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ファンタジー
女装男子は女性騎士団長に見初められる。④
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ネヴァンの様子がおかしい。
書類を整理しながら、ミネルバはちらりと業務を行う姿を見た。
女性騎士団の最高峰、アルテミス騎士団団長、ネヴァン・P・ノーブル・クレバーン。
騎士としての腕もさる事ながら、団長としての手腕、統率力、厳格さ、気品、美しさ、カリスマ性、どれをとっても高位の騎士だ。
現国王に「そなたが男であったなら、次期第一騎士団団長を安心して任せられたと言うのに」と言わしめたお人だ。
そしてそれに対し、ネヴァンは穏やかに微笑み「自分が女性である事に陛下がお心を痛めるのでしたら、第一騎士団全員を10日後までに全員去勢してまいります。」と言い放った。
あの時の陛下並びに第一騎士団の連中の青ざめた顔と言ったらなかった。
ミネルバはそれを思い出して、思わず吹き出した。
「……ミネルバ?どうしたのだ?」
「すまん、ふと、お前が陛下に「第一騎士団全員を10日以内に去勢してみせる」と言い放った時の事を思い出してな……。」
「ああ、アレか。陛下が許可して下されば、造作もなかったのだがな。」
ガシャン、と食器が派手な音を立てた。
お茶を入れていたクーが動揺したようにオロオロしている。
「クー?!大丈夫か?!」
「す!すみません!!すみません!!」
大きな音を立ててしまった事を悔いているのか、真っ青になって狼狽えている。
何もそんなに怯えなくてもと思うのだが、第二騎士団長の紹介で1週間ここアルテミス騎士団の下働きに来たクーは、とにかく常におどおどしている。
下働きのメイドたちにはだいぶ打ち解けているようだが、騎士たち、特に自分やマッハ、そして団長であるネヴァンにはとにかくいつも一線を引いているというか、怯えている。
貧しいスラム街の育ちのせいか、貴族や立場のある人間に対して恐怖心が拭えないのだろう。
可哀想といえば可哀想なのだが……そこまで怯えられるとこちらもやり難い。
「大丈夫か?!火傷などしておらぬか?!」
「た、大丈夫です。団長様……あっ……。」
「クー?」
「すみません……。大丈夫です。お心遣いありがとうございます、ネヴァン様……。」
すぐ様、クーに駆け寄ったネヴァン。
それに真っ赤になって俯くクー。
「……………………。」
お茶を入れていたメイドに対しては行き過ぎではとしか言いようのない、ネヴァンの対応。
何よりネヴァンは、クーに「団長様」と呼ばれる事を嫌い、「ネヴァン」と呼ぶよう求めている。
たった一週間しかいない下働きのメイドに対して、だ。
ミネルバはため息をつく。
もう、そういう事なのだとわかっていた。
「……なぁ。」
「何だ?」
作業を終え、一礼してクーが去った事を確認するとミネルバは言った。
それを入れてもらったお茶をにこにこと楽しみながらネヴァンが答える。
「……お前、自覚はあるのか?」
「何のだ?」
含みを込めて尋ねるが、ネヴァンは不思議そうにするばかり。
どうやら自覚はないようだ。
これはさらに面倒だとミネルバは思った。
だが、遠回しにしていても埒が明かない。
ミネルバはピシャリと言い放った。
「お前、クーに惚れているだろう?」
その瞬間、お茶を吹いてネヴァンがらしくなく狼狽えた。
その顔を見て確信し、何となく意地悪く笑う。
「図星か?」
「な?!何を?!クーは同性だぞ?!」
「それがなんだ?同性で仮婚姻している者は別に少なくはない。特に女性騎士には生涯の伴侶として側に置く者は珍しくなかろう?」
「仮婚姻?!私が?!私がクーと?!」
