96 / 100
第96話 交代
しおりを挟む
立ち止まった沢田は、無抵抗の葛城に詰め寄る。
いつでも殴りかかれるよう、拳は固く握られていた。
「お前が管理者になるだと? 妙に都合がいいな。一体どういう風の吹き回しだ?」
「単純な話さ。この状況で君の要求を拒めるだけの手札がない。ならば余計な損害を負う前に従うのが合理的だろう」
葛城はひらひらと手を振って答える。
諦めと開き直りの入り混じった態度は、彼女の本音を余さず曝け出していた。
急展開に未だついていけていない上原は、探るような目つきで確認する。
「あなたに任せていいんですね……私は、解放されたんですね」
「残念ながらその通りだよ。君は管理者として非常に優秀だった。願わくば継続してほしいが、沢田君がそれを許してくれそうにない」
「当たり前だろうが」
沢田が葛城を突き飛ばす。
それでも葛城は文句一つ言わなかった。
彼女はコレクターの死体を撫でて自虐的に笑う。
その際、年齢不詳の美貌に陰りが差し、その姿を枯れ果てた老婆のように見せた。
「本当は色々と画策していたのだがね。たった一発の弾丸で駄目になってしまった。いやはや、人生とは不条理なものだよ」
愚痴を吐いた後、葛城は髪を掻き上げて微笑する。
くたびれた気配は瞬く間に霧散し、元の雰囲気を取り戻していた。
葛城は拍手で二人を称賛する。
「おめでとう、君達は途方もない苦難を乗り越えて無事に再会できた。さあ、退屈で平穏な日常へ戻りたまえ。私は管理業務で忙しいのだよ」
半ば追い出されるようにして、沢田と上原は25階3号室から出た。
沢田は拍子抜けした様子で言う。
「やけにあっさり帰してくれたな。最後に殺し合うと思ったぜ」
「平和的に済むならそれがベストじゃないですか」
「まあそうなんだが……」
どこか釈然としない様子の沢田は、廊下に倒れた三つの死体に近づく。
マナカとヒヨリの死体は頭部が潰れて見分けがつかない状態になっていた。
松本は後頭部が弾けて中身が露出している。
三人分の出血で床が真っ赤に染まり、濃密な臭いを漂わせていたが、沢田と上原は平気な顔をしている。
沢田はヒヨリの死体から警棒を拾った。
さらにマナカの手から拳銃を剥ぎ取り、ポケットに入れてあった予備弾倉も拝借する。
「やっぱ丸腰だと落ち着かねえな」
「わかります。何か持っていないと不安ですよね」
「完全にビルの生活に馴染んでるよなぁ……」
沢田はぼやきながら歩く。
隣を進む上原はふと気になって尋ねた。
「ところで先生の記憶はどの程度戻ったんですか?」
「あー……断片的だから正確には分からんが、一割もなさそうだ。特にここ数年はボケてたから曖昧な部分が多い。ったく、人生を損した気分だ」
「まあまあ、これから楽しい思い出を作っていきましょうよ」
「発言だけは若いままだな」
「もう、相変わらず先生はデリカシーがないですね」
「俺にデリカシーを期待する方が悪い」
沢田の断言を聞いて、上原は思わず苦笑してしまう。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
いつでも殴りかかれるよう、拳は固く握られていた。
「お前が管理者になるだと? 妙に都合がいいな。一体どういう風の吹き回しだ?」
「単純な話さ。この状況で君の要求を拒めるだけの手札がない。ならば余計な損害を負う前に従うのが合理的だろう」
葛城はひらひらと手を振って答える。
諦めと開き直りの入り混じった態度は、彼女の本音を余さず曝け出していた。
急展開に未だついていけていない上原は、探るような目つきで確認する。
「あなたに任せていいんですね……私は、解放されたんですね」
「残念ながらその通りだよ。君は管理者として非常に優秀だった。願わくば継続してほしいが、沢田君がそれを許してくれそうにない」
「当たり前だろうが」
沢田が葛城を突き飛ばす。
それでも葛城は文句一つ言わなかった。
彼女はコレクターの死体を撫でて自虐的に笑う。
その際、年齢不詳の美貌に陰りが差し、その姿を枯れ果てた老婆のように見せた。
「本当は色々と画策していたのだがね。たった一発の弾丸で駄目になってしまった。いやはや、人生とは不条理なものだよ」
愚痴を吐いた後、葛城は髪を掻き上げて微笑する。
くたびれた気配は瞬く間に霧散し、元の雰囲気を取り戻していた。
葛城は拍手で二人を称賛する。
「おめでとう、君達は途方もない苦難を乗り越えて無事に再会できた。さあ、退屈で平穏な日常へ戻りたまえ。私は管理業務で忙しいのだよ」
半ば追い出されるようにして、沢田と上原は25階3号室から出た。
沢田は拍子抜けした様子で言う。
「やけにあっさり帰してくれたな。最後に殺し合うと思ったぜ」
「平和的に済むならそれがベストじゃないですか」
「まあそうなんだが……」
どこか釈然としない様子の沢田は、廊下に倒れた三つの死体に近づく。
マナカとヒヨリの死体は頭部が潰れて見分けがつかない状態になっていた。
松本は後頭部が弾けて中身が露出している。
三人分の出血で床が真っ赤に染まり、濃密な臭いを漂わせていたが、沢田と上原は平気な顔をしている。
沢田はヒヨリの死体から警棒を拾った。
さらにマナカの手から拳銃を剥ぎ取り、ポケットに入れてあった予備弾倉も拝借する。
「やっぱ丸腰だと落ち着かねえな」
「わかります。何か持っていないと不安ですよね」
「完全にビルの生活に馴染んでるよなぁ……」
沢田はぼやきながら歩く。
隣を進む上原はふと気になって尋ねた。
「ところで先生の記憶はどの程度戻ったんですか?」
「あー……断片的だから正確には分からんが、一割もなさそうだ。特にここ数年はボケてたから曖昧な部分が多い。ったく、人生を損した気分だ」
「まあまあ、これから楽しい思い出を作っていきましょうよ」
「発言だけは若いままだな」
「もう、相変わらず先生はデリカシーがないですね」
「俺にデリカシーを期待する方が悪い」
沢田の断言を聞いて、上原は思わず苦笑してしまう。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
10
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百物語 厄災
嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。
小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。
(ほぼ)1分で読める怖い話
涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話!
【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】
1分で読めないのもあるけどね
主人公はそれぞれ別という設定です
フィクションの話やノンフィクションの話も…。
サクサク読めて楽しい!(矛盾してる)
⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません
⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください
【完結】百怪
アンミン
ホラー
【PV数100万突破】
第9回ネット小説大賞、一次選考通過、
第11回ネット小説大賞、一次選考通過、
マンガBANG×エイベックス・ピクチャーズ
第一回WEB小説大賞一次選考通過作品です。
百物語系のお話。
怖くない話の短編がメインです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/20:『ものおと』の章を追加。2026/1/27の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/19:『みずのおと』の章を追加。2026/1/26の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/18:『あまなつ』の章を追加。2026/1/25の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/17:『えれべーたー』の章を追加。2026/1/24の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/16:『せきゆすとーぶ』の章を追加。2026/1/23の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/15:『しばふ』の章を追加。2026/1/22の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる