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短編(1話完結)

午前3時 ※

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午前3時になると、必ず起こることがある。

冷蔵庫が開いて……閉まる。
ただそれだけだ。

初めて見たのはストレスで眠れなくて、暗い部屋で布団に寝転んたままじっとしていた時だった。

「ガチャ…」

いきなり音がした。
見ると冷蔵庫が開いている。
庫内から光が漏れているので間違いない。

何で開いたんだ??

その時はよくわからずそれを見つめていた。
不思議と怖いとは思わず、ぼんやり見つめていた。

だが開けっ放しは電気代に優しくない。
仕方がないから閉めに行かないとなぁと思っていたら……。

「ガチャ…」

冷蔵庫が閉まった。
この瞬間、俺は飛び起きた。

ドッドッドッと重い心音が体の中に響く。

しん……と静まり返る部屋。
開いた分、冷却しようと冷蔵庫のモーター音が微かに響く。

え?!今の何?!

そのまま固まる。
少ししてから勇気を振り絞って立ち上がり、部屋中の電気をつけた。
当然だが誰もいない。
その日は眠れなかった。

それが始まり。

はじめは怖がっていたが、それ以上の事は起こらない。
今日も夜更しして酒とつまみを噛りながらゲームをしていたら……ガチャ。
冷蔵庫が開く。
俺は横目でそれを見る。
特に見ていようがいまいが、午前3時になると冷蔵庫が開く。
幽霊なのか何なのかは知らないが、俺の事はお構いなしだ。
律儀に毎日、午前3時に冷蔵庫を開けて……閉める。
ガチャ…と音がして冷蔵庫が閉まった。

なれきってしまった俺は、チー鱈を口に加えながらぼんやり考えた。

これってどういう事なんだろう??
様々な可能性を考えてみる。

①幽霊が毎日、冷蔵庫を開けている。(理由は知らん)
②冷蔵庫の中から何かが出てきている。(何かは知らん)
③冷蔵庫の中から、何かがこちらを覗いている。(何かは知らん)
④開ける奴と閉める奴がいる。(何故かは知らん)
⑤ちょうど冷蔵庫の辺りを毎日通る奴がいて、毎日冷蔵庫に打つかってドアを開けてしまい、閉めに戻ってくる。

「……はぁ、考えても無駄か……。」

恐ろしい心霊体験も嫌だが、こうもこちらにお構いなしに毎日午前3時になると冷蔵庫を開け閉めしてくれるとなると、何とも虚しくなるのは不思議だ。

ある日、友達が泊まりに来たのでその事を話した。

そしたらそいつが面白がって、冷蔵庫をガムテープで開かないように念入りに止めてしまった。
馬鹿な事をやってるなぁと思ったが、俺は慣れすぎていたので特に気にせず眠った。



だが……。



何か騒がしくて俺は目を開けた。

ガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタガタ……!!

ぎょっとして飛び起きた。
ベッドの下に布団を敷いて横になっていた友人は真っ青になってガタガタ震えている。

時計を見ると午前3時15分。

いつも冷蔵庫はただ開いて、閉まる。
だが今日はガムテープで固定されているせいで開かず、冷蔵庫本体がガタガタガタガタ揺れている。

「えっ?!」

俺は思わず声を上げた。
だっていつもは午前3時に開いて閉まる、それだけだ。
なのに冷蔵庫がガタガタいっている。
午前3時15分だと言うのに。
声を上げた俺を勢い良く友人が振り返った。

「やっと起きたのかよ!!何とかしろよ!!」

ガタガタ震える友人は、俺に涙目ですがり付いてきた。
何とかしろって……お前がやったんだろうが……。
少し呆れる。
俺は慣れすぎているのか、驚いたけれどそこまで怖くはなかった。

「お前、起こしても起こしても起きなくて……!!」

半泣きの友人は、俺のベッドに上がり込んで掛け布団をかぶって丸まってしまった。
無責任な奴だな……。
だがこのまま冷蔵庫をガタガタガタガタ言わせていたら、苦情が来るかもしれない。
俺は仕方なく、友人に呆れながら立ち上がった。

「何だか知らないけどちょっと落ち着け。友達が悪ふざけしてガムテープで開かないようにしたんだよ。今、外してやるから、ちょっと待ってろ。」

そう声をかけると、冷蔵庫はゆっくりガタガタ言わなくなった。
俺はベタベタにくっついたガムテープを外していく。

「ほら、取ったぞ。いつもみたいに開けて閉めろよ。」

なんの気なしにそう言った。
だが俺はその時、致命的なミスをした。

俺はこれを生涯後悔する事になった。

ガチャ…。

いつものように冷蔵庫が開いた。
俺の目の前で、冷蔵庫が開いたんだ。



「!!!!」



俺は中を見てしまった。
本当に恐怖に襲われた時、声は出せないのだと知った。




そこには、女の頭が入っていた。




俺を見て、笑った。
その口が動いている。

音はしない。

だが、何と言っているのか頭に響いた。



『ありがとう。1日1回開けないと、息苦しいのよ……。』



俺はその後の事を覚えていない。
友人曰く、突然、バタンと音がして、俺が倒れていたそうだ。

当たり前だが、あの冷蔵庫は処分した。

あの生首が何だったのか、冷蔵庫が曰く付きだったのか、そんな事はどうでも良かった。
とにかく二度と見たくない。
それだけだった。

今でも俺は冷蔵庫が怖い。

生活に不便だから仕方なく小さな引き戸式の物を買ったが、使わなくて済むならなくしたい家電ナンバーワンだ。
そして部屋の電気は消しても、キッチンの電気は消さない事にしている。

ブー……ン……。

夜中、あの微かなモーター音が聞こえると眠れなくなる。

午前3時。
あの女が何だったのかは、今でもわからない。
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