声と爆発音が連続で響いた。
 その地点に自警団がいたのだ。
 あの重量で押し潰されてはひとたまりもないだろう。
 全滅していないにしろ、致命的な損害が出たのではないか。

 彼らに降りかかる惨劇を前にしても、特に恐怖は感じなかった。
 命を惜しむほど繊細な神経はしていない。
 決意はとっくに固まっているのだ。
 怯えは不要であり、必要なのは冷静な観察と分析だった。

 三人の殺人鬼も後ろ向きな反応はしていない。
 ストレングスはぎらついた目でヒュージセンチピードを凝視していた。
 巨大なモンスターを目の当たりにして、殺戮本能が刺激されたのかもしれない。
 もしくは料理の材料として吟味しているのか。

 道化王子は絶対零度の眼差しで戦場を睨んでいた。
 細かく何度も舌打ちしているのは、ひょっとするとストレングスの興味を引くヒュージセンチピードに嫉妬しているのか。
 理解不能だが、やる気ならば文句はない。

 紙袋姫は街路樹に触れて操作し、さっそく戦闘準備を進めている。
 彼女は自分の役割を完璧に理解していた。
 頼もしい限りである。

 そう、別に恐れることはない。
 ここに集うのは狂った四人。
 明日を閉ざされようと平然としているような殺人鬼だ。
 気楽に楽しんでいこうではないか。
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