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ファンタジー
女装男子は女性騎士団長に見初められる。②
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「……いいんじゃね??」
「というか、むしろ似合うだろ??」
「何か……普通に……可愛い??」
見せしめ台の上に立たされたクーファを、いつものように第二騎士団員たちが取り囲み、ぽーっと見つめている。
当の本人は恥ずかしくて服の裾を握りしめて俯くしかない。
顔を赤くし、汗だくになっている。
「あ、あまり見ないで下さい……。」
履きなれないスカートはダボダボしていて扱いに困ってしまう。
何より中が空洞なのでスースーする。
一応、ズロースという半ズボンみたいな下着は履いてあるが、その上に数枚の布を重ねて巻いてあるだけみたいな格好はこれまでした事がなく、とにかく覚束なくて不安だ。
「お?!いいじゃないか?!」
そこに副団長につれて来られた団長が現れる。
クーファを見て、ガハハと無責任に笑った。
「おしおし!!どこをどう見ても!立派な下働きの下女だ!!自信を持っていいぞ!!クーファ!!」
その自信を今後どこで使えばいいんだろうとクーファは思う。
ほとんど泣きべそをかきながら、恨めしそうに団長を見つめた。
そう、クーファはアルテミス騎士団に下働きに行く為に、下女として女装させられたのだ。
それを皆におかしいところがないかチェックしてもらったのだが、小柄で目だたない顔のクーファは、誰にも何の違和感も抱かせなかったのだ。
「まぁ、若干、凹凸が寂しいがな。」
「!!」
ゲラゲラ笑う無責任な団長。
凹凸などある訳がない。
どれだけ女装が似合おうとも、クーファはれっきとした男子なのだから。
「ふ、ふえぇぇぇ……。」
「だ!大丈夫だって!!クーファ!!」
「泣くなよ!男だろ?!」
「そうですよ……男ですよ……。こんなのバレるに決まってます……。バレたら僕は……僕は……うぅぅ……。」
緊張のあまり、ポロポロ泣き出すクーファ。
周りもアルテミス騎士団の恐ろしさはよく知っている。
迂闊な事も言えずにオロオロするばかり。
「クーファ!!」
「はい!!」
そこに副団長の怒号が飛ぶ。
常に怒られまくっていたクーファは条件反射に泣き止み、ビシッと姿勢を正す。
「これは任務だ!お前も第二騎士団の一人なら!!騎士としてきっちり仕事をこなしてみせろ!!」
「は、はい!!」
「一週間!!男だと周囲にバレる事無く!アルテミス騎士団にて下女として働くのだ!!いいか!わかったな!!」
「はい!!」
「お前の名前はなんだ!!」
「クーリンです!!クーとお呼び下さい!!」
「出身は?!」
「テネデールのスラム地区です!!」
「団長との関係は?!」
「遠征で来られた際に、ガリガリな私を見かねて下女として拾って頂きました!!」
「家族は?!」
「死別しています!!」
「髪の毛が短い理由は?!」
「親の葬儀の為にお金が必要で売りました!」
アルテミス騎士団に行っても怪しまれぬよう、副団長が考えた設定をクーファは復唱する。
必死だった。
もう、待った無しの背水の陣。
このアルテミス騎士団への下女としての出向に失敗すれば、第二騎士団も責任を問われかねない。
もちろんそうなれば第二騎士団をクビになるだろうし、何より男だとバレたらアルテミス騎士団でどんな目に合わされるか……。
やるしかないんだ。
僕は……いや、私はクーリン。
先日の遠征時に団長に拾ってもらったばかりの田舎者でスラム上がりの下女。
色々わからなくてもそういう事で押し通すしかない。
クーファはべそをかきながらも覚悟を決めた。
たった一週間……されど一週間……。
とにかくバレずに下女としてしっかり働いて、問題を起こさずに帰ってくればいい。
騎士としての自信はないが、掃除や洗濯、料理や雑用ならまだ自信はある。
クーファが生き残るには、何としてでも一週間、男だとバレずに問題なくアルテミス騎士団で下女として過ごし、ここに無事に帰ってこなければならない。
「……なるほど??」
団長の紹介状を手にアルテミス騎士団の詰め所にやってきたクーファ。
いや、ここでの名はクーリン。