「……いや、まだ惚れた腫れたの話しかしてないが……。だがそうだな、お前の立場なら、下手に恋人を置くよりさっと仮婚姻してしまった方が騒ぎが大きくならずに済むな……。となると、クーの立場を少しどうにかせねばな。」
「待て!待て、ミネルバ?!話が見えぬ!!」
真っ赤になり、見た事もないほど慌てふためくネヴァンをミネルバは面白そうに見つめる。
こいつのこんな姿はそうそう見られるものではない、よく覚えておこうと思う。
「ならば聞くが、お前はこのまま、数日後に黙ってクーを第二騎士団に返すのか?」
「……それは……。本人がいいと言ってくれれば、このままここで働いてもらいたいと思っている……。」
「ふ~ん。とりあえず、アルテミスに引き抜くところから始めるつもりなのだな?」
「それはそうだろう?!クーは下女とはいえ年頃の娘だ!男所帯の第二騎士団の詰め所に戻すのは、たとえ一週間の付き合いとはいえ、私は心配だ。」
「そう、第二騎士団長には言う訳だ。だが、クーにとってあのゴリラは命の恩人。見てくれがゴリラだろうと、クーの性格から行けば、恩義のある相手の側を離れたがるとは思えんがな。」
「……確かに。クーはそう言う人だ……。そういうところが好ましいと思うが……。」
「好ましいねぇ……。」
「!!へっ!変な意味ではない!!」
これまた見た事もない動揺を見せるネヴァン。
面白くはあるが、見飽きてきたとミネルバは思った。
「いい加減、はっきりしろ。クーに惚れているのか?惚れていて側に置きたいのか?それとも単なる気遣いか?気遣いならお節介とも言う。」
「お節介……。そう……だな……。私がその方が良いと思っても、クーには余計なお節介かもしれぬ……。」
ズーン……と落ち込むネヴァン。
全く、舞い上がったり落ち込んだり忙しいヤツだと呆れた。
「で?どっちなんだ?ネヴァン。それによって、対応が変わる。」
「対応?」
「そうだ。お前が単なるお節介を焼きたいだけなら、それに対応できるように手を回しておく。だが、お前がクーに惚れていて側に置きたいとなれば、別の対応をしておかねばならぬ。」
冷静に状況を判断しているミネルバの顔をネヴァンは見つめ、そしてデスクに両肘を乗せ拳に額を押し当てた。
ネヴァンは動揺していた。
騎士に自分の天職を見出した時、自分は生涯、独身だろうと思った。
騎士だからといって夫を持つ事が許されない訳でもないし、同性と仮婚姻をする道も知っていた。
だが、異性にも同性にも、騎士として生きる事以上の魅力を感じた事がなかったのだ。
どちらにも言い寄られはしたが、騎士である事以上に愛せる自信がなく、丁重に断り続けていた。
だからそんな気持ちが自分の中に残っていた事にまず驚いたし、それに気付なかった事にも驚いた。
「……私は……クーを……。」
可愛いとは思っていた。
臆病な怯えた子犬みたいで放っておけない。
でも何より、あの無垢な瞳にキラキラと自分を見つめられると、喜びに胸が満たされ、高揚した気分になった。
そんな気分になる相手は、後にも先にもクーだけだ。
「……つまり……それは……。」
「結論が出たか。」
「……その様だ。」
愛しているのだと知ってしまった。
ネヴァンは、自分がクーを愛している事に気づいてしまった。
「……どうしたらいいんだ?ミネルバ?」
「知らん。」
「知らんだと?!さっき対応がどうと言っていたではないか?!」
「だから、そうなっても大丈夫な様に対応はしておく。だがな?惚れた腫れたで一番、重要な事は何だ?」
「一番、重要な事?」
「お前の気持ちはわかった。だがクーの気持ちはどうだ?二人の気持ちが同じでなければ、私がどう対応しようと無意味だろう。」
「そうだ!クー!!クーは?!クーは……私を……好いてくれるだろうか……。」
「……好かれてはいるだろうな?」
「本当か?!」
「だが、クーがそういう意味で誰を好きかなどわからんからな。何しろ数日前までは第二騎士団にいたんだぞ?すでに恋人がいても……。」
「恋人?!クーにか?!」
「だから、知らん。」
「待ってくれ!ミネルバ!!そんな事を聞いてしまったら!!気になって仕事が手に着かぬ!!」
「だから。その部分は自分でどうにかしろ。どの道、クーを口説き落とせなければ、その先も糞もないのだからな。」
「……口説く……クーを口説く……。」
「まぁ、アイツがフリーなのなら、お前なら簡単じゃないか?あっちこっちでたらし込んでるお前なら。」
「いや、そんな不埒な事はしておらぬ。」
「無自覚って怖いわ。ま、とにかくわかった。お前がクーを口説けたなら、一緒にいれる手立てを考えておく。」
「すまん。」
「せいぜい頑張ってクーを口説いてくれ。それから仕事もちゃんとしてくれ。いいな?ネヴァン。」
「わかった……。」
わかったと返事をしたネヴァンだったかが、速攻、書類の処理速度ががくんと落ちている。
ミネルバは肩をすくめ、自分の仕事に戻った。
去勢?!
ネヴァンとミネルバにお茶出しをして戻ったクーは動揺していた。
青ざめ微かに震えながら、玉ねぎの皮を剥き続ける。
第一騎士団全員を去勢……。
あの、騎士の最高位、国王直属の第一騎士団を……。
しかも10日あれば造作もないらしい……。
ブルっと身を大きく震わせる。
仕事にも馴染み、不思議とクーを男だと疑う人もおらず、上手くやっているつもりだった。
しかし思わぬところで現実を突きつけられた。
あまりにすんなり打ち解けてしまったし、仕事も楽しいし、下働きの皆も騎士たちも優しくしてくれるし、何より団長であるネヴァンがとても気さくな上、気品に溢れ、仕事も完璧で、率先して身を粉にして尽くしたいと思わせるのでうっかり忘れていた。
ここは男子禁制。
不埒な理由で侵入した男は死よりも苦しめられると恐れられるアルテミス騎士団。
その理由をクーは身を持って理解した。
騎士をクビになっても、貴族であるなら何らかの仕事はできるだろう。
けれど……男でなくなってしまったら……。
そしてそれが周囲の知る所だとしたならば……。
「……もう……生きていけない……。」
向けられるだろう哀れみと蔑みの視線を想像し、クーは半泣きになった。
半泣きになっても玉ねぎの皮を向いているので、誰もおかしいとは思わないだろう。
ぐじぐじと涙と鼻水を垂らし、それでも手だけは動かし続けるクー。
「……汚ねぇなぁ~、クー?!お前、スゲー顔になってっぞ?!」
その声に振り向くと、マッハが林檎を齧りながらクーを見ていた。
クーは慌てて涙と鼻水を拭いたが、玉ねぎの成分というのは、擦ると余計酷くなるのだ。
拭いても拭いてもでろでろなクーにマッハは大笑いする。
「マッバざま~笑いごどでばないんでず~!!」
「あははははは!!汚ねぇ!!滅茶汚ねぇ!!」
「も~!!」
散々馬鹿にされ、クーは落ち込んだ。
それをごめんごめんと軽く謝ってマッハは笑った。
そして大量に向かれた玉ねぎを見下ろす。
「今日の夕飯、何だ?!クー?!」
「今日はシチューだと聞きました。」
「マジ?!やった!!アタシ、シチュー大好き!!」
「ふふっ。マッハ様は何でも美味しく食べられるので、見てて嬉しいです。」
「そりゃね?アタシ、貴族のお食事ごっこは嫌いだもん。美味しい物は美味しく食べなくっちゃつまんないっての!!」
「ふふっ。そうですね。」
クーはマッハと話しながら、剥き終わった皮などを片付ける。
そして籠いっぱいの玉ねぎを持ち上げた。
「……手伝おっか?」
「いえいえ、マッハ様にこの様な事をさせる訳には……。」
「ふ~ん??」
重いであろう籠を持ち上げたクー。
それをジッとマッハは見つめた。
井戸近くの勝手口には他に人はいない。
マッハは言った。
「……クーってさぁ~??」
「はい?」
「男だよな??」
「?!」
マッハの言葉に固まるクー。
グギギ……と機械の様に硬直した顔をマッハに向ける。
目があったマッハは屈託なくニカッと笑った。
……去勢。
その二文字がクーの頭の中に浮かんでいた……。
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あの時の陛下並びに第一騎士団の連中の青ざめた顔と言ったらなかった。
ミネルバはそれを思い出して、思わず吹き出した。
「……ミネルバ?どうしたのだ?」
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「ああ、アレか。陛下が許可して下されば、造作もなかったのだがな。」
ガシャン、と食器が派手な音を立てた。
お茶を入れていたクーが動揺したようにオロオロしている。
「クー?!大丈夫か?!」
「す!すみません!!すみません!!」
大きな音を立ててしまった事を悔いているのか、真っ青になって狼狽えている。
何もそんなに怯えなくてもと思うのだが、第二騎士団長の紹介で1週間ここアルテミス騎士団の下働きに来たクーは、とにかく常におどおどしている。
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貧しいスラム街の育ちのせいか、貴族や立場のある人間に対して恐怖心が拭えないのだろう。
可哀想といえば可哀想なのだが……そこまで怯えられるとこちらもやり難い。
「大丈夫か?!火傷などしておらぬか?!」
「た、大丈夫です。団長様……あっ……。」
「クー?」
「すみません……。大丈夫です。お心遣いありがとうございます、ネヴァン様……。」
すぐ様、クーに駆け寄ったネヴァン。
それに真っ赤になって俯くクー。
「……………………。」
お茶を入れていたメイドに対しては行き過ぎではとしか言いようのない、ネヴァンの対応。
何よりネヴァンは、クーに「団長様」と呼ばれる事を嫌い、「ネヴァン」と呼ぶよう求めている。
たった一週間しかいない下働きのメイドに対して、だ。
ミネルバはため息をつく。
もう、そういう事なのだとわかっていた。
「……なぁ。」
「何だ?」
作業を終え、一礼してクーが去った事を確認するとミネルバは言った。
それを入れてもらったお茶をにこにこと楽しみながらネヴァンが答える。
「……お前、自覚はあるのか?」
「何のだ?」
含みを込めて尋ねるが、ネヴァンは不思議そうにするばかり。
どうやら自覚はないようだ。
これはさらに面倒だとミネルバは思った。
だが、遠回しにしていても埒が明かない。
ミネルバはピシャリと言い放った。
「お前、クーに惚れているだろう?」
その瞬間、お茶を吹いてネヴァンがらしくなく狼狽えた。
その顔を見て確信し、何となく意地悪く笑う。
「図星か?」
「な?!何を?!クーは同性だぞ?!」
「それがなんだ?同性で仮婚姻している者は別に少なくはない。特に女性騎士には生涯の伴侶として側に置く者は珍しくなかろう?」
「仮婚姻?!私が?!私がクーと?!」
「……いや、まだ惚れた腫れたの話しかしてないが……。だがそうだな、お前の立場なら、下手に恋人を置くよりさっと仮婚姻してしまった方が騒ぎが大きくならずに済むな……。となると、クーの立場を少しどうにかせねばな。」
「待て!待て、ミネルバ?!話が見えぬ!!」
真っ赤になり、見た事もないほど慌てふためくネヴァンをミネルバは面白そうに見つめる。
こいつのこんな姿はそうそう見られるものではない、よく覚えておこうと思う。
「ならば聞くが、お前はこのまま、数日後に黙ってクーを第二騎士団に返すのか?」
「……それは……。本人がいいと言ってくれれば、このままここで働いてもらいたいと思っている……。」
「ふ~ん。とりあえず、アルテミスに引き抜くところから始めるつもりなのだな?」
「それはそうだろう?!クーは下女とはいえ年頃の娘だ!男所帯の第二騎士団の詰め所に戻すのは、たとえ一週間の付き合いとはいえ、私は心配だ。」
