サラリーマンと異世界 ~秩序が崩壊した世界を気ままに生き抜く~

結城絡繰

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第87話 不審者

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 このまま放っておいても勝ててしまうのではないか。
 一瞬、そんな考えが過ぎる。
 しかし油断は禁物だ。
 追い詰められたモンスターほど恐ろしいのは身を以て知っている。
 優勢な時こそ徹底的に攻め潰すのが最善手だろう。

 ヒュージセンチピードは動きが縛られた挙句に一方的に殴られている状態だ。
 ネットの情報によると優れた再生能力は持たず、特殊な能力も無い。
 圧倒的なサイズと重量を利用した物理攻撃だけが武器だった。
 それが厄介すぎるので災害のような扱いだが、生物である以上は必ず殺すことができる。

 とりあえず戦場に出向こうとしたところ、背後から怒声を浴びせられた。
 振り返るとプロテクターを纏う男が銃を向けてきている。
 胸部に描かれた模様から察するに『盾と牙』の団員だ。

 男は両手を上げて跪くように命令してきた。
 随分と警戒した顔をしている。
 怯えの感情も強い。
 生死の狭間を彷徨う戦いに晒されて、極度のストレスを感じているのだろう。

 向けられた銃は大型だ。
 銃口が長く、三脚が取り付けられているのでおそらく狙撃銃かと思われる。
 遠距離からの銃撃を可能とする威力と精度を持った武器だ。
 ひょっとするとマシンガンかもしれないが、専門家ではないので分からない。

 撃たれないように両手を上げながら意識を集中させる。
 付近に他の団員はいないようだった。
 この男は狙撃役として単独で動いている。

 本来、狙撃手はスポッターと呼ばれる補助員と行動すると聞いたことがある。
 単独でやれるほどの凄腕か、スポッターが戦死したのか。
 或いは単純に『盾と牙』が人員不足なのかもしれない。
 いずれの理由にしても、こちらとしては好都合だった。

 こんな場所で面倒なやり取りに応じるほど暇ではない。
 跪く仕草をフェイクに突進する。
 スライディングで銃口の下まで潜り込み、驚愕に染まる男の顔面を殴り飛ばした。

 男は勢いよくバウンドし、貯水槽に頭を打って気を失う。
 顔面が潰れているが辛うじて呼吸をしていた。
 その手から狙撃銃をひったくる。
 ついでに男の衣服を探って予備弾と手榴弾と信号銃を奪い取った。

 一発だけ装填された拳銃が見つかったが、これは自殺用なのだろうか。
 わざわざ貰っても有用性は低いのでそれだけは置いておく。
 とにかく高威力の銃が手に入ったのは幸運だ。
 これならヒュージセンチピードにも通用しそうだ。
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