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第65話 男の正体
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イリエはこれまでの出来事を現在に至るまで順番に説明する。
時間をかけて話し終えた後、彼女はカトウに頭を下げた。
「……というわけで、撮影とか言って巻き込んですみません」
「いや、気にするな。俺も記憶喪失でその辺りはよく分からんからな」
「でも本当に申し訳なくて……」
「別にいいって。お前も仲間が死んで辛いんだろ。ここで喧嘩しても意味ねえし、もう水に流してくれ」
カトウは面倒臭そうに手を振る。
これまでに受けた仕打ちも、今のカトウにとっては他人事に近く、怒る気にもなれなかったのだ。
退屈そうにしていたマナカとヒヨリは話し合う。
「どうする?」
「捕まえて売る感じじゃないかも」
「別の獲物を狙おっか」
「そうだね」
会話が聞こえていたイリエは胸を撫で下ろす。
ひとまず標的から外れたことが分かり、彼女は少し安堵した。
これまで静観していた葛城が、意味深な口ぶりで述べる。
「そもそもカトウ君は巻き込まれた側ではないがね」
「は? どういうことだよ」
カトウが怪訝そうに葛城を睨む。
葛城はメスで彼を指し示した。
「君はビルの住人だ。ここにも何度か来院して、そのたびに私が診ているよ。記憶喪失で憶えていないようだがね」
「初耳だぞ」
「訊かれていないからね」
「じゃあなんで今になって明かしたんだ」
「ここで教えてあげたら面白くなると判断したのだよ」
「悪趣味だな、畜生め」
盛大に舌打ちしたカトウは、床に置かれた薬品箱を蹴り飛ばした。
マナカとヒヨリは、彼の顔をまじまじと見つめる。
「カトウ……うちらも会ったことあるのかな」
「見たことない気がするけど」
「君達の記憶能力は壊滅的だからね。忘れていたとしてもおかしくない。カトウ君がそこまで特徴的な風貌をしていないのも大きいだろう」
「地味で悪かったな」
カトウは苛立たしげに鼻を鳴らす。
続けて彼は葛城に詰め寄った。
「それで? 俺の詳しい過去を教えてくれるってのか?」
「詳細は自分で探したまえ。その方が盛り上がる――」
葛城の鼻先に銃口が突きつけられた。
カトウは冷酷な声音で問う。
「まだ寝言を言うか?」
「私に脅しは効かないよ」
葛城は涼しい笑みで応じる。
両者の視線が交わる中、イリエが「あの……」と遠慮がちに挙手をした。
舌打ちしたカトウが彼女を一瞥する。
「何だ。空気を読めよ」
「すみません。お取り込み中なのは分かるんですけど、先に怪我の治療をしたくて……」
「私は手が放せないから、勝手に処置するといい」
「あ、はい。ありがとうございます」
会釈したイリエは、近くの棚から消毒液や包帯、絆創膏を拝借する。
異常な空間に適応しつつあることに、彼女自身はまだ気付いていなかった。
時間をかけて話し終えた後、彼女はカトウに頭を下げた。
「……というわけで、撮影とか言って巻き込んですみません」
「いや、気にするな。俺も記憶喪失でその辺りはよく分からんからな」
「でも本当に申し訳なくて……」
「別にいいって。お前も仲間が死んで辛いんだろ。ここで喧嘩しても意味ねえし、もう水に流してくれ」
カトウは面倒臭そうに手を振る。
これまでに受けた仕打ちも、今のカトウにとっては他人事に近く、怒る気にもなれなかったのだ。
退屈そうにしていたマナカとヒヨリは話し合う。
「どうする?」
「捕まえて売る感じじゃないかも」
「別の獲物を狙おっか」
「そうだね」
会話が聞こえていたイリエは胸を撫で下ろす。
ひとまず標的から外れたことが分かり、彼女は少し安堵した。
これまで静観していた葛城が、意味深な口ぶりで述べる。
「そもそもカトウ君は巻き込まれた側ではないがね」
「は? どういうことだよ」
カトウが怪訝そうに葛城を睨む。
葛城はメスで彼を指し示した。
「君はビルの住人だ。ここにも何度か来院して、そのたびに私が診ているよ。記憶喪失で憶えていないようだがね」
「初耳だぞ」
「訊かれていないからね」
「じゃあなんで今になって明かしたんだ」
「ここで教えてあげたら面白くなると判断したのだよ」
「悪趣味だな、畜生め」
盛大に舌打ちしたカトウは、床に置かれた薬品箱を蹴り飛ばした。
マナカとヒヨリは、彼の顔をまじまじと見つめる。
「カトウ……うちらも会ったことあるのかな」
「見たことない気がするけど」
「君達の記憶能力は壊滅的だからね。忘れていたとしてもおかしくない。カトウ君がそこまで特徴的な風貌をしていないのも大きいだろう」
「地味で悪かったな」
カトウは苛立たしげに鼻を鳴らす。
続けて彼は葛城に詰め寄った。
「それで? 俺の詳しい過去を教えてくれるってのか?」
「詳細は自分で探したまえ。その方が盛り上がる――」
葛城の鼻先に銃口が突きつけられた。
カトウは冷酷な声音で問う。
「まだ寝言を言うか?」
「私に脅しは効かないよ」
葛城は涼しい笑みで応じる。
両者の視線が交わる中、イリエが「あの……」と遠慮がちに挙手をした。
舌打ちしたカトウが彼女を一瞥する。
「何だ。空気を読めよ」
「すみません。お取り込み中なのは分かるんですけど、先に怪我の治療をしたくて……」
「私は手が放せないから、勝手に処置するといい」
「あ、はい。ありがとうございます」
会釈したイリエは、近くの棚から消毒液や包帯、絆創膏を拝借する。
異常な空間に適応しつつあることに、彼女自身はまだ気付いていなかった。
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