「そう、第二騎士団長には言う訳だ。だが、クーにとってあのゴリラは命の恩人。見てくれがゴリラだろうと、クーの性格から行けば、恩義のある相手の側を離れたがるとは思えんがな。」
「……確かに。クーはそう言う人だ……。そういうところが好ましいと思うが……。」
「好ましいねぇ……。」
「!!へっ!変な意味ではない!!」
これまた見た事もない動揺を見せるネヴァン。
面白くはあるが、見飽きてきたとミネルバは思った。
「いい加減、はっきりしろ。クーに惚れているのか?惚れていて側に置きたいのか?それとも単なる気遣いか?気遣いならお節介とも言う。」
「お節介……。そう……だな……。私がその方が良いと思っても、クーには余計なお節介かもしれぬ……。」
ズーン……と落ち込むネヴァン。
全く、舞い上がったり落ち込んだり忙しいヤツだと呆れた。
「で?どっちなんだ?ネヴァン。それによって、対応が変わる。」
「対応?」
「そうだ。お前が単なるお節介を焼きたいだけなら、それに対応できるように手を回しておく。だが、お前がクーに惚れていて側に置きたいとなれば、別の対応をしておかねばならぬ。」
冷静に状況を判断しているミネルバの顔をネヴァンは見つめ、そしてデスクに両肘を乗せ拳に額を押し当てた。
ネヴァンは動揺していた。
騎士に自分の天職を見出した時、自分は生涯、独身だろうと思った。
騎士だからといって夫を持つ事が許されない訳でもないし、同性と仮婚姻をする道も知っていた。
だが、異性にも同性にも、騎士として生きる事以上の魅力を感じた事がなかったのだ。
どちらにも言い寄られはしたが、騎士である事以上に愛せる自信がなく、丁重に断り続けていた。
だからそんな気持ちが自分の中に残っていた事にまず驚いたし、それに気付なかった事にも驚いた。
「……私は……クーを……。」
可愛いとは思っていた。
臆病な怯えた子犬みたいで放っておけない。
でも何より、あの無垢な瞳にキラキラと自分を見つめられると、喜びに胸が満たされ、高揚した気分になった。
そんな気分になる相手は、後にも先にもクーだけだ。
「……つまり……それは……。」
「結論が出たか。」
「……その様だ。」
愛しているのだと知ってしまった。
ネヴァンは、自分がクーを愛している事に気づいてしまった。
「……どうしたらいいんだ?ミネルバ?」
「知らん。」
「知らんだと?!さっき対応がどうと言っていたではないか?!」
「だから、そうなっても大丈夫な様に対応はしておく。だがな?惚れた腫れたで一番、重要な事は何だ?」
「一番、重要な事?」
「お前の気持ちはわかった。だがクーの気持ちはどうだ?二人の気持ちが同じでなければ、私がどう対応しようと無意味だろう。」
「そうだ!クー!!クーは?!クーは……私を……好いてくれるだろうか……。」
「……好かれてはいるだろうな?」
「本当か?!」
「だが、クーがそういう意味で誰を好きかなどわからんからな。何しろ数日前までは第二騎士団にいたんだぞ?すでに恋人がいても……。」
「恋人?!クーにか?!」
「だから、知らん。」
「待ってくれ!ミネルバ!!そんな事を聞いてしまったら!!気になって仕事が手に着かぬ!!」
「だから。その部分は自分でどうにかしろ。どの道、クーを口説き落とせなければ、その先も糞もないのだからな。」
「……口説く……クーを口説く……。」
「まぁ、アイツがフリーなのなら、お前なら簡単じゃないか?あっちこっちでたらし込んでるお前なら。」
「いや、そんな不埒な事はしておらぬ。」
「無自覚って怖いわ。ま、とにかくわかった。お前がクーを口説けたなら、一緒にいれる手立てを考えておく。」
「すまん。」
「せいぜい頑張ってクーを口説いてくれ。それから仕事もちゃんとしてくれ。いいな?ネヴァン。」
「わかった……。」
わかったと返事をしたネヴァンだったかが、速攻、書類の処理速度ががくんと落ちている。
ミネルバは肩をすくめ、自分の仕事に戻った。
去勢?!