着慣れていなそうな下女の作業服を着て、冷や汗を流しながら不安そうに俯いている。
「アイツがきちんと約束を守るとは驚いた。」
そう言ってため息をついたのは、アルテミス騎士団団長、ネヴァン・P・ノーブル・クレバーン。
その両脇に、アルテミス騎士団の悪名高き双璧、副団長のミネルバと、総部隊長のマッハが対象的な表情でクーリンを見ていた。
「……私は反対です。いくら人がいないからと言って、あの第二騎士団長の寄こした人間です。間違いなく、こちらの要望を聞いたフリをして厄介事を押し付けたに違いありません。」
そう言ったのは、副団長のミネルバ。
参謀や軍師も兼ねる知能派なネヴァン団長の片腕だ。
冷酷な目でジッとクーリンを見下ろしている。
「別に良くない?!最近暇だったし~?問題あるならなおさら面白いってもんよ!手グセが悪いなら悪いでアタシがしっかり躾け直すし~。」
ニヤニヤと楽しそうにクーリンを見ているのは、アルテミス騎士団きっての暴れ馬、総部隊長のマッハ。
出身がスラムという設定なので、手グセの事を真っ先に考えたようだ。
ただ部隊長のミネルバと違うのは、マッハはそれを嬉々として受け入れるつもりな事だ。
問題上等、むしろ付け入る隙をくれるなら大歓迎といったところだろう。
マッハの目に、幼い子どもが新しいおもちゃを見るような無邪気さと残忍さを垣間見て、クーリンはゾッとした。
これは本当にとんでもない事になってしまった。
もう、第二騎士団をクビになるとかどうでもいい。
今すぐここから逃げ出したい。
クーリンは怯えきって、歯をガチガチと鳴らして震えていた。
「……よせ、二人とも。怯えきっているではないか。」
深いため息と共に、ネヴァン団長がそう言った。
そして立ち上がるとツカツカとクーリンの元にやってきた。
そして優雅に跪いた。
「?!」
「団長?!」
「ネヴァン?!」
クーリンも他の二人もその行動に驚いてしまった。
身分も立場もあるネヴァン団長が、スラム上がりの下女に跪いたのだから、そりゃ驚くしかない。
「お、お立ちください!!団長様!!」
「いや。部下の非礼を詫びよう。遠方から来られた娘よ。どうか私に免じて許してはくれぬか?」
「!!」
クーリンはドキリとした。
恐ろしいと聞いていたアルテミス騎士団の団長。
その人の崇高で身分に囚われない正義感と誠実さにキュンとしてしまった。
「そんな!私は非礼だなどとは思っておりません!どうかお立ちください!団長様!!」
「そうか……許してくれるか。ありがとう……ええと……名は?」
「クー……リンです!!どうぞクーとお呼び下さいませ!!」
「……そうか、クー。謝罪を受け入れてくれた事に感謝する。」
「とんでもございません!!」
優雅な所作で立ち上がったネヴァン団長。
ふわりといい匂いがした気がした。
な、なんて素敵な方!!
うちの無責任で横柄な団長とは大違いだ!!
気品に溢れ、誠実で、そして美しい!!
団長とは本来、この様な方を言うのだ!!
もしも私が女でこの方の下に配属されたなら!!
一生涯、身を粉にしてお仕えすると誓える!!
いつの間にか両手を胸の前で組み、クーは祈るようにネヴァン団長を見つめている。
そんなクーに、ネヴァン団長はクスリと笑った。
「そんな顔をされると照れるな?」
「……へっ?!」
「も~、団長はすぐ女の子を虜にするんですから~。本当、天然なのに魔性ですよねぇ~。」
「……まぁ、その顔なら、ここでそうそう悪さもしまい。一週間ばかりなら、問題ないでしょう……。」
「へ?!」
クーは話の流れについていけず、きょとんとする。
なんだろう……既にここで働く事が決まったみたいな話になってるんだが……??
訳がわからずオロオロするクー。
そんなクーの頭を、ぽんぽん、とネヴァンは撫でた。
「では、一週間、ここで働いてもらうぞ、クー。」
「え……いいんですか??」
「嫌なのか?」
「い、いえ!!団長様のご期待に添えるよう!!精一杯!勤めさせて頂きます!!」
「うむ。よろしく頼む。クー。」
「はい!!」
そう言って微笑んだネヴァン団長の顔を、クーもといクーファは夢でも見ている気分で見つめる。
すぐにでも逃げ出したかったのに、いつの間にか心は、少しでもネヴァン団長の役に立ちたいと言う想いに変わっていた。
この気持ちは何なのだろう??
