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第43話 魔術の才能を開花させてみた
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何にしても、俺はトロールに勝った。
かなり卑怯な戦い方になったが、別に今に始まったことではない。
大した才能を持たない俺が英雄の真似事をしても早死にするだけだ。
身の丈に合った戦法を選ぶのはおかしなことではないだろう。
これまでの戦闘から大きく変わった点がないのが良い。
確かに魔術は便利だが、俺の場合は要所を支えるように使っている。
あくまでも補助的な道具とすることで、新たな力に振り回されずに済んでいた。
この点に関しては、おそらくビビよりも顕著だと思う。
それが互いの優劣に関係するわけではなく、ただその傾向にあるという話だ。
強敵を倒した余韻に浸る俺だったが、ふと違和感を覚えてトロールの死体を見下ろす。
死体の魔力が急激に高まっていた。
なんだか嫌な予感がする。
その時、トロールの右手が俺を掴もうと動いた。
俺はぎょっとしながら防壁の指輪を発動する。
紙一重で右手を遮ることに成功したので、大急ぎで離れた場所まで退避した。
首を失ったトロールは、のっそりと起き上がる。
両脚はまだ毒で動かないはずなのに平然としていた。
俺はトロールの魔力の流れを注視する。
そして、ある事実に気が付いた。
(防具が死霊魔術を発動したのか)
現在のトロールはアンデッド化している。
装着した各所の防具が死霊魔術の礎となっているのだ。
死をきっかけに発動する仕組みなのだろう。
油断した冒険者を殺すため罠というわけである。
なんとも厄介で悪質だった。
身構えようとした俺は吐き気を覚える。
背中に乗っていた時、アンデッドの瘴気を吸ってしまったかもしれない。
その可能性に思い至った瞬間に魔術を発動させる。
ほんの僅かな時間で吐き気は消えた。
使ったのは火属性の肉体活性だ。
身体強化とは系統が違う。
全身が高熱を発し、火属性が体内を巡って毒を打ち消してくれるのだ。
毒以外にも体内に影響を及ぼす魔術にも有効で、瘴気にもしっかりと効いてくれたらしい。
他者にも有効とのことなので、今後も使いどころは多いと思う。
俺が治療に励む間、首無しのトロールは大剣を拾って周囲を徘徊していた。
無闇に暴れたりしない。
動作から考えるに、頭部が無い状態でも支障がなさそうだ。
アンデッド化をきっかけに、魔力的な感覚を頼りに行動しているのだろう。
もっとも、闇魔術によって感知ができない俺を見つけられない。
こちらの様子を窺うビビにも気付いていないため、知覚範囲はそこまで広くないようだ。
痛みや負傷に強くなった半面、そこまで絶望するほどの強化でもない。
倒し方は既に決まっていた。
俺はそばに転がる石を掴むと、少し遠くへ放り投げる。
石が地面に当たり、その音に反応したトロールが大剣を叩き付けた。
ちょうど俺に背中を向ける角度だった。
俺はすぐさま走り出して跳躍する。
狙いはもう定まっている。
魔力の循環を観察して、心臓が中心になっているのは分かっていた。
つまりそこが弱点だ。
アンデッドだろうと核を潰されれば活動を停止する。
死霊魔術を維持する防具を残らず破壊するより楽なはずだ。
俺は光属性を剣に付与して、分厚い背中越しに心臓を突き刺した。
聖なる光が噴き上がり、アンデッド化したトロールを浄化していく。
抵抗するトロールが勢いよく腕を振り回した。
俺は避け切れずに肘にぶつかって吹き飛ばされる。
地面を転がって柱にぶつかり、血反吐を噴いた。
激痛に悶えながらも俺は顔を上げる。
背中に剣が刺さったままのトロールが蒸発するところだった。
断末魔の叫びを反響させて、やがて防具を残して消滅した。
かなり卑怯な戦い方になったが、別に今に始まったことではない。
大した才能を持たない俺が英雄の真似事をしても早死にするだけだ。
身の丈に合った戦法を選ぶのはおかしなことではないだろう。
これまでの戦闘から大きく変わった点がないのが良い。
確かに魔術は便利だが、俺の場合は要所を支えるように使っている。
あくまでも補助的な道具とすることで、新たな力に振り回されずに済んでいた。
この点に関しては、おそらくビビよりも顕著だと思う。
それが互いの優劣に関係するわけではなく、ただその傾向にあるという話だ。
強敵を倒した余韻に浸る俺だったが、ふと違和感を覚えてトロールの死体を見下ろす。
死体の魔力が急激に高まっていた。
なんだか嫌な予感がする。
その時、トロールの右手が俺を掴もうと動いた。
俺はぎょっとしながら防壁の指輪を発動する。
紙一重で右手を遮ることに成功したので、大急ぎで離れた場所まで退避した。
首を失ったトロールは、のっそりと起き上がる。
両脚はまだ毒で動かないはずなのに平然としていた。
俺はトロールの魔力の流れを注視する。
そして、ある事実に気が付いた。
(防具が死霊魔術を発動したのか)
現在のトロールはアンデッド化している。
装着した各所の防具が死霊魔術の礎となっているのだ。
死をきっかけに発動する仕組みなのだろう。
油断した冒険者を殺すため罠というわけである。
なんとも厄介で悪質だった。
身構えようとした俺は吐き気を覚える。
背中に乗っていた時、アンデッドの瘴気を吸ってしまったかもしれない。
その可能性に思い至った瞬間に魔術を発動させる。
ほんの僅かな時間で吐き気は消えた。
使ったのは火属性の肉体活性だ。
身体強化とは系統が違う。
全身が高熱を発し、火属性が体内を巡って毒を打ち消してくれるのだ。
毒以外にも体内に影響を及ぼす魔術にも有効で、瘴気にもしっかりと効いてくれたらしい。
他者にも有効とのことなので、今後も使いどころは多いと思う。
俺が治療に励む間、首無しのトロールは大剣を拾って周囲を徘徊していた。
無闇に暴れたりしない。
動作から考えるに、頭部が無い状態でも支障がなさそうだ。
アンデッド化をきっかけに、魔力的な感覚を頼りに行動しているのだろう。
もっとも、闇魔術によって感知ができない俺を見つけられない。
こちらの様子を窺うビビにも気付いていないため、知覚範囲はそこまで広くないようだ。
痛みや負傷に強くなった半面、そこまで絶望するほどの強化でもない。
倒し方は既に決まっていた。
俺はそばに転がる石を掴むと、少し遠くへ放り投げる。
石が地面に当たり、その音に反応したトロールが大剣を叩き付けた。
ちょうど俺に背中を向ける角度だった。
俺はすぐさま走り出して跳躍する。
狙いはもう定まっている。
魔力の循環を観察して、心臓が中心になっているのは分かっていた。
つまりそこが弱点だ。
アンデッドだろうと核を潰されれば活動を停止する。
死霊魔術を維持する防具を残らず破壊するより楽なはずだ。
俺は光属性を剣に付与して、分厚い背中越しに心臓を突き刺した。
聖なる光が噴き上がり、アンデッド化したトロールを浄化していく。
抵抗するトロールが勢いよく腕を振り回した。
俺は避け切れずに肘にぶつかって吹き飛ばされる。
地面を転がって柱にぶつかり、血反吐を噴いた。
激痛に悶えながらも俺は顔を上げる。
背中に剣が刺さったままのトロールが蒸発するところだった。
断末魔の叫びを反響させて、やがて防具を残して消滅した。
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