サラリーマンと異世界 ～秩序が崩壊した世界を気ままに生き抜く～

第86話 定点観測

　激しく回転する視界。
　強烈な衝撃に落下する感覚が合わさって吐きそうになる。
　そこに身体が押し潰される苦痛まで加わった結果、意識が途切れる。

　次に目覚めた時、ひしゃげた軽トラックの中に挟まっていた。
　身体の倦怠感と発熱を自覚する。
　負傷して気絶していたらしいが、再生したことで意識を取り戻したようだ。

　車体を蹴り曲げて隙間を作ってなんとか外に転がり出る。
　ヒュージセンチピードに吹き飛ばされた軽トラックは、二階建ての学習塾の屋上でひっくり返っていた。
　すぐ上に陥没した看板がある。
　宙を舞った車体は、看板にぶつかって屋上に落ちたらしい。
　派手にやられたものである。

　砂埃を払いながら立ち上がる。
　四肢の欠損はなく、問題なく動けそうだった。
　気絶中は骨が折れていたのかもしれないが、現在は特に支障はない。
　ここまで培ってきた変容に生かされた形だった。

　屋上からヒュージセンチピードの様子を観察する。
　百メートル以上先にいるが、変容で向上した身体機能には視力も含まれている。
　目を凝らして集中すればよく見えた。

　ヒュージセンチピードの後部には、無数の蔦が絡まっていた。
　それによって動きが制限されている。
　激しく振り払って千切ろうといるものの、その端から新たな蔦が巻き付くので意味を為していない。

　あれは紙袋姫の植物操作だろう。
　相手は格上の大型モンスターだが、対抗できるほどの能力を発揮できていた。
　実際に目にするとその規模感に驚かされる。

　動きを制限されたヒュージセンチピードに挑むのはストレングスだ。
　彼女は真正面から百足の頭部と打ち合っている。
　遠心力を乗せた鉄球で殴り付けて、反撃は自動車で防いでいた。
　呆れるほどにシンプルな戦法ながらも成果は大きい。

　ヒュージセンチピードは頭部が大きく破損していた。
　顎が砕けて外殻が何か所も陥没し、体液を垂れ流しながら戦っている。
　知能が低いのか、ストレングスへの対処に夢中だった。
　攻撃パターンも単純らしく、先ほどから連続で殴られている。

　その間に『盾と牙』の面々がヒュージセンチピードに集中砲火を浴びせていた。
　殺人鬼の乱入に驚いている様子だが、戸惑いながらも行動は的確だ。
　彼らは撤退を中断し、やや離れた場所から銃撃を再開している。
　外殻に弾かれながら地道にダメージを蓄積させていた。