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短編(1話完結)

あれは偶然だったのか……

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昔、神社の真隣のアパートに住んでいた。
不気味がる人もいるが、神様のいる場所なのに何が怖いのだろう?
変な話、お寺は確かに墓地なんかがあって怖いかもしれないけれど、神社が怖いというのが今ひとつわからなかった。

そのとてもこじんまりとした古びた神社は、とても由緒はあるのだが、何しろ古びたちっぽけな神社だ。
だから、観光客が来るって程でもない。
でも、七五三なんかの頃は土日は地域の人のお宮参りでそれなりに程々に賑わったりする。

とは言え、俺がちょっと勘弁して欲しいのは祭りの日と大晦日&三賀日だ。

祭りの日はで店がアパートの前の道路にまで伸びて、しかもああいうのはどうも場所が決まっているらしく、アパート前は必ずじゃがバターの屋台が出た。
そう、めちゃくちゃ油臭くなる。
そしてアパートの階段に座り込む輩が必ず出る。
一応、アパートの方に入れないようにロープを張ってくれるんだが、傍若無人な若者達がそんなもの守るはずもなく、次の日はアパートの周りはゴミだらけだった。(神社の名誉の為に言っておくが、主催団体はちゃんと夜にゴミ拾いをし、次の日もゴミ拾いをしてくれる。問題は立入禁止区域に入り込みゴミを植え込みや自転車置き場なんかに隠して置いていく若造だけだ。)

そして大晦日。
昔からある古い神社なもんで何故か境内に鐘があった。
そうくればもうわかるだろう。
除夜の鐘だ。
だが、除夜の鐘はいいんだ。
風物詩だし、真横で音はデカ過ぎるが、あぁ、年越しだなぁと思えるし、108回で終わる。
だが、年明け。
初詣に来た客が、時間関係なく打ち鳴らす事がある。
確かに鐘がそこにあったら突きたい衝動に駆られるのはわかる。
そして1回ぐらいと言う気持ちもわかる。
だが、それが10人、20人となってみろ!!
しかも悪ガキが調子こいてガンガンガンガン連続で鳴らしてみろ?!
常にその場で生活しているアパート住人は死ぬぞ。(もちろん鐘も「鳴らさないでください」と神社は張り紙をしてある)

とは言え、俺はそこでの生活が好きだった。
家賃も手頃で駅まで歩ける広いアパートだったし、何となく隣の神社が好きだった。
だから俺は物凄く快適な暮らしをしていたんだ。

だがある日。

真夜中、きゃあきゃあ騒ぐ女の甲高い声が聞こえる。
ボロいアパートだったんで、深夜にきゃあきゃあ騒がれればよく聞こえる。
どうやら素行の余暇なさそうな若者男女四人が、肝試しに来た様だった。

「は?ここ、更新したし住んで長いけど……肝試しとか馬鹿やりに来た奴ら初めてなんだけど?!」

確かに古びた神社は、街灯などがしっかり整備されている訳でもなく、それでいて緑も多いから若干、暗く鬱蒼としているっぽく見える。
でもその森っていうのも厚みがなく、ペラい森に過ぎなくて、昼間に見るとスカスカなのだけれども。
大体だ、この神社の前(つまり俺のアパートの前)の道は、混み合う主道路をショートカットする抜け道で、それなりに交通量もあるから、はっきり言って肝試しをするほどの場所ではないのだ。
なのにきゃあきゃあ女が騒ぎ立て、いきなり悲鳴を上げたり、大声を出したりとだんだん腹が立ってきた。

こじんまりとした古びた神社。

そりゃ人気もないし、観光地みたいに綺麗に整備されてる訳じゃない。
それでも地元の人に愛され、大事にされてきた神社なのだ。
真横に住んでいるだけだけれど、俺だって愛着のある神社なのだ。

何だかその大事な神社を、怖い怖いとキャッキャウフフと騒がれ、ムカムカしてきた。
大体、何時だと思ってんだ!クソガキども!!
俺は通報してやろうとスマホを手に取った。


その時だった。


ドドドーンッ!!と物凄い音がした。
そしてアパートが壊れるんじやないかという感じで一瞬揺れた。

俺も何が起きたのかわからず、固まった。
外のガキどもに至っては、それまでのキャッキャした悲鳴ではなく、マジの悲鳴を上げていた。

え……?
何??何が起きたんだ?!

部屋の中にいる俺は硬直したまま、耳を澄ます。
よくわからないが、もしもガキどもがヤバイ状況なら警察どころかまずは救急車を呼ばねばならない。

「何なになになに?!怖いよ!!」

「……嘘だろ?!」

「ウチら何もしてないよ!!」

「ヤバイって!!逃げろ!!」

パニックになって騒いでいる事から、どうやら無事の様だ。
そして恐怖のあまりなのか、言葉少なく走り去って行った。

俺はスマホ片手に考える。

あいつらが何かした、と言うのはまず考えられない。
ちょっと何かした程度の出来事じゃなかった。
だから通報する必要はないだろう。

なら……何が起きた??
あれだけの音がしたのた。
アパートが殴られたように軋んで揺れたのだ。


「…………………………。寝るか。」


俺はそのまま、外に出て確かめる事はせず、寝た。

確かにあれだけの音がした事やアパートが殴られたように揺れた事は怖かったが、終わってしまってあいつらがいなくなってしまったら、別に怖いとは思えなかったのだ。
外に出た所で真っ暗で、何が起きたかなんかわからない。
明るくなってから確認すれば済む話だ。

次の日。

休みだった俺は寝坊して、昼頃、チェーンソーの音で目を覚ました。
何だろうと外に出てみると、作業中のおっさんが俺に言った。

「あ!今、どかしてるんで、通るなら気をつけて!!」

目の前にあったのは、太い木の枝だった。
ていうか、枝ってレベルじゃないヤツ。

俺は神社とアパートの間に立っている銀杏の巨木を見上げた。
昔、銀杏の木は葉の水分が多くて燃えにくいからと、神社仏閣を火災から守る為によく植えられたと聞いた事がある。

その巨木の大枝が折れて落ちていたのだ。
恐らく神社が建てられた頃に植えられたであろう銀杏の巨木。
もう神社と同じく年代物だから、古びた木は中に空洞ができたりしてこういう事が起こるのだ。

「…………………………。うん。」

俺はおじさんに挨拶してドアを閉めた。
全部落ち着いたら、お隣の神社にも挨拶に行こう。

「流石だよな……。これだけ電線なんかがあちこちにあるってのに、あの大枝、一本も切らなかったんだから……。」

俺はお湯を沸かそうとヤカンを火にかける。

まさに神業。
文字通り、神のなせる技。

「ちまくってボロい神社だけどさぁ~。お隣、かつてはここいら一帯の主みたいな神社だったんだよなぁ~。」

今ではそんな威厳は見せないが、やはり……。

古い銀杏の巨木だ。
いつ折れてもおかしくなかったのだろう。

ただ、それがあの時に折れたというのは偶然か……。


「神様は、怒らせるもんじゃないよ、全く……。」


俺はコーンスープを入れてぐるぐるかき回しながら、そう思った。
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