クーファはよくわからないまま、無事、アルテミス騎士団で一週間、働く事になったのだった。
「というか、むしろ似合うだろ??」
「何か……普通に……可愛い??」
見せしめ台の上に立たされたクーファを、いつものように第二騎士団員たちが取り囲み、ぽーっと見つめている。
当の本人は恥ずかしくて服の裾を握りしめて俯くしかない。
顔を赤くし、汗だくになっている。
「あ、あまり見ないで下さい……。」
履きなれないスカートはダボダボしていて扱いに困ってしまう。
何より中が空洞なのでスースーする。
一応、ズロースという半ズボンみたいな下着は履いてあるが、その上に数枚の布を重ねて巻いてあるだけみたいな格好はこれまでした事がなく、とにかく覚束なくて不安だ。
「お?!いいじゃないか?!」
そこに副団長につれて来られた団長が現れる。
クーファを見て、ガハハと無責任に笑った。
「おしおし!!どこをどう見ても!立派な下働きの下女だ!!自信を持っていいぞ!!クーファ!!」
その自信を今後どこで使えばいいんだろうとクーファは思う。
ほとんど泣きべそをかきながら、恨めしそうに団長を見つめた。
そう、クーファはアルテミス騎士団に下働きに行く為に、下女として女装させられたのだ。
それを皆におかしいところがないかチェックしてもらったのだが、小柄で目だたない顔のクーファは、誰にも何の違和感も抱かせなかったのだ。
「まぁ、若干、凹凸が寂しいがな。」
「!!」
ゲラゲラ笑う無責任な団長。
凹凸などある訳がない。
どれだけ女装が似合おうとも、クーファはれっきとした男子なのだから。
「ふ、ふえぇぇぇ……。」
「だ!大丈夫だって!!クーファ!!」
「泣くなよ!男だろ?!」
「そうですよ……男ですよ……。こんなのバレるに決まってます……。バレたら僕は……僕は……うぅぅ……。」
緊張のあまり、ポロポロ泣き出すクーファ。
周りもアルテミス騎士団の恐ろしさはよく知っている。
迂闊な事も言えずにオロオロするばかり。
「クーファ!!」
「はい!!」
そこに副団長の怒号が飛ぶ。
常に怒られまくっていたクーファは条件反射に泣き止み、ビシッと姿勢を正す。
「これは任務だ!お前も第二騎士団の一人なら!!騎士としてきっちり仕事をこなしてみせろ!!」
「は、はい!!」
「一週間!!男だと周囲にバレる事無く!アルテミス騎士団にて下女として働くのだ!!いいか!わかったな!!」
「はい!!」
「お前の名前はなんだ!!」
「クーリンです!!クーとお呼び下さい!!」
「出身は?!」
「テネデールのスラム地区です!!」
「団長との関係は?!」
「遠征で来られた際に、ガリガリな私を見かねて下女として拾って頂きました!!」
「家族は?!」
「死別しています!!」
「髪の毛が短い理由は?!」
「親の葬儀の為にお金が必要で売りました!」
アルテミス騎士団に行っても怪しまれぬよう、副団長が考えた設定をクーファは復唱する。
必死だった。
もう、待った無しの背水の陣。
このアルテミス騎士団への下女としての出向に失敗すれば、第二騎士団も責任を問われかねない。
もちろんそうなれば第二騎士団をクビになるだろうし、何より男だとバレたらアルテミス騎士団でどんな目に合わされるか……。
やるしかないんだ。
僕は……いや、私はクーリン。
先日の遠征時に団長に拾ってもらったばかりの田舎者でスラム上がりの下女。
色々わからなくてもそういう事で押し通すしかない。
クーファはべそをかきながらも覚悟を決めた。
たった一週間……されど一週間……。
とにかくバレずに下女としてしっかり働いて、問題を起こさずに帰ってくればいい。
騎士としての自信はないが、掃除や洗濯、料理や雑用ならまだ自信はある。
クーファが生き残るには、何としてでも一週間、男だとバレずに問題なくアルテミス騎士団で下女として過ごし、ここに無事に帰ってこなければならない。
「……なるほど??」
団長の紹介状を手にアルテミス騎士団の詰め所にやってきたクーファ。
いや、ここでの名はクーリン。
着慣れていなそうな下女の作業服を着て、冷や汗を流しながら不安そうに俯いている。
「アイツがきちんと約束を守るとは驚いた。」