ネヴァンとミネルバにお茶出しをして戻ったクーは動揺していた。
青ざめ微かに震えながら、玉ねぎの皮を剥き続ける。
第一騎士団全員を去勢……。
あの、騎士の最高位、国王直属の第一騎士団を……。
しかも10日あれば造作もないらしい……。
ブルっと身を大きく震わせる。
仕事にも馴染み、不思議とクーを男だと疑う人もおらず、上手くやっているつもりだった。
しかし思わぬところで現実を突きつけられた。
あまりにすんなり打ち解けてしまったし、仕事も楽しいし、下働きの皆も騎士たちも優しくしてくれるし、何より団長であるネヴァンがとても気さくな上、気品に溢れ、仕事も完璧で、率先して身を粉にして尽くしたいと思わせるのでうっかり忘れていた。
ここは男子禁制。
不埒な理由で侵入した男は死よりも苦しめられると恐れられるアルテミス騎士団。
その理由をクーは身を持って理解した。
騎士をクビになっても、貴族であるなら何らかの仕事はできるだろう。
けれど……男でなくなってしまったら……。
そしてそれが周囲の知る所だとしたならば……。
「……もう……生きていけない……。」
向けられるだろう哀れみと蔑みの視線を想像し、クーは半泣きになった。
半泣きになっても玉ねぎの皮を向いているので、誰もおかしいとは思わないだろう。
ぐじぐじと涙と鼻水を垂らし、それでも手だけは動かし続けるクー。
「……汚ねぇなぁ~、クー?!お前、スゲー顔になってっぞ?!」
その声に振り向くと、マッハが林檎を齧りながらクーを見ていた。
クーは慌てて涙と鼻水を拭いたが、玉ねぎの成分というのは、擦ると余計酷くなるのだ。
拭いても拭いてもでろでろなクーにマッハは大笑いする。
「マッバざま~笑いごどでばないんでず~!!」
「あははははは!!汚ねぇ!!滅茶汚ねぇ!!」
「も~!!」
散々馬鹿にされ、クーは落ち込んだ。
それをごめんごめんと軽く謝ってマッハは笑った。
そして大量に向かれた玉ねぎを見下ろす。
「今日の夕飯、何だ?!クー?!」
「今日はシチューだと聞きました。」
「マジ?!やった!!アタシ、シチュー大好き!!」
「ふふっ。マッハ様は何でも美味しく食べられるので、見てて嬉しいです。」
「そりゃね?アタシ、貴族のお食事ごっこは嫌いだもん。美味しい物は美味しく食べなくっちゃつまんないっての!!」
「ふふっ。そうですね。」
クーはマッハと話しながら、剥き終わった皮などを片付ける。
そして籠いっぱいの玉ねぎを持ち上げた。
「……手伝おっか?」
「いえいえ、マッハ様にこの様な事をさせる訳には……。」
「ふ~ん??」
重いであろう籠を持ち上げたクー。
それをジッとマッハは見つめた。
井戸近くの勝手口には他に人はいない。
マッハは言った。
「……クーってさぁ~??」
「はい?」
「男だよな??」
「?!」
マッハの言葉に固まるクー。
グギギ……と機械の様に硬直した顔をマッハに向ける。
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