そう言ってため息をついたのは、アルテミス騎士団団長、ネヴァン・P・ノーブル・クレバーン。
その両脇に、アルテミス騎士団の悪名高き双璧、副団長のミネルバと、総部隊長のマッハが対象的な表情でクーリンを見ていた。
「……私は反対です。いくら人がいないからと言って、あの第二騎士団長の寄こした人間です。間違いなく、こちらの要望を聞いたフリをして厄介事を押し付けたに違いありません。」
そう言ったのは、副団長のミネルバ。
参謀や軍師も兼ねる知能派なネヴァン団長の片腕だ。
冷酷な目でジッとクーリンを見下ろしている。
「別に良くない?!最近暇だったし~?問題あるならなおさら面白いってもんよ!手グセが悪いなら悪いでアタシがしっかり躾け直すし~。」
ニヤニヤと楽しそうにクーリンを見ているのは、アルテミス騎士団きっての暴れ馬、総部隊長のマッハ。
出身がスラムという設定なので、手グセの事を真っ先に考えたようだ。
ただ部隊長のミネルバと違うのは、マッハはそれを嬉々として受け入れるつもりな事だ。
問題上等、むしろ付け入る隙をくれるなら大歓迎といったところだろう。
マッハの目に、幼い子どもが新しいおもちゃを見るような無邪気さと残忍さを垣間見て、クーリンはゾッとした。
これは本当にとんでもない事になってしまった。
もう、第二騎士団をクビになるとかどうでもいい。
今すぐここから逃げ出したい。
クーリンは怯えきって、歯をガチガチと鳴らして震えていた。
「……よせ、二人とも。怯えきっているではないか。」
深いため息と共に、ネヴァン団長がそう言った。
そして立ち上がるとツカツカとクーリンの元にやってきた。
そして優雅に跪いた。
「?!」
「団長?!」
「ネヴァン?!」
クーリンも他の二人もその行動に驚いてしまった。
身分も立場もあるネヴァン団長が、スラム上がりの下女に跪いたのだから、そりゃ驚くしかない。
「お、お立ちください!!団長様!!」
「いや。部下の非礼を詫びよう。遠方から来られた娘よ。どうか私に免じて許してはくれぬか?」
「!!」
クーリンはドキリとした。
恐ろしいと聞いていたアルテミス騎士団の団長。
その人の崇高で身分に囚われない正義感と誠実さにキュンとしてしまった。
「そんな!私は非礼だなどとは思っておりません!どうかお立ちください!団長様!!」
「そうか……許してくれるか。ありがとう……ええと……名は?」
「クー……リンです!!どうぞクーとお呼び下さいませ!!」
「……そうか、クー。謝罪を受け入れてくれた事に感謝する。」
「とんでもございません!!」
優雅な所作で立ち上がったネヴァン団長。
ふわりといい匂いがした気がした。
な、なんて素敵な方!!
うちの無責任で横柄な団長とは大違いだ!!
気品に溢れ、誠実で、そして美しい!!
団長とは本来、この様な方を言うのだ!!
もしも私が女でこの方の下に配属されたなら!!
一生涯、身を粉にしてお仕えすると誓える!!
いつの間にか両手を胸の前で組み、クーは祈るようにネヴァン団長を見つめている。
そんなクーに、ネヴァン団長はクスリと笑った。
「そんな顔をされると照れるな?」
「……へっ?!」
「も~、団長はすぐ女の子を虜にするんですから~。本当、天然なのに魔性ですよねぇ~。」
「……まぁ、その顔なら、ここでそうそう悪さもしまい。一週間ばかりなら、問題ないでしょう……。」
「へ?!」
クーは話の流れについていけず、きょとんとする。
なんだろう……既にここで働く事が決まったみたいな話になってるんだが……??
訳がわからずオロオロするクー。
そんなクーの頭を、ぽんぽん、とネヴァンは撫でた。
「では、一週間、ここで働いてもらうぞ、クー。」
「え……いいんですか??」
「嫌なのか?」
「い、いえ!!団長様のご期待に添えるよう!!精一杯!勤めさせて頂きます!!」
「うむ。よろしく頼む。クー。」
「はい!!」
そう言って微笑んだネヴァン団長の顔を、クーもといクーファは夢でも見ている気分で見つめる。
すぐにでも逃げ出したかったのに、いつの間にか心は、少しでもネヴァン団長の役に立ちたいと言う想いに変わっていた